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気づけば全部のフラグをへし折っていた転生悪役令嬢ですが何か?  作者: 柚木(ゆき)ゆきこ@第8回ESN大賞奨励賞受賞
第一章 公爵家追放編

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「あの……こんなすごい魔法書、私が持っていて良いのですか……?」


 私は恐る恐るジャックさんに訊ねる。何故私が魔法書の所有者に選ばれたのが分からないくらいだ。内心困惑していると、ジャックさんがゆっくりと話してくれた。


「この魔法書は所有者が決まったら、解除する事はできないって話だったなぁ……だから、ひまりさんが持っているしかないと思うよ? その持ち主が亡くなるまで、所有権は続くって師匠が言っていたような気がするからね」

 

 魔法の世界だからこんな本もあるんだな、ファンタジーだ! と喜んでいたあの時の私を叱りたい。その本、すっごい価値のある本だからねって。


「でも、何故そんな本が公爵家にあったんだ? 本は触れないんじゃないのか?」


 確かにエクスの言う通りだ。あそこに置いてあるという事は、公爵家の誰かが手に入れた本なのだろうけど、どうやって手に入れたのだろうか。二人で首を傾げていると、ジャックさんが補足してくれた。

 

「あ、いい忘れていたね。あの魔法書の機能は所有者登録をする事によって起こるんだよ。所有者登録がされていなければ、ただの白紙の本になる」

「側から見れば、装丁(そうてい)が綺麗で価値のありそうな本だもんな」


 中身が白紙であるのも興味を惹かれるのではないか、と私は思う。何故白紙なのかを読み解こうとする人がいてもおかしくないよね。きっと公爵家の誰かが興味半分であそこに置いておいたのかもしれない。

 持ってきて良かったのかな、と思うけれど……所有者として登録されてしまったら仕方がないのかもしれない。うん、一冊くらいなら大丈夫だよね……不可抗力だもん、うん。


「あとはこれも伝えておいた方がいいね。あの本は所有者の強い思いに惹かれると、その者の望んだ新たな魔法を作り出すんだ」


 今まで作り出した魔法は、魔法書の中に蓄積されるような仕様になっているらしい、とジャックさんは言うけれど……どこか自信がなさそうだ。そうだよね、初代賢者様って数千年前の話らしいし? そんな本がまだ存在しているよ、って事に驚くよね。

 それよりも、ジャックさんの説明に私は納得していた。

 

「だからあの時、スタージアと話せたのね……」


 スタージアと話したいという私の想いに本が反応したのだろう。私は感謝の気持ちを込めて、魔法書にありがとう、と声をかけた。おかげで私がこの世界でどう生きていくか、少しずつ見えてきた気がする。



 魔法書を撫で終わると、いつの間にかそれは消えていた。やっぱり慣れないけれど、この世界はファンタジーだと思い直して自分を納得させる。静かに見守っていてくれたジャックさんが、私に話しかけてきた。


「じゃあ、次は魔力操作の練習だね。先程私の魔力を感じたと思うけれど、その感覚を利用して自分の魔力がどんなものかを掴んでみて」


 私は感覚を研ぎ澄ますために、ゆっくりと目を瞑る。すると、かすかにではあるけれど、自分の身体の周囲に少しだけひんやりしたものが漂っている気がした。ジャックさんのと違うけれど、これが私の魔力なのだろう。

 感じ取る事ができた私は、なんとなくその魔力をひとつに集める事ができそうだと思った。手の周りにある魔力を手のひらに集めてみる。すると、その事に気がついたジャックさんが、感嘆の声を上げた。


「おや、魔力を感じ取った上に、すでに魔力操作ができてきているね。やはり一度魔法を使っていると身体が覚えているのかな。早いね」

「お嬢、早すぎだろ……」


 エクスの呆然とした声が耳に入る。うーん……はっきりとは言えないけれど、魔力操作ができたのは私が日本人だったから、っていうのもあるかもしれない。これ、某有名なバトル漫画のアレに似ている気がするのよね。まあ、あの話は魔力ではないんだけれど……。

 色々な漫画も読んできたから、イメージに関してはこの世界の人よりもアドバンテージがあると思うのよね。


「うんうん、いいね。じゃあ、次に行ってみよう。今ひまりさんが手に集めている魔力は、君の身体から漏れ出した魔力だけを集めている状態なんだ。魔力は体内にも蓄えられているから、まずは体内にある魔力を感じてみて。それが分かったら、体内の魔力を外に出して手に集めてみるといい」

「師匠、段階を飛ばし過ぎじゃないか……?」

「ひまりさんなら大丈夫そうかなって思って」


 ジャックさんの言葉を聞いた後、私は集中していたのでエクスの声は聞こえなかった。けれども、この時の私は相当高度な事を行なっていたらしい。あとでエクスに聞いて、私は思わず声を上げてしまったものだ。

 例えて言えば、初めて水に入った子へクロールの泳ぎ方を教えているようなものらしい。そんな話を聞いて驚愕していたけれど、私はやはり一度魔法を使ったという点で他の人とは有利だったのだろう。しばらくすると、体内の魔力を集める事に成功したのだった。


「多分できました!」

 

 そう声を出して顔を上げると、眉間をぐりぐりと揉んでいるエクスと手を叩いているジャックさんがいた。エクスの行動を不思議に思いながらも、私はジャックさんの言葉に耳を傾ける。

 

「魔法を使う際、重要なのは体内にある魔力をどれだけ正確に動かせるか、という点だね。魔力操作の精度によって、必要になる魔力が変わってくるんだ」

 

 いかに無駄な魔力を作らないか、が魔力を節約するポイントらしい。

 それ以外にも狙った位置に魔法を発動させたり、魔法の失敗を防ぐ事もできたり……高位の魔法を使えるようになったりするんだって。


「エクスには一時期常に魔力操作の訓練をするように指導していたね……うん、今もその教えを守っている事が分かるよ。昔よりも更に精密さが上がっているね」


 思わぬ言葉だったのか……エクスは目を見開いてお礼を言った後、そっぽを向いた。エクスにとっては育ての親でもあるんだよね。そんな人に褒められると、やっぱり嬉しいよね。


 ニコニコとエクスを見ていた私。その事に気がついた彼はぶっきらぼうに「訓練しろよ」と言い放つ。けれども私は見逃さなかった。彼の耳がほんのりと赤い事に。

 まあ、それを口に出すのは野暮だと思って、訓練に集中したけどね。

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