17
「ではひまりさん。君が魔法について知っている事を教えて欲しい」
そうジャックさんに言われて、私は公爵家の図書室で学んだ知識を思い出していた。
「えっと……私たちは魔力を持っていて、その魔力を使って身体を強化したりできるんですよね? それを無属性と呼んでいる事は知っています。あと魔力量が多い人に現れるのが属性で、四大元素に光と闇、聖属性を加えた七属性があると言われている話は知っています」
身体強化のような自分へと掛ける無属性魔法は、全員が使用できると言われている。けれども、無属性といえども魔力を使う事には変わりがない。使えると言っても、ある程度の魔力を保有していなければ、魔法が維持できないとも聞いた。
「ですので、まずは儀式で自分の使用できる属性を把握してから、訓練をするのが一番効率の良い方法だ、と読んだ本には書かれていました」
図書室へと篭った時、魔法に興味があった私は魔法の本をいくつか読み漁っていた。その時にこの訓練方法を知ったので、もし属性が把握できたらこの方法で訓練を行おうと思っていたのだ。
だが、その話を聞いたジャックさんは渋い表情……眉間に皺を寄せて私の話を聞いていた。
何か間違っていたのだろうか、と頭に疑問符を乗せていると、ジャックさんが頭を抱えたのだ。
「ああ、やっぱりそうなったままなのか……」
どうしたのだろうか……と不思議に思った私が首を傾けると、ジャックさんが話してくれた。
「ああ、ごめんね。実は儀式で使う測定器について誤解があるんだよ」
「え、誤解ですか?!」
本に書いてあった事なので、間違いないだろうと思っていた私だったけれど、測定器を製作しているジャックさんが言うのなら、そちらの方が正しいはずだ。ジャックさんは眉尻を下げたまま、ため息をひとつついた。
「ひまりさんは、測定器で光り輝いた属性の魔法しか使えないと思っているんじゃないかな?」
「……え、そうではないのですか?」
もしかして、違うのだろうか? きょとんと瞬きした私を見て、ジャックさんは肩をすくめた。
「やはり浸透していないんだね。実はあの測定器は、親和性の高い属性を診断するものなんだ。だからあの測定器で光らなかったとしても、魔法は使えるんだ」
「そうなのですか……?」
てっきり、光った属性の魔法しか使えないものだと思っていた。
「そうなんだよ。ただ相性の良い属性に比べて、練習がそれなりに必要かな。相性の良い属性魔法は数回で使えるようになるんだけど、相性が悪いと百回単位で練習が必要になる事もあるんだよね。 あとは……魔法を使う時に必要な魔力の量も変わってくるかな。勿論、相性の良い属性魔法の方が魔力の消費量は少ない」
「親和性の低い属性魔法は、練習と魔力が必要になるという事ですね?」
私の言葉にジャックさんは頷く。確かにジャックさんの言葉を聞く限り、相性の良い属性魔法を訓練した方が良いのかもしれない。私は得意属性だけを訓練すべきかどうか……うーん、と悩んでいるとエクスが話し始めた。
「俺なんかは魔力が少なかったからな。他の魔法にかけるほどの魔力がないから、風属性しか習っていないんだ」
エクスは他の冒険者よりも魔力は多い方らしい。それでも、他の属性魔法を習う余裕は無かったという。
「師匠に教えてもらって魔力は増やしてきたが……まだまだ他属性は使える気がしない」
そう言って頭を掻くエクス。そんな時にふと私は思った。
「あの、そもそも私は他属性も使えそうなのでしょうか……? あと聖属性もみんな使えるのですか?」
聖属性は神からの贈り物だと言われている。もしかして、魔力さえ調達できれば全員が使えるのではないか、と思ったけれど、そうではないらしい。
「ああ、ごめんね。聖属性は適性がないと無理なんだ。どんなに魔力を持っていても、聖属性だけは使えないね。ひまりさんは聖属性にも適性があるから、上手くいけば全ての魔法を使えるかもしれないけど」
「え、そうなのですか?」
これは本に書かれていた通りのようだ。本当に聖属性は特殊なんだな……と思うと同時に、スタージアの優秀さに戦慄する。彼女は乙女ゲームの中ボスだった、と光莉が話していたけれど……中ボスで回復魔法使えて……属性魔法も実は全て使えるとか、ラスボスでも良さそうなスペックよね。
あ、でもこの様子ならゲームでもジャックさんの情報は出回っていないだろうけど……それでも三属性使えるボスって厄介だと思うんだけど。
心の中でスタージアに感謝をする。
「そうだね。ひまりさんなら他の属性でも基礎から中級くらいの魔法は使えるんじゃないかな? ただ、得意属性じゃない中級魔法をどんどん使ってしまうと、魔力切れになる可能性もあるから気をつけないといけないけど」
魔力切れ……RPGゲームだと、ポーションか何かで回復するまで技が使えないというイメージだ。けれどもジャックさん曰く、この世界で魔力は、私たちの身体の機能を動かすための原動力しても使われているらしい。それを全て使ってしまうと、身体が動かなくなって倒れてしまうのだとか。
「魔力切れになったら、死んでしまうのですか……?」
臓器を動かしているというのであれば、原動力がなくなれば――そう考えて私は血の気が引いた。そんな怖いものなのか、と考えてジャックさんに視線を送ると、彼は慌てて弁解する。
「いや、そんな事はないよ。体内の魔力がなくなれば、外からすぐに吸収するからね。魔力は大気中にも漂っているから、すぐにって事はないよ」
「逆にそれを利用して魔力量を上げる酔狂な奴もいるって話は聞いた」
「まあ……実際魔力を多く使う事が、魔力量を上げる一番の方法ではあるからね」
エクスの言葉にジャックさんは肩をすくめて話す。万が一魔力を多く使って倒れても、一応問題はなさそうだ。まあ……魔物が沢山いる状態で倒れないように気をつければ良いくらいかな?
魔力を使えば使うほど、体内に溜められる魔力量が多くなるのであれば、どんどん使って魔力量を多くしたいなって思うのは分かる。あれだ、ゲームでもレベルを上限まで上げたくなる気持ちと似ているんじゃないかな。
実際魔法を使えるなんて、本当にドキドキするよね! だって日本だと絶対叶わない夢だったもの。
まさか転生してその夢が叶うなんて思わなかったわ。
気持ちが逸る私の耳に、ジャックさんの声が届いた。
「ちなみに魔法を使うには、基本を押さえるのが大事だね。まず、魔力の流れを把握する事。次に魔力操作と言って魔力を感じ取って自由自在に操れるようになる事、それがある程度できたら基本の属性魔法の訓練に入ろうか」
「分かりました」
うんうん、どんな勉強もスポーツも「基礎が大事」って言うわよね。ふふ、楽しみだなぁ。




