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「それは……!」
ジャックさんの驚く声が聞こえる。
けれども、それどころではなかった。目の前にある本はどこかで見たような……そう、公爵家の図書室に置いてあったあの本。私が持った瞬間光り輝いた、白紙の本よね? それが何故ここに?
疑問もあったが、ここは魔法の世界。何らかの魔道具なのだろうと考えた私は、その本を手に取る。すると、自動的にページがめくられ、ある一定の場所で動きが止まる。そこには字が浮かび上がっており、彼女の声を聞くための方法が載っていた。
何故白紙だった本に私の欲しい魔法が載っているのかは分からない。それにこの魔法が本当に彼女の声を聞こえるようにしてくれるかだって分からない。
けれども、今はこれしかないのだ。藁にもすがるような思いで、私は本に載っている魔法陣を宙に描き始めた。
初めての魔法だったはずなのに、何度も使っているような……そんな感覚。スラスラと魔法陣を描く事ができた。
「魂と我が心を結べ、魂の言葉をこの身に届けよ」
その途端、目の前の魔法陣が光り輝き、スタージアの身体に吸い込まれていく。魂のスタージアは最初首を傾げていたけれど、魔法陣を吸収した事で何かが変わったように感じたのか、目を大きく見開いていた。
そして、彼女はゆっくりと私へ顔を向ける。スタージアの口が開くのと同時に、彼女の輪郭が淡く光る。そして、静寂の中で震える声が届いた。
『私は、スタージア……。あなたに押し付けてしまって、ごめんなさい……』
今にも泣きそうな声。彼女の目に溜まっていた涙が一筋こぼれる。
私は胸の奥が締め付けられた。それほど彼女を追い詰めたのは、何だったのか。私は何と返せば良いのか分からず、口をつぐんだ。
『この呪われた人生……私、どうしたらいいか分からなくて……』
「スタージア、あなたは未来を知っているの……?」
彼女は首を縦に振った。そうよ、ゲームのスタージアの生き様を知った光莉が涙していたのよ。あの滅多に泣かない光莉が「スタージアが可哀想」と。余程のことなのだろうと思っていたけれど……それを何かしらの要因でスタージアが知ってしまったのね。
『学園が始まる前に、私が命を断てばどうにかなると思ったのに……ごめんなさい……まさか、あなたが私の中に入るなんて……』
両手で顔を覆い、涙に暮れる彼女。心が押し潰されそうになっていたのだろう。
私は彼女を抱きしめた。魂だから温もりはないはず……だけどほんのりと温かく、まるでそこに生きているスタージアがいるのではないかと思うほど。
最初は驚いていた彼女も、落ち着いたのか目を瞑っている。
「ねぇ、スタージア。私は『魔力がないから』と一週間前に公爵家から除籍されたの」
彼女の目が開き、私の顔を覗き込んだ。
『公爵家から除籍……?』
「ええ。スタージアが私の魔力を隠してくれていたお陰よ」
私は満面の笑みで告げる。
『でも除籍だなんて……』
一方でスタージアは少しオロオロとし出した。私を心配してくれているのだろう。
私は安心させるように、優しい声で話した。
「それで良かったのよ。だって、学園に行かなくていいじゃない? 私は自由になったのよ」
『自由……』
スタージアの目がまるくなる。貴族としての生を受けた彼女からしてみれば、思ってもみなかった言葉なのかもしれない。
「うん、自由。何でもできるし、どこにでもいけるのよ。ここに来られたのもエクスのおかげだし」
『そう……彼が』
スタージアはエクスの方向へと視線を向けた。そして彼のことを思い出したのか、優しく微笑んだ。
「スタージアは自由になったら、何をしたい?」
『……色々なところに行ってみたかった。海とか、湖とか、森とか……』
知識としては知っていたけれども、実際見た事がなかったのだと言う。
「そっか。それじゃあ、私がスタージアの代わりに行くね。私も旅行が好きだから」
そう話してにっこりと笑えば、スタージアは目をまたたかせる。そして彼女も私に微笑んだ。
『……ありがとう、陽葵』
彼女が安心したからだろうか、先程よりも明らかに早く彼女の魂が光に変わっていく。もうお別れの時間だ、と私もはっきり理解した。
「スタージア、また会いましょう」
『ええ。その時にまた陽葵の話を聞かせてね――』
手から光の粒が消えていく。空へと昇っていく魂を私は見送りながら、今後について決意を新たにしたのだった。
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現在いくつか書き溜めてありますので、もう少し毎日1話更新で進めていきたいと思います。また、もしこの作品を気に入っていただけたら、ブックマークや評価をいただけると嬉しいです( ´ ▽ ` )




