34、あなたなら助けてくれるって信じてる!
白い巨大クマと対峙した私は、防御魔法を自身にも掛ける。
これで問題ないはずだ。
白いクマは獲物を捕獲できなかった原因が私だと理解したのか、私目掛けて走ってくる。その目は血走っており、怒りに支配されているように見えた。
私は白いクマを睨みつけ、ギリギリまで相手の様子を観察する。すると、相手が大きく息を吸い始めた。何かが来る! と判断した私は、息を吸い終えた瞬間、風魔法と身体強化を利用して右に避けた。
すると、その数秒後に白いものがクマの口から吐き出される。地面を見てみると、そこにあった草が凍っていた。
どうやら、あれはなんでも凍らせるブレスのようなものらしい。
危ない。
もしあの時避けていなければ、防御魔法が凍らされていた可能性も否定できない。
ジャックさんが言っていたのだ。防御魔法も絶対というわけではない、と。
術者の魔力の練度や魔法の発動に使用した魔力量などによっては、防御魔法も壊されてしまうことがあるらしい。同じ力であれば相殺されるだけだが、こちらが弱ければすぐに壊れてしまうのだ。
私はすぐに頭の中でイメージを浮かべる。
私が浮かべたのは氷だ。氷柱のように鋭い形の氷。それがあの白いクマに向かって飛んでいく様を。
「氷の槍」
無詠唱でも問題ないけれど、ここは簡単な詠唱を使用する。
兄妹が見ている、ということもあるのだけれど、詠唱を利用するとより強度が増すことが実験の結果でわかっているからだ。
元々詠唱というのは、頭の中で使用する魔法のイメージが定まらない時、それを補強して魔法として成り立たせるという役割を持っているのだとジャックさんが言っていた。
それならば、しっかりと想像ができた上で詠唱したらどうなるのだろうか、と疑問が浮かんだのである。
私はそこで自分の魔法で実験してみたのだ。
すると『詠唱を使うと、より強度が増した』という結果を得ることができた。ジャックさんもこのことについては知らなかったらしく、「大発見だねぇ」と驚いていたけれど。
鋭利な刃物のように尖った氷が、白いクマへと目にも留まらぬ速さで進んでいく。
幾つかは白いクマに叩かれ落とされてしまったが、それ以外は白いクマに当たる。しかし毛皮が厚いのか、かすり傷程度しか与えられなかった。
白いクマは私の攻撃が取るに足らないものだと思ったのか、余裕そうな表情を浮かべて私を見ている。
むしろ私を獲物だと考え、あの兄妹のように私も甚振ろうと思っているのかもしれない。私は一歩、また一歩後退りをする。白いクマは私が後退するのを見て、打つ手がないと判断したのか、更に口角を上げて私を追い詰めようとした。
――しかし、そうは問屋が下さない。
左の目の端に映る黒いものを見つけた私は、残っている魔力ほぼ全てを使う。
「氷牢」
私の言葉に白いクマは一瞬身構えたが、相手は何も起こらないと判断したようだ。ほくそ笑んだ白いクマは、私を捕まえようと手を挙げ、一歩踏み出そうとした――が。
その瞬間、気がついたようだ。足が動かせないことに。
私はその隙に数歩後ろへと下がる。どうやら先ほどの詠唱が、空撃ちでなかったと理解したらしい白いクマは、氷牢を壊そうと叫びながら暴れているが、氷はびくともしない。
それはそうだ。私の残っている魔力を捧げたのだから。すぐに壊れてもらっては困る。
そして、白いクマの動きを止めている間に――。
そう考えていると、私と白いクマの間を、何かが猛スピードで駆け抜ける。その風で私の前髪がふわりと持ち上がるほどの速さだ。風が通り過ぎ、私の髪が元に戻るのと同時に、目の前の白いクマの首から血が吹き出していた。
白いクマはそこに来て、やっと自分の首が切られたことに気がついたのだろう。私の氷牢を抜け出そうともがきながら、何度も遠吠えのような声を上げる。
しかし彼の奮闘虚しく、最後は先ほどの場所とは反対側から再度切り付けられたことで、白いクマの首は地面に落ちたのである。
私はクマの首が地面に落ちる音を聞いた後、すぐに探索魔法をかける。もうこの付近にはこの白いクマのような魔獣はいないようだ……そう判断した私は、緊張の糸が切れたこともあり、地面へと仰向けに寝っ転がった。
寝転んでしばらくして。
疲れから目を瞑っていた私に、声を掛けてきた人がいた。目を開けると、見覚えのある黒髪が見える。
「大丈夫か?」
エクスだ。やっぱり助けてくれた、と思った。
氷の槍が効かなかった時点で、私だけではあの白いクマを倒す手立てはなかった。けれど、エクスならきっと討伐できるだろう、そう思ったのだ。
口で伝える時間はなかったけれど……身体強化と風の魔法を利用して、より早く走る方法を教えてくれたのもエクスだった。だから、私がそれを利用して走り出したのなら、緊急事態が起きたということに気がついてくれるだろう。そう思った。
「うん、大丈夫。ちょっと疲れただけ」
「いや、相当疲れているだろう? あの魔法を放ったから、ほぼ魔力が無いんじゃないか?」
どうやらエクスには見抜かれているらしい。
「ああ、バレてる? 今ちょっと動けないんだよね……」
「当たり前だ。いきなり大量の魔力を使えば、誰だってこうなる」
師匠から聞いていただろう、と呆れた様子でエクスは話す。
「うん知ってたよ。けど、あの場であの子たちを助けられるのは私しかいないじゃない? きっと足止めしておけば、私を追ってきたエクスがどうにかしてくれる、と思ったから……全力を出したんだよ」




