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気づけば全部のフラグをへし折っていた転生悪役令嬢ですが何か?  作者: 柚木(ゆき)ゆきこ@第8回ESN大賞奨励賞受賞
第一章 公爵家追放編

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 ふと気づけば、足元にある魔法陣の光も失われていた。

 私が二人に顔を向けた事でエクスは我に返ったのか、私の元へと駆け足でやってきた。少し顔色を失っているような気がする。


「大丈夫か?!」


 肩を掴まれ、声を荒げるエクス。その顔には汗が少し滲んでいた。


「うん、大丈夫だけどどうしたの?」

 

 不思議そうに訊ねれば、彼は胸を撫で下ろした。


「本が急に現れただろ? あの後お嬢が本を手に取った瞬間、周囲の光が更に強くなって……お嬢の姿が見えなくなったんだ。師匠も大丈夫と言っていたけど、なかなか光の中から出てこないから――」


 そこまで言ってエクスは何かを思ったのか、顔を背ける。でも何となくではあるけれど、エクスは心配してくれたのだろうな……と思った。


「うん、ありがとう! 心配かけてごめんね? 大丈夫だよ!」


 そう言って、にっこりと笑ったのだけれど……エクスはため息をついてから、おでこをちょんと突いた。


「見れば分かる」

「う〜、何それ!」


 二人でやいのやいの言っていたからか、私たちは気がつかなかったの。ジャックさんが複雑そうな表情で私の手にある本を見ていた事に。



「そういう事情だったんだね」


 ジャックさんに声を掛けられ、私たちは片付けを終えた後室内で話をしていた。エクスは口を閉じて一言も話さず、ジャックさんは相槌を打ちながら話を聞いている。

 私の話が終わると、ジャックさんがため息をつきながら言葉を漏らした。


「それならあの消耗も分かるかな。きっと彼女は魂の存在になった後、ひまりさんの魂が入った事に気がついたのかもしれない。それに罪悪感を感じた彼女は、ずっとひまりさんを守っていたんだ」

 

 なぜ私の魂が彼女の身体へと入ったのかは分からない。ただ、最後のスタージアは、ホッと胸を撫で下ろしているような表情をしていたので、彼女にとってはきっと、この入れ替わりに意味があったのだろうと思っている。

 スタージアの事を思い出していると、目の前にいたエクスが眉間に皺を寄せていた。そういえば先程から、エクスは何も喋っていない。どうしたのだろうか、と思い声をかけようとするが……その前に彼が拳でテーブルを叩いた。


「俺は、全く気づけなかった……お嬢様がそんなに思い詰めていたなんて……」


 テーブルを叩いた拳は小刻みに震えている。私は彼の手に自分の手を乗せた。驚いたエクスが私を見る。


「大丈夫よ、エクス。彼女は最後、しがらみから解放されたような幸せそうな笑顔だったわ」


 エクスはしばし黙り込む。


 「……そうか。それなら……少しは救われるな」

 

 その声は誰に聞かせるでもなく、亡き彼女へと語りかけるように優しかった。私たちは誰ともなく、先程儀式をした場所へと視線を送る。その瞬間、スタージアの魂のいたであろう場所が淡く光ったような気がした。



 しばらく、しんみりとした空気が続いた頃。

 その空気を和ませるようにジャックさんが手を叩く。驚いた私たちがジャックさんを見ていると、彼は私が作った軽食とコップをテーブルに置いた。


「いつまでもこうしている訳にはいかないだろう?」


 ジャックさんの言葉に、私たちは頷く。そして思った以上にお腹が空いていた私は、目の前の軽食を手に取った。

 食事を摂っていると、食べ物を呑み込んだエクスが私に声を掛けてくる。


「そういえばお嬢。この後どうするんだ?」

 

 口の中に物が入っていた私は、もぐもぐと口を動かしながら首を傾げる。そういえば、この後の事は考えていなかったな。

 私は口の中の者を呑み込んでから、エクスへと話しかけた。


「スタージアがね、『色々なところに行ってみたかった』って言っていたの。だから、旅をしようかなぁって思って」


 海とか、湖とか、森とかに行ってみたい、とスタージアは遠くを見ながら言っていた。だから、その願いを叶えてあげたいなと思う。あ、でも――。

 

「私、お金持ってないからな」


 ここに来たのも、エクスの協力があってこそ。私は一文なしで追い出されたから、お金はエクスが支払ってくれたの。


「のんびり食堂とかで働きながら、お金を貯めて放浪しようかなぁ……あ、ここに来た時に出してもらったお金は、お金が稼げるようになったら必ずエクスへと支払うから!」


 大体だけど、幾ら出してもらったかは覚えているから、いつか返さないとね。そう思ってエクスへと顔を向けると……彼は額に手を当てて、ため息をついていた。

 ちょっと待って、ここまでの会話で私、ため息つかれるような話をした?

 首をひねっていると、エクスはわざとらしく息を吐いた。

 

「お嬢一人で行かせる訳ないだろう?」

「え? エクスも着いてきてくれるの?!」


 てっきりジャックさんがいるこの場所でお別れかと思っていた私。その考えがエクスには筒抜けだったのか、彼は肩をすくめて話し始める。


「この世界の常識がないお嬢を一人にするなんて、『身ぐるみ剥がしてください』と言っているようなものだろ……」

「え? 私、そんなに頼りない?」


 心外だなぁ、なんて思っていたのだけれど、エクスには力強く頷かれてしまった。


「お嬢は知らない誰かに声を掛けられたら、ふらふら着いていきそうで……」

「うん。エクスの言いたい事はなんとなく分かるよ」


 なんとジャックさんまでもが、エクスに同意をしている。


「お嬢は師匠と雰囲気が似ているからな。悪者に騙されそうだ」

「……ん? 私も同類?」


 ジャックさんは小首をかしげ、何かを思い出すように目を細めたけれど……まあ良いか、とそこで話を終わらせた。そして――。


「それよりも、ひまりさん。魔力が戻っているはずだから、それを測定してから今後について考えても良いと思うよ?」

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