表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
気づけば全部のフラグをへし折っていた転生悪役令嬢ですが何か?  作者: 柚木(ゆき)ゆきこ@第8回ESN大賞奨励賞受賞
第一章 公爵家追放編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/27

15

 「お待たせ〜」と言ってニコニコと戻ってきたジャックさん。半目で睨むエクスに気づいていないのか……もしくは気がついていても無視しているのかは分からないが、テーブルの上に測定器を置いた。

 確かに教会で使用していた水晶玉のような測定器だ。周囲の人々が賢者と呼ぶ所以が理解できる。


 ジャックさんに顔を向けると、丁度目が合った。彼は私を安心させるようににっこりと微笑むと、まるで「どうぞ」とでも言ってるかのように測定器を指差した。

 目の前に置かれ、私は測定器と向き合う。緊張からか私の喉は小さな音を立てて鳴った。


 ジャックさんは変わらず笑みをたたえている。そしてエクスは眉間に皺を寄せてこちらを見ていた。不機嫌なように見えるけれど、多分私を心配してくれているのだろう。私は意を決して測定器に手を置いた。


 前の儀式と同じように測定器がキラキラと輝き始める。


 あの時はその後すぐに光を失ってしまったのだが、今は私から漏れ出ている魔力が光を帯びて輝いている。しばらく光った後、測定器の中心に集まり始めた。ジャックさん曰く前者の光で魔力量を測り、その後属性を分析するのだそう。ちゃんとそうなるように魔法をかけているのだとか。

 ひとつの道具に複数の魔法をかけるって、難しいんじゃないの? と心の中で考えていると測定器の中心に綺麗な光の球が現れた。


 赤色の球が一番大きい。

 そして青、白と続く。


「ん……? 白?」


 赤は火、水は青、風は緑、地は茶色だった気がする。白なんて色はあっただろうか……。

 もしかして光かな? そう考えていた私の耳に入ってきたのはエクスの呟きだった。


「それ、聖属性か……?」

「え? 聖属性?」


 聖属性は回復系統の魔法が使える、と本に書いてあった。有名な某ゲームのホイミ、みたいなものだろう。小さな怪我から大きな病気まで、あらゆる負傷や病を治すことのできる、神から与えられた魔法だと言われている。

 いやいや、まさか私に聖属性があるわけないじゃん、と思ったけれど、ジャックさんも驚いたような表情で私を見ていた。


「うん、確かに聖属性だね。光属性は黄色になるはずだから」

「……」

 

 聖属性がある事に驚いていると、ジャックさんは顎に手を当て、険しい表情で測定器を見つめている。何か気になった事でもあるのだろうかと声をかけると、ジャックさんは話し始めた。

 

「いや、ひまりさんの聖属性の球が小さいなと思って……ちょっと測定器から手を離してもらっていいかい?」

 

 言われた通りに手を離した私は、目の前にやってきたジャックさんと向き合う。そして、ジャックさんは厳しい表情で私の額から離れた場所に手をかざす。

 目を瞑っていると、身体が温かい何かで包まれたような気がした。もしかしてこれがジャックさんの魔力なのだろうか。羽毛布団にくるまった時のように、身体が徐々に温かくなっていく。


 しばらくしてその温もりがなくなった頃、ジャックさんはうなる。原因が突き止められなかったからだろうか。


「聖属性って球の形が一定の大きさだと言われているんだ。それは聖属性が『神から与えられたもの』と言われているから」


 意味が分からず首を捻っていると、ジャックさんが分かりやすく教えてくれた。


「簡単に言えば、聖属性は『神からの借り物の力』と考えられているんだよ。人が努力して得られるものじゃないんだ。生まれた時……もしくは何かのきっかけで後天的に神から与えられた……そうだなぁ、純粋な灯火(ともしび)のようなものなんだ。分け与えられた力は、人によって多少の揺らぎはあっても、大きく違うことはないとされているんだ」


 少し間を置き、彼は目を細める。


「……だが、ひまりさんの聖球は常よりも小さい。まるで、神から借りている灯火が何かに覆われ、光を閉じ込められているように見えるんだ。正直私も原因が分からない……可能性としては、スタージアくんの影響を受けてしまったのかもしれない。ただ、ずっとこの状態であることは、あり得ないと思うから……何かの拍子に封印が解けるかもしれない」

「私は現状で回復魔法は使えない、という事ですか……?」


 もしその影響が外れたとしても、使い方を知らなければ宝の持ち腐れだ。眉尻を下げながら私がジャックさんに訊ねると、彼は私を元気付けるように微笑んだ。


「大丈夫、回復魔法の基礎は問題なく使えるはずだよ。魔法を上手に使うようにするためには訓練が必要だから、一緒に頑張ろう!」

「師匠がいるから大丈夫だろ。お嬢が魔法を使えなくても、なんとかしてくれるさ」

「エクス、君は私を何でも屋だと思ってないかい?」

 

 え、違うの? と言わんばかりにぽかんと口を開けるエクスに、私は思わず笑ってしまった。


「確かにジャックさんは何でもできそうよね!」

「だろ? 片付けだけは苦手だけどな」

 

 彼の言葉に私も元気が出てくる。まあ、もし回復魔法が使えなかったとしても、勉強だけはしておこうと思う。元気になったのが分かったのか、ジャックさんも胸を撫で下ろしたようだった。気を遣ってくれたのかな。

 ジャックさんは手を叩く。

 

「さて……夜も遅い、一旦休んで明日から始めよう。エクスもそれでいいかな?」

「ああ」

「じゃあ、ひまりさん。明日もよろしくね」

「よろしくお願いします!」


 私たちは与えられている自室へと話しながら歩いていく。だから、見送っていたジャックさんの呟きは聞こえなかった。


「エクス、私は何もできない男だよ……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ