幕間 グレース視点
「わぁ、乙女ゲームと同じね!」
私の目の前には、ゲームでよく見た屋敷が建っていた。私は今日から公爵令嬢になるそうよ。
あ、もう察してるかもしれないけれど、私、転生者なの。
この世界は前世の日本で遊んでいた「聖約の乙女と堕ちた者たち」という題名の乙女ゲームで、世界に厄災をばら撒こうとする邪教に抗っていく……どちらかと言えばRPG要素が強いゲームね。
主人公である私、グレース・ミュレーズは元々伯爵家の娘だ。
フォンセ公爵家は私たちの寄り親なのだが、今回内々で十四歳になる息子娘たちは、先に儀式を行うよう通達がきた。
まだ十四歳なのだが、儀式自体は教会で依頼すれば受ける事はできる。そのため私も先立って教会で儀式を受けたのだ。すると、私の魔力量が今の時点で歴代最高値を叩き出したらしい。その事を知った公爵様が私を養子に迎えたのである。
聖乙……「聖約の乙女と堕ちた者たち」の略ね。聖乙でも私の魔力量に注目した公爵様が養子として私を受け入れる……この場面はあった。けれど、少し早い気がするのよねぇ。
ゲームのグレースが儀式を受けたのは、十五になる歳。そう、来年なのよ。一年早いのよね。
時期が早く来た事に私は首を傾げたのだけれど、私はすぐに切り替えた。これならゲームのシナリオを変えられるかもしれない! と思ったのだ。
公爵家にはグレースの義姉になる『スタージア・ド・フォンセ公爵令嬢』がいる。彼女は王太子殿下の婚約者……最有力候補で、今後学園で起こる事件に必ず関わってくる人物だ。
ゲームではグレースと王太子殿下が仲良くなるにつれて、スタージアは嫉妬を隠せなくなり、グレースを虐めるようになるの。そして途中から仲良くなった商人に丸め込まれて、学園内に魔獣を忍び込ませたり、病気を流行らせたりしてしまう。
それを解決するのがグレースと攻略対象たち。事件を起こす度に攻略対象と仲良くなるグレースを見て、嫉妬に駆られたスタージアは、最初の事件を起こしてから一年後に悪魔を召喚するのだ。
それに対峙するのがグレースと攻略対象。
だが、そこで悲劇が起きる。悪魔は召喚者であるスタージアの身体を乗っ取ってしまうのだ。感情が憎悪に染まっていたスタージアは悪魔に居心地が良かったのかもしれない。すぐに魂が融合してしまい、悪魔を殺すためには同時にスタージアを殺さなくてはならなくなってしまった――。
私、そんなシナリオ嫌だもの!
傲慢かもしれない。けれど相手が死ぬと分かっていて助けないなんて……絶対後悔する! だからスタージアを助けるのよ!
私は意気揚々と公爵家へと入っていった。
数日後。
私は食堂で食事をしながら首を捻っていた。
気合を入れて公爵家に入ったはいいが、誰もいない。比喩ではなく、本当に誰もいないのだ。
いるのは使用人だけで、義父となる公爵様もおらず、仲良くなりたいと思っているスタージアすら顔を合わさない。
義父は現在領地の見回りのため外出していると執事が言っていた。あと数日ほどで帰ってくるだろうとも言っていた。
それよりも何故スタージアがいないのか。
十五歳の儀式から一ヶ月も経っていない。だから学園に行くのはまだ早いはず……。
使用人にそれとなく聞いてみても、お茶を濁すだけ。
見兼ねた私は、慌ただしそうに仕事をこなしている執事を捕まえて、スタージアの居場所を教えて欲しいと懇願した。
最初は躊躇っていた彼も、私のお願いに根負けしたらしい。彼から聞いた事を内緒にするという約束で、こっそり教えてくれた。
「スタージア様は儀式で魔力なしと判断され、公爵家から除籍されました」
「除籍……?」
私は頭が真っ白になった。除籍……除籍って、追い出されたって事?!
詳しく訊ねようと執事に声をかけようとするが、私が呆然としている間に去ってしまったらしい。どうやら追い出されたせいで、もう既にスタージアはこの家にいないらしい。
「え、公爵様鬼でしょ? 貴族として生きてきたスタージアを追い出すなんて……」
そこから専属の侍女エリーを捕まえて、その事を訊ねると彼女は戸惑いながらも小声で教えてくれる。
どうやら元々スタージアには平民の護衛が付いており、スタージアが追放された後、その護衛も辞職したらしい。多分二人は一緒なのだろうという事だった。
まあ、平民の護衛と一緒なら追放されても大丈夫そうよね……と考えてふと思う。
ゲームのスタージアに護衛は付いていなかったわ。それに、魔力がゼロってどういう事? ゲームのスタージアは高スペックで、学園内でも片手に入るほどの魔力量を持っていたはずなのに……。
「最初から、ゲームのシナリオ外れてるじゃない……もしかして全部の事件が発生しないんじゃ……いや、注意はしておいた方が良いわね」
この時私は攻略対象と仲良くなり、協力できる体制を作っておく必要がある事に頭を悩ませていたから知らない。
本当にほぼ全てのシナリオにあったイベントが発生しなくなり……そのフラグを潰していたのが、冒険者として旅していたスタージアである事を。
ここまで拙作をお読みいただきありがとうございます。
第一章がこの話で終了しましたので、一旦ここで更新をお休みします( ´ ▽ ` )
まだまだ続きますので、楽しみにしていてくださると嬉しいです!




