23、変な人に絡まれちゃった……
避けよう、そう思った私が首を傾げていると目の前にいるガタイの良い男性が顔を近づけて話しかけてきた。
「お嬢ちゃん、さっき冒険者登録したのかい?」
「え、そうですけど」
相手の男性と後ろの連れの男性たちは、私を上から下までじろりと舐めるように見る。そんな彼らの行動に私は皺を寄せる。
ああ……きっとパーティメンバーに入らないか、っていう勧誘よね? 声をかける相手を見るような目ではないように思えるのは気のせいだろうか。いや、気のせいではなさそうだ。後ろの男性なんかは、私を欲情した目で見ているようにみえる。
もし私が一人で来ていたとしても、この人たちの仲間にはならないだろうな、と思った。だって、視線が失礼だもの。
「お嬢ちゃん、魔術師なんだろう? 良かったら俺らとパーティを組まないか?」
「パーティ、ですか? 間に合っています」
思った通りの展開に、鼻で笑いそうになる。けれども、流石にここで相手をイタズラに刺激するのは、良くないわよね。
素通りしようと足を踏み出そうとする。しかし、彼ら三人が扉の前を占領しているため、私は扉へと辿り着く事ができなかった。思わず眉間に皺を寄せていると、目の前の三人がゲヘヘヘ、と笑い出す。
「おいおい、嬢ちゃん。素通りは良くないんじゃないのかぁ? 先輩の話はありがたく聞くのが筋ってもんだ。お嬢ちゃんは魔術師だろう? ちょうどいい。こいつが魔術師なんだ。俺たちと組めば安心だぜ?」
「おうおう、俺が手取り足取り教えてやるよ!」
声を上げたのは、左側にいる男性。彼がどうやら魔術師らしい。
「ヒヨッコ一人じゃすぐ死ぬんだ。俺らが面倒見てやるから、悪い話じゃねえだろ?」
真ん中の男の言葉が終わると同時に、ガハハハ、と下品な笑いが周囲に響いた。なんだろう……小物っぽい。いつの間にかギルド内も静かになっていて、私たちに注目しているようだ。ギルドの受付のお姉さんが慌ててやってきて、私を庇おうとしてくれたけれど――。
「いや、どう見ても勧誘してるだけだろう?」
そう言われてしまい、引き下がるしか亡くなってしまったようだ。なーにが勧誘よ。気色悪い視線で私を見ているくせに。
なんでこんな男たちに付き合わないといけないのかしら。私、もっと魔法の練習をしたいのだけれど……と考えるうちに、段々と苛立っていく。この男たちは私がメンバーになる、というまでここから立ち去るつもりはないようだ。
脅されて契約書を書かされたから、返品しまーすなんていうクーリングオフなんて制度はこの国になさそうだし……これは逃げた方が早いかもしれないわ。そう思った私は相手に気づかれないよう目だけを動かす。両側に窓があるけれども、私の身長だと両方とも厳しそうだ。
そういえば、説明事項の中に過度な勧誘は指導が入る、と書かれていたのを思い出した。勧誘を受けている張本人が受付に助けを求めればいいじゃない! そうすれば受付のお姉さんも動けるはずだ。
私は今だに気持ちよさそうに喋り続けている男性に背を向け、受付へと走り出そうとした。けれども、そんな私の行動を止める者が……。
男たちは私の行動に察しがついたのか、魔術師の男が私の進行方向を遮った。そこで狼狽えていたのが良くなかった……いつの間にか退路を塞がれていたのだ。
「まだ話は終わってないぜ?」
「お嬢ちゃん、先輩の話は最後まで聞こーねー?」
中央の男と魔術師の男がニタニタと話す。いやいや、私の周囲を囲って話すのは流石にダメじゃないかな、と思って受付のお姉さんを見るけれど……どうやら私が「嫌だ」と言わなければ動いてくれないようだ。
空いている場所から出ようとした私だったけれど、逃げようとした時に左腕を掴まれてしまった。
「ダメじゃないか。先輩は敬うもんだってしっかり指導してやらないとなぁ、みんな」
魔術師の男ともう一人の男も「そうだな」と同意していた。流石に非力な私では彼の腕は振り解けない。どうしようか、と途方に暮れていると、急に私の腕が自由になる。
それと同時に、「痛ってーなー!」という声が響き渡った。
強く握られた手首が痛い。彼らは暴力で私を従わせようとしていた事に今更ながら気づく。その恐怖に身体が固まっていると、すぐ側から聞き慣れた声が耳に入ってきた。
「マリ……言っただろ? 『知らない誰かに声を掛けられたら、ふらふら着いていきそうで』って」
「いや、着いていってないけど……」
そう彼の顔を見て話すのが精一杯だった。暴力を振られるかもしれない、という恐怖は可愛いものだった……と今ここで理解する。エクスの顔には普段の温かみが一切なく、表情が抜け落ちている。そう、私が初めてエクスと出会った時と同じくらい、彼の周囲は殺気に満ち溢れていた。
エクスが只者ではない事に気がついたのか、三人は一歩後ずさる。それでも私を諦め切れないのか、中央の男はエクスに手を掴まれたまま、声を上げた。私に話しかけた時よりも、心なしか勢いが無くなっている気がする。
「な、なんだよ! ただ俺らは勧誘していただけだ! な、そうだろ?」
魔術師ともう一人の男に同意を求める真ん中の男。二人も壊れたロボットのように頭を何度も縦に振っている。
「そもそも、お前は誰だよ? このお嬢ちゃんになんか用があんのか?」
エクスが喋らないことをいい事に、男は捲し立てた。周囲は新たに現れたエクスに興味津々だ。野次馬たちが見守る中、エクスへと畳み掛けるように話す男だったが……痺れを切らしたのか、エクスに身体を向けて、命令した。
「お前、ジェイド級のバルゴ様を知らないのか?」
「知らん」
「なんだと?!」
間髪入れず答えたエクスに、バルゴは声を荒げた。どうやら頭に血が昇りやすい性格のようだ。エクスを殴ろうと、反対の手を上げた瞬間――。




