26、エクスも普通じゃないのかもしれない
本日二話目です。
最終的には軽い認識阻害の魔法だけを付けてもらったローブを受け取った。エクス曰く、それだけでもヤバい代物らしいけれど、ジャックさんの魔法を見破る人はなかなかいないだろうとのことで、受け取ることにする。
「そうだ!」と言ったあとに、ウエストポーチももらったのだけれど……これもジャックさんお手製の魔法を利用した物なのだとか。
「この山ひとつ分は軽々入るよ」と笑って告げるジャックさん。それを聞いた私はまるで壊れたロボットのような動きで、エクスを見た。
彼は私の言いたいことを理解していたのだろう。肩をすくめて左右に首を振る。
「これはエクスにも渡しているから大丈夫だと思うな〜。ちゃんと盗難防止もしてあるから」
私は改めてジャックさんへと顔を向けてから、ゆっくりと首を右に傾けた。
ジャックさん曰く、例えば私がポーチを落としたとしても……一定時間私から離れると、手元に戻ってくる魔法を掛けているとのこと。
いやいやいや、これこそ国宝級じゃない?
私はエクスへと話しかける。
「これもいいの?」
「まあ、手元に戻ってくるなら良いんじゃないか?」
私は思った。
……多分、エクスも世間との感覚が違いすぎるタイプかもしれないわ。
最後に杖も渡されたが、受け取って良いものか……これも大層な物で作られているのでは……と思うのも無理はないでしょう。けれども、私もエクスも杖の価値を正直理解できないのだ。
戦々恐々としつつも、魔術師なのに杖を持っていないのもおかしいので、私はありがたく受け取った。
翌日早朝。
私たちは山を降りるために、日の出前に身支度を終えていた。朝が弱いはずのジャックさんも、目を擦りながらではあるけれど、小屋の入り口まで出てきてくれる。
そのことにエクスは驚いたようだ。
「師匠、早く起きられるんですね?」
「僕だって弟子たちが出立する時ぐらい、早く起きられるよ〜」
「いや、今までは毎回見送りがありませんでしたけど……」
心当たりがあったのか、ジャックさんは引き攣った笑いを見せている。ああ、これはエクスの話が事実なんだろうな、と私は目を細めたが……ちゃんと起きて見送ってくれたジャックさんに追い討ちをかけることはしない。
「色々と教えていただき、ありがとうございました」
感謝を告げるのと同時に、私は頭を下げる。するとジャックさんは少し驚いた表情をしてから、私に柔らかく微笑みかけてくれた。
「僕もひまりさん……いや、これからはマリさんだったね。マリさんと過ごせて楽しかったよ。こちらこそ、ありがとう。エクスをよろしくね」
「はい! 分かりました!」
「いや、俺が世話する方だと思うんだが……」
私はジャックさんと笑い合っていたので、エクスの言葉は耳に入らなかった。実はあのあと聞いたけれど、日本で生きていた私の方が、エクスより一歳上なのよね。何かあった時は、私がエクスを助けないと。
そう心の中で気合を入れていると、エクスはジャックさんに声を掛けていた。
「師匠、あの転移陣は使っても大丈夫か?」
「ああ、問題ないよ。使うといい」
そう言ったジャックさんは、私が知っている転移陣の場所とは違う方向を指している。エクスにそのことを伝えると、冒険者登録をしたフォレスタの街以外の場所に繋がる転移陣なのだという。
私はその事実に驚きながらも、エクスと共にジャックさんに最後の挨拶をしてから、新たな転移陣へと向かう。それをジャックさんは手を振って見送ってくれた。
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「ありがとうございました!」
「師匠、また来る」
そう言ってマリとエクスは、ジャックに背を向けた。
二人は何度も小屋を振り返りながら、そこに佇んでいた彼に向けて手を振ってくる。だからジャックも、彼らが見えなくなるまで手を振り続けた。
二人を目で追いながら、彼は三人で暮らした日々を思い出す。
――久しぶりに楽しい時間だった、そう彼は思った。
昔エクスと一緒にいた時間も楽しかったけれど、その楽しさとはまた違っている。
彼女は魔法の天才だ、とジャックは感じていた。
世の中に知られていないが魔法は頭の中でイメージさえできれば、呪文が拙くても魔力操作が上手くなくても、意外と使えたりする。
彼女の前世がどのような世界だったのかは分からないが、彼女は色々なことを知っていた。特に魔法のイメージは前世でいう『化学』という分野の知識を利用しているのだとか。
それがあったからだろうか……自分の理論を理解してどんどん吸収していくマリに、ジャックは心踊った。あんなに教え甲斐がある生徒は初めてだ、と思う。
今までのことを思い出しているうちに二人の姿が見えなくなる。
ジャックは二人が消えた場所をじっと見つめていた……そんな時。彼の頬をふわりと一筋の風が撫でる。彼は何かに気がついたように、空を見上げた。
「すまなかった、スタージア」
ぽつりと漏れた言葉は、誰にも聞かれているはずがない。
けれども、まるで彼の言葉に応えるかのように、また一筋の風が通り、ジャックの長い髪を揺らしていった。
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