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「魔力……」
そういえば、スタージアの魂によって魔力が封印されているという話だったわね。
ゲームのスタージア魔法を使っていた――なんて光莉から話があったから、魔力はありそうよね。
ただ……魔力測定には良い思い出がない。最初の儀式の時は、大勢の中でとても注目されていたから……。私が公爵令嬢であった事、最後の一人であった事が関係しているのだと思うけど。
私が魔力なし、という判定をされた後、私を見る視線が蔑んだものになったのよね。格下認定されたような感じかしら?
当時は「死亡フラグ」を避けるために……ってことに頭が一杯になっていたのだけど、今思えば良い気はしないわね。
少し眉が寄ってしまったのかもしれない。エクスが気遣わしげな表情で私を見ている。
「大丈夫か?」
そうか、護衛としてエクスもあの場に居たのだものね。あの空気感を覚えていたのかもしれない。
「大丈夫……もし私に魔力がなくても、エクスは変わらないでしょう?」
出会って数週間ほどだけど、彼は魔力の有無で見方を変えるような人ではない事を知っている。
勿論、師匠のジャックさんもだ。
最初は口を半開きにしていたエクスだったけれど、私が小首をかしげると彼の口元が緩む。
「まあ、そうだな。魔力があろうがなかろうが……お嬢がお人好しで危なっかしい事には変わりないからな」
「そうかなー?」
エクスの言葉に納得いかない私。口を尖らせていると、様子を見ていたジャックさんが私へと声をかけた。
「エクスがここまで、人に心を許しているのは初めて見たよ。エクスをよろしくね」
「はい、もちろん!」
「いや、俺が世話係だろ?!」
そんなやり取りをしていたからか、重かった心は少しずつ軽くなっていく。しばらく雑談していると、心が落ち着いてきたので、私は二人に声をかけた。
「なら、教会に行かないと……」
こちらの教会は、主に病院と魔力測定の儀式を行う場所という認識だ。聖属性……特に回復魔法を使える者が所属し、怪我や病気を癒している。
回復魔法を使える者は他の属性に比べると貴重なため、全ての街や村に教会は置かれていない。幸い、魔の山の麓の街には教会があったので、あそこに行けば測定できるだろう。
そう思って声をかけた私だったけれど、ジャックさんとエクスの反応は予想していたものと違った。二人とも、頭をひねっている。
「え……何で教会に?」
「え……? 魔力測定と言ったら、教会ですよね?」
ジャックさんに訊ねられ、私が答える。なんだか話が噛み合っていないような気がする……と思っていたら、エクスが「ああ」と呟きながら手を叩いていた。
「師匠、お嬢はあの測定器を作ったのが、師匠だって知らないだって」
「……あれ、言ってなかったかな?」
二人の会話を聞いて、私は口をあんぐりと開ける。
「聞いてません! 聞いてませんけど……ジャックさんが作ってるのですか?」
私が声高に聞くと、ジャックさんはなんて事ないように言う。
「最初に作ったのは、私の先代の師匠の師匠の……あれ? 何代前だったかな? まあ、何代か前の師匠が作ったモノなんだ。今代は私が作っているんだよ」
「だから師匠の部屋には大量の水晶玉があって……師匠、あの後水晶玉を作ってないですよね?」
「……あ」
マズイ、という表情のジャックさんに詰め寄るエクス。エクスの笑顔が怖い。ついでにジャックさんに対して敬語になっている……迫力がありすぎる。
「師匠! 片付けられないんだから作るなってあれほど言ったじゃないですか!」
「いや……だって、ほら……いきなり何個も割れたとか、壊してしまったとかがあったら、教会も困るだろう?」
ジャックさんはそう言ってエクスに反論する。確かに、この国にどれだけ教会があるかは分からないけれど……万が一の事があったら大変よね。予備を作っておく分にはいいと思うのだけれど……。
そんな事を考えていたら、エクスが目を細めてじっとジャックさんを見つめていた。
「師匠、俺が家を出てから何個購入依頼がありました? そして、何個作りました?」
呆れ混じりの目で見つめるエクスに、ジャックさんはタジタジだ。まるで悪戯がバレた子どものようにしょげた。
「えっと、一個だけ教会に売って……百個くらい作ったかな……?」
ジャックさんの目が泳ぎ始めた。そんな彼を見てエクスは肩をすくめると、大きなため息をついて言う。
「師匠……以前俺がここで暮らしている時に、言ってませんでした? 『ちまちまと測定器を作るのが面倒だから……測定器が割れないよう、改良しよう!』って」
「うっ……」
あれ? エクスはジャックさんのお母さんに見えてきたよ。
「できた時、『これで衝撃に強い測定器ができた!』ってはしゃいでませんでした? しかも教会を丸め込んでいませんでした?」
話によると、エクスがこの家に暮らしていた時、ジャックさんは測定器を改良したらしい。その結果、エクスが全力で叩きつけても傷一つ入ることのない測定器が完成したと言う。
『これで測定器作りから解放される』と喜んだジャックさんが、教会を言葉巧みに納得させたのだとか。それから毎年あった測定器の購入が、それ以来ゼロの年が多くなったようだ。
あー、それは言われちゃうよね。ジャックさん、片付けが苦手らしいし……部屋の中は測定器で一杯なのだろうか。足の踏み場がなかったら怖いかも。
「あはは、そんな事もあったかなぁ〜、あ、取りに行ってくるから待っていてね!」
そう告げて手を上げながら去っていくジャックさんを見て、再度エクスの口から大きなため息が漏れた。




