28、あんの若造は!!!
本日二話目です。
「良い店がある」とエクスに言われた私は、彼の後ろを付いて歩く。
大通りにはいくつかの武器屋が並んでいたけれど、彼はその武器屋には興味がないのか、一瞥することもなく進んでいった。
しばらくすると、細い道に入る。裏通り……いや、脇道と言った方が良いだろうか。人がまばらになってきた頃、エクスの足が止まった。
「ここだ」
そう言われて私も振り向くと、目の前には普通の一軒家にしか見えない建物だった。掲げてある看板に『杖専門店』と書かれているので、店舗だと理解できるけれど……多分看板がなければ、ただの家と勘違いするだろう。
エクスは勝手知った家のように扉を開けて、店へと入る。私も彼の後に続いて店内へと足を踏み入れると、少々薄暗い。中を見回してみると、壁にも棚にも所狭しと杖が飾られている。
雰囲気のあるお店だなぁ、なんてキョロキョロと顔を動かしていると、奥から声が掛かった。
「おやおやぁ……また珍しいお客さんだね。エクス、ここに来るなんて久しぶりじゃないかい」
「ちょっと見て欲しいのがあってさ。婆は元気そうだな」
「お陰様で長生きしてるよ……と、おや? 用事はもしかして後ろの可愛い女の子かい?」
杖を見ていた私は、その言葉に店員さんの方へと顔を向ける。
「マリと申します。よろしくお願いします」
ぺこり、と頭を下げると、店員さんは『カッ』と擬音が付きそうなほど一気に目を開いた。そして私を指差してから、ゆっくりとエクスの顔を見る。
「エクス……お前、こんな礼儀正しいお嬢ちゃんを、どこから攫ってきたんだい?」
「攫うわけないだろ!」
間髪入れずに声を荒げて否定したエクスだったが、店員さんは訝しげな表情で彼を見つめている。
「このお嬢ちゃん、お貴族様だろう? なんでお貴族様がこんな辺鄙な場所に来てるんだよ、ということさ」
私は驚きに目を丸くする。髪色も変え、目の色も変えたので、気づかれないとは思ったのだが……。私の表情の変化を見た店員さんは、肩をすくめて言った。
「まあ、他の人から見れば『どこか良いとこの商家のお嬢さん』にしか見えないから大丈夫さ。私は特殊だから、そこまで心配しなくて良いよ。ああ、事情は聞かないよ。一応アタシが見抜けるよってことは伝えておくべきだと思ってねぇ」
その言葉を聞いてからエクスを見ると、彼も首を縦に振っていた。
「ああ。婆の言う通りだから、マリは心配しなくて良い。そもそも、お貴族様って気づかれていたら、ギルドでナンパされることなんてないからな」
「おや、ナンパされたのかい? お嬢ちゃんは可愛いから仕方ないね。エクスも気が気じゃないだろうね」
笑って話す店員さんに、エクスは眉を顰めてからそっぽを向く。その様子を見た彼女は私に向けて両方を上げた後、話を続けた。
「さて、戯れはここまでにして。アタシはポーラ。この街で杖を作っているのさ。さて、お嬢ちゃんの杖を見せておくれ」
私が戸惑いながらエクスを見ると、彼は何を考えているのか察したらしい。額に手を当てながら、小さくため息をついた。
「婆なら大丈夫だ。むしろ見せてやってくれ」
エクスが言うなら大丈夫だろう、と私はポーラさんに許可を得て、鞄を机の上に置いた。最初は鞄を見て「おやおや、またあの若造はこんなものを作ってたのかい?」と言っていた彼女だったが……鞄から取り出した杖を見て、頭を抱えた。
「えっと、ポーラさん……どうしましたか?」
私が思わず声を掛けると、髪の毛が持ち上がるほど勢いよく顔を上げる。そして私の持つ杖を睨みつけた後、エクスへと顔を向けた。
「ちょいと! あの若造はなんてモノ作ってるんだい!」
「俺に言うなよ。『前作った物を流用して――』って本人は言ってたが」
ポーラさんの変わりようを見て、私たちは察した。やっぱり只の杖ではなかったのね……。
彼女に言われて、私は杖を手渡す。すると、ポーラさんは鼻を一度鳴らした後、ぶつぶつと呟き始めた。
「本当にあの若造は……見せつけてくれるねぇ。アタシだってこれでも、この国で一二を争うほどの腕前と言われているんだけどさぁ……これを見せられたら、王族と庶民くらい差があるじゃないか……」
ポーラさんが教えてくれたのだけれど、相当ヤバい代物であるということが判明する。
杖の作成工程しかり、杖の出来まで、一級品以上の物だと言っていた。
そもそも、この杖に使われている材料自体が問題なのだとか。
「これはね、竜の骨さ。しかも多頭竜のね」
「多頭竜?」
「複数の頭を持つ竜のことだ。頭部を何度潰しても再生する厄介なやつだ」
複数の頭、頭が何度も再生するという話を聞いて、ふと私はあるモンスターが頭に思い浮かんだ。
……うーん、もしかして日本でいうヒュドラのことかな?
そのヒュドラらしき竜は、どうやらラクリスのダンジョンの最下層にいるらしい。つまり、ジャックさんは竜を倒した骨で作ったってこと?
え、まさか一人で……いや、あの方なら片手で瞬殺しそうな気がする。なんて一人納得していると、ポーラさんが話を続けた。
「先代賢者が数十年以上前に単独で多頭竜を倒していてね。その時に多頭竜の素材が市井に出回ったことがあったのさ。多分その時に先代が取っておいたのかもしれないねぇ」
「先代賢者様ってそんなにすごい方だったのですか?」
「ああ。今の若造も国一……いや、大陸一と言われているけれど、彼と比べても数倍の魔力を持っていたねぇ」
「数倍……」
私でさえジャックさんとの魔力量はそこそこ差があるのに。先代賢者様の凄さが窺える。
エクスも初めて先代賢者様について話を聞いたらしく、二人で唖然としていると、ポーラさんは何かに気がついたのか、私を見て目を細めた。そしてしばらくすると目を見開く。
「よく見たら、そのローブも何かしらの魔術が掛かってるじゃないか! 本当にあの若造は……」
ため息をついたポーラさん。そして私から、このローブに掛かっている魔法が『認識阻害』というモノであることを聞いて、更に肩を落とす。彼女は「ちょっと待ってな」と私たちに伝えてから立ち上がると、奥の部屋へと入っていく。そして戻ってきた時には、黒い何かを手に持っていた。
「これ、アタシの娘が作った試作品ローブなんだけどさ、アタシは妙に身体に合わなくてねぇ。もしマリさんに合うようだったら、使ってもらえないかい? あ、お代はいらないよ」
そう言って渡されたローブは、どこのほつれもなくまるで新品のように見える。私も袖を通してみると、丁度良い大きさだった。話を聞くと、どうやらポーラさんは袖を通してそのまま着ていないのだとか。流石にそれはできないと告げると、彼女は私の慌てようを気にすることなく、のんびりと話す。
「娘が試作品だって言って頻繁に送ってくるからねぇ。着てはいるんだけど、まだ五着あるんだよ。それに、杖も買っていくんだろう? 流石にあの若造から渡された杖は、表で使わない方がいいね。ローブはそのおまけってことで。エクスや若造には色々素材の件で世話になったから、そのお返しさ」
エクスたちのお返しを私が受け取ってもいいものだろうか、そう思ってチラリと彼を見ると首を縦に振っていた。ありがたくお言葉に甘えた私は、受け取ったローブを鞄の中へとしまっておく。
明日からはこのローブを着ていこうと思う。
「そのローブもね、簡易的な魔術が掛けてあるらしいんだけど……すまないねぇ、どんなのかは忘れてしまったよ。普通のローブとして着てくれると助かるね」
「ありがとうございます」
その後、私はポーラさんにお勧めされた中級者用の杖を購入してから、店を後にした。




