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*本日は3話投稿しています。
1話目
「お前はそれでも公爵家の令嬢か。この、役立たずが!」
私の顔に赤ワインがかかる。髪にかかったワインが滴り、ドレスを赤く染めていった。
先程まで私は食堂にいて、一人食事をとっていたところだ。そんな時に遠くから怒鳴り声が聞こえてくる。声が近づいてくるのを察し、私が食事の手を止めて食堂の扉を見ていると、現れたのがフォンセ公爵だった。
そして開口一番投げかけられたのが、この言葉と赤ワインだ。
目の前にいる公爵は、顔を真っ赤にして血が滲むほど唇を噛んでいる。目は吊り上がり、まるで鬼の面のような表情だ。
「話を聞いたぞ! お前は今まで何をやっていたのだ?! 五歳の時は魔力があっただろう?! 何故今回の儀式で『魔力なし』と判断されたのだ?!」
そう、この世界には『魔力』がある。魔法が使える世界。
魔力量が多い者ほど、そして複数の属性魔法を使用できる者ほど重宝される世の中。特に公爵家の者ともなると、魔力量が多いのは当たり前、複数の属性魔法を使用できるのは当たり前な世の中のようだ。
そのため、魔力量と属性を測る儀式というものが成人と同時にあり、それが今日。
――儀式を行った結果……『魔力なし、属性判明せず』と判断されてしまったのだ。
私の魔力を測った時、近くにいた司祭様が「こんな事は初めてだ」と言っていたので、よっぽどの事なのだろう。
ちなみに五歳の時にも儀式は行っていたらしく、その時にはあったと診断された魔力が無くなった……何故なのかは私も分からない。だって、私は転生者で、気づいたら一週間ほど前に彼女――スタージア・フォンセ公爵令嬢の中にいたのだから。
「申し訳ございません」
私は謝罪するしかなく、頭を下げた。だが、彼の怒りは収まる事などない。ぶつぶつネチネチと「お金が……」「無駄だった……」「駒としてさえも……」と言いながら、物に当たっており……時々、何かが割れる音が響く。
項垂れている私の頭に追加で赤ワインがぶち撒けられ、シルバーブロンドの美しい髪は赤色に染まっていく。
その上、私の右頬に彼が投げたワイングラスが掠る。壁にぶつかりパリン、と割れたと思えば……すぐに前の方から大きな音で何かが割れる音も聞こえた。
私は静かに、何も言う事なく頭を下げ続ける。しばらくしてこちらを向いた公爵は、私に向かって怒鳴りつけた。
「お前は本日を以ってこの家から勘当だ! 明日までに出ていけ!」
私は公爵の言葉に息を呑む。
その言葉に肩が少し跳ねた私を見て、公爵は少し溜飲を下げたようだ。荒かった鼻息の音も落ち着いている。
すぐに私の目の前に紙が投げつけられた。それが見えるように私は少しだけ顔を上げる。するとそこに書かれていたのは、除籍という文字。
私は慌てて公爵の顔を見ると、その顔には愉悦の表情が浮かんでいた。
「それは白紙だが、既に城へと書類は提出してある。この家に平民が暮らす場所はない。目障りだ! 最後の慈悲でその食事は摂らせてやるが、そのまま出ていけ!」
公爵は側にいた執事へと向かって「今から城へ向かう」と告げる。執事が頭を垂れるのと同時に、私の方へ顔を向けて言い放った。
「最後の晩餐だ。味わって食べるんだな」
そう捨て台詞を残して、公爵は食堂から出ていった。そこら中に散らばった食器や食事、そして赤ワインに浸っている私の食事を残して。
追放される私を哀れに思ったのか……執事がタオルと水の入った桶を貸してくれたお陰で、体に滴っていたワインを拭う事ができた。また屋敷の隅にある小屋をに匿ってくれて、私は公爵の目につかないよう一晩そこで寝泊まりする。
朝起きると扉の下に手紙が置かれていて、そこには既に公爵が屋敷を出ていた事が書かれていた。外には古ぼけたトランクが置かれていて、その中には平民用だろう、質素なワンピースが一着入っている。
私はワンピースに着替えて、静かに公爵家の屋敷を出て行った。途中で昨日お世話になった執事がおり、彼に御礼を込めて軽く頭を下げる。去り際、彼は哀しそうな表情で私を見ていた。
門を出ると、目の前に広がるのは野原。遠くに街があるらしく、建物がちらほらと見えている。
……私はキョロキョロと左右を確認する。そして誰もいない事を確認して、思い切り両手を空へと掲げた。
「あ〜、良かった! これで悪役とはおさらばね! 公爵様! 追放してくれてありがとー!」
本日より新作を投稿します!
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