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数日で生活魔法を使えるようになった私は、攻撃魔法の訓練を進めていた。
今でも忘れない。初めて水が出てきた時の感触。
水を丁寧に思い浮かべながら、両手に魔力を溜めていた時、ふとイメージと魔力が一致した……ここは感覚なので上手く言えないのだけど、パズルのピースが嵌った感じかな?
その瞬間、手のひらから水があふれ出してきて……いきなりのことで唖然としていた私だったけれど、しばらくして魔法を使うのに成功した事に気がついた。
それを見守っていたエクスの呟きは忘れない。
「生活魔法で普通あんなに水は出ないだろ……」
水、と聞いて蛇口をひねるイメージしてたからかもしれない。普通はちょろっと出てきたら良い方らしいわ。
まあ、そんなこんなで私は生活魔法を成功させ、属性魔法の訓練を行っていた。
本当は生活魔法も攻撃魔法も同じ魔法だ、とジャックさんは言っていたけれど、一応区別をするために攻撃魔法系と呼ぶ事にする。攻撃魔法系は初級、中級、上級、超級というクラスがあるそうだ。ただ同じ級に振り分けられている魔法の中でも、難易度の差はあるらしい。
以前ジャックさんからもらった魔法書を見ながら、私は黙々と魔法を使っていた。
魔法の訓練をする時には、大体エクスが目の前にいる。
一度見ていて暇じゃない? と訊ねた事もあるのだけれど、その時エクスは笑って言った。
「お嬢の非常識さをこの目で見ておこうと思って」
えー? と思ったけれど、後ろでジャックさんが「ひまりさんの事が心配なんだよね」と笑っていた。どうやら図星だったらしく、ジャックさんを睨みつけていたけれど……照れ隠しってやつかな?
まあ、こちらとしては見てもらえるのは嬉しいので、魔力が尽きるまで魔法を放っていた。
「まさかここまでできるとはね……」
訓練を受けてから二週間。
私は聖属性も含めた全ての属性の初級魔法を発現する事ができるようになっていた。ここで漫画やアニメを見てきた私の想像力を活かす事ができたのだ。字で書かれている内容を読んで、知っている漫画やアニメなどをイメージ。そして起動……そのお陰か、初級魔法とは言えない規模と強さの魔法が発動してしまったようだ。
私も驚いたので、今は少しだけ魔力量を絞って初級魔法を作動させている。それでもエクスから言わせれば、強力な魔法だというのだから……想像がどれだけ重要か、と言うのが分かる。
ただ、聖属性はジャックさんが懸念した通り、小さな切り傷や擦り傷しか治す事ができなかった。使えるようになった時、すぐに行使できるようにとのジャックさんの助言もあり、どんな魔法があるか勉強だけはしているけれど……他の属性と違って、できる感覚を感じる事ができないのよね。
なんだろう……川の水を魔力だとしたら、板か何かで堰き止められている感じ、と言えば分かるかしら。
幸いそれ以外は魔法を使う事ができたので、聖属性は気長に待つことにするけれど。
「本当に規格外だな」
唖然としているエクスがボソリと呟く。その隣でジャックさんも首を捻りながらこぼすように言った。
「得意属性ひとつ初級魔法をモノにするのは、早くても一ヶ月くらい掛かるんだけどね……」
「俺だって風魔法の初級を習得するのに一ヶ月は掛かったんだが……」
エクスの得意属性は風魔法だそう。魔力の総量が少ないので、基本は風魔法しか使用しない……けれど他の属性の初級魔法も何個か使えるらしい。本人は風属性の魔法だけで事足りるのだとか。
確かに風属性の初級魔法には風を利用した防御魔法、身体の一部……特に足に纏わせて動きを補助する補助魔法などがあり、一人で魔物を倒す分には風魔法だけでも問題ないと言うのは納得だ。
私も今後冒険者として戦いに身を置くのならば必要だろうと優先的に使用できるようにしたのだから。
「そうですね。私は前世でアニメ……動く絵と言ったら分かりやすいでしょうか? そういうモノが大好きでよく見ていたので、頭の中で想像しやすかったのだと思います」
「動く絵……?」
二人とも動画を思い描く事ができないらしい。仕方ないよね、それを見た事がなければ想像するのって難しいと思う。ほら、ポ◯モンで有名なピ◯チュウがいるでしょう? キャラを知らない人に絵を描いてって言っても、描けないのと一緒よね。
「動く絵がどんなものか分からないけれど……ひまりさんの住んでいた国は魔法が無かったんだよね? それなのに魔法が使えるのは凄い事だと思うよ」
ジャックさんが、信じられないと言わんばかりに目を丸くして告げる。エクスは「嘘だろ、それ」と疑うような表情でこちらを見ていた。
魔法を使えた時の喜びようを思い出すように伝えたところ、尋常ではない喜び方をしていたのをエクスは思い出したらしく、まだ眉間に皺を寄せながらも納得してくれたようだけれど。
「けれども……これで分かったね。魔法は頭の中での映像が大事なのだって事がね」
「だから俺の魔法も詠唱を短縮して使えるってことか。何度も使っているから、俺の中で思い描いた魔法図が固まっているんだろう」
「そうだね。昔から『何度も魔法を使う事が上達の近道』なんて話があるけれど、あれも魔法の心象を作り上げるための手段なのだろうね。元々仮説として考えていた事だったけれど、ひまりさんのお陰で証明されたね。ありがとう」
まあ、魔法少女アニメとかはともかく、ライトノベルとかは理屈や原理を理解していたり、頭の中のイメージが鮮明にできたりっていう事が魔法の上達の上で欠かせなかったりしたよね。この世界もきっとそうなのだろう。
私が一人納得していると、ジャックさんが私に声をかけてきた。
「それじゃあ、そろそろ実戦で魔法を使えるかどうか試してみようか?」




