SGR:スピード・ギア・レース
主人公:ラン・クロウ
・ギアスピードレーサー(競技スポーツ)
・軽量・加速度重視のカスタムパワードスーツを使用
・アマチュア選手だが、一部熱狂的なファンがいる(SNS映え/若者支持)
・元兵士/元特殊部隊で、パワードスーツ(=ギア)の戦闘運用経験あり。
・終戦後、社会復帰を促されるも、日常に馴染めなかったが、とある人物の勧めでレース界へ。
・軽量・高加速型のスピード・ギアを好み、自作。改良を重ねている。
Ladies and gentlemen! ようこそ戻ってきました!
地獄の迷路――“オペレーション・サーペント”の舞台に!
ここは、フォート=デルタ・リバース!
旧戦争区画を再開発した、縦横無尽のスパゲッティ都市構造だ!
かつては戦火に焼かれ、何百という兵士たちが命を散らしたこの地が、今や“最速を競う聖域”となっているッ!!
空を貫く鉄橋、崩れた高層廃墟、爆撃でえぐれたクレーター地帯。
まさに文明と戦争の残響が生きたコースだ!!
そして、今日この地を走るのは、選ばれしギア乗りたち!
Speed Gear Racers!!
全員が専用の《スピード・ギア》を装着し、地面を、壁を、空を、爆走するッ!
本日のコース名は《デルタ・ラッシュ・サーキット》!
その特徴は大きく三つだ!!
・その1:ハイエリア:ヘルズブリッジ!
高架崩落跡地を活用した、高低差300mの空中戦区!ジャンプと反重力ブーストの精度が試される!
・その2:地下迷宮:ガンメタ・シェルター!
暗闇の中を極限速度で駆け抜ける第二区間。
センサー依存率が高いため、故障時には一発クラッシュの危険地帯だ!
・その3:魔の最終区間:コールド・クレイドル!
廃棄された冷却都市部を走る。冷却材の吹き出す路面、突如出現する可動障壁、トラップ多発の終盤セクションだ!!
注目はもちろんこの男、ゼッケン77、“生身の亡霊”――《ラン・クロウ》!!
完全生身、義体化ゼロ!
SNSじゃ30万フォロワーを抱える人気者だが、成績は、正直イマイチッ!!
だが彼の走りは……“命の音”がする!!
これはもう、応援せずにはいられないッ!!
さあ、チェックランプが赤から青に……変わったァァ!!!
Speed Gear Racing、第5回!
《デルタ・ラッシュ》、スタートォォォ!!
◆◆◆
スタートの合図と同時に一歩先を踏み出したのはゼッケン77、《ラン・クロウ》、最速反応……否!
構えた! これは、狙っていたッ!!
腰を落とし、地をえぐるような前傾姿勢ーー彼が操る軽量ギア特有の『投げ出すようなダッシュ』だ! スピード特化の走法、何度見ても素晴らしい! どうして転ばない!? ラン・クロウ!
◆◆◆
……空気が震える音がする。
俺は、エンジンとモーターを最高速に維持させたまま、冷静に周囲を確認する。
右隣の63番は電磁ブースト、左の23は瞬間跳躍型。手強い相手だが、どちらも重量がある。
あれなら、最初の2秒で横風を切れる!
目の前に刻まれるコースは、スキャン不要。
ここは、何度もシミュレートした。すでに体が覚えてる。
視界の隅、3本の線が交差する。
バイザーには各ルートのガイドビーコンが表示される。
《ルートA:遠回りな安全地帯》
《ルートB:ショートカット可能な速攻突破》
《ルートC:クラッシュ率8割の最速軌道》
もちろん迷わず、Cだ。
◆◆◆
オォォォっと!? ゼッケン77、迷わず突っ込んだァッ!!
通常ラインを外れ、廃ビルの隙間をブレードのように切り裂いていくッ!!
これは《ルートC》! 突破率17%とされる、超・最短距離だッッ!!
すごい、すごいぞラン・クロウ! コンクリートの割れ目を拾っての反発加速、彼はまだまだ加速する!
そう、彼は地形を蹴って走っているのでない、踊ってるんだ!!
◆◆◆
よし、想定通り。
ブロックの右端、突き上げたダクト。
俺は、膝を曲げ、ギアのフレームに負荷をかけてーータイミングを合わせる。
「跳ねろ!」
歪んだダクトの先端を蹴り壊すつもりで一気に跳躍。
空中制御、ブースト不要。
俺は更に、廃墟の柱を壁蹴りで反転し、着地直前にギアのエアスラスターを半秒点火。
次の直線にそのまま滑り込む。
◆◆◆
これはヤバいッ! 彼は速いだけじゃない! 歴戦の戦士を思わせるような、本能の処理だッ!!
まるで昔の戦闘記録を見ているようです! ……否、今こそ彼の“生”がここにあるッ!!
さぁ各選手、第一セクターに突入ーー!!
最初のジャンプセクション、《ヘルズブリッジ》を目前にして……。
最速通過は……ゼッケン77、《ラン・クロウ》だぁ!!
◆◆◆
落ち着け……ここは通過点だ。
勝つために、何を切り捨てて、何を守る。その見極めを誤ってはならない!
心ではわかってる……ゴールはまだ先だ。
でも、ここで一歩でも前に出なきゃ──
「俺は、“生きた”とは言えねぇんだよ」
◆◆◆
第二区画、地下迷宮を抜けてきたのももちろんの男!
ゼッケン77、ラン・クロウだ!
このまま彼の独走状態でこのレースは早くも幕引きかぁ!?
いやいやそんな簡単には終わらない、終われない!
戦場に、もう一人の“怪物”が牙を剥いたぞ!!
ゼッケン《04》! アマチュアランキング第5位“鋼の烈風”ーー《バリス・ヴォルテクス》!!!
彼の登場するギア《グラヴィス・デルタ》に搭載された超高圧加速装置が火を噴いたぁ!!!
コース全域に響きわたる重低音!
まるでブースターが魂ごと焼き尽くす咆哮だ!!
◆◆◆
……来たか。
後方左45度、爆ぜるような音。間違いないヤツだ。
空気が変わる。重い。
ギアの駆動じゃない、圧力そのものが襲ってくる。
「ヴォルテクス……“鋼鉄の直線番長”が、ニトロを切ったか」
この最終コーナー、通常は減速必須。
でもあいつは、絶対に曲がらない。
捻じ曲げるだろう。物理を。ギアで。
◆◆◆
さぁ残り300メートル!! コーナー手前でクロウがわずかにブレーキ!!
だがそれを外から刺してくるのは! ゼッケン04! 《バリス・ヴォルテクス》、圧倒的な速度差で仕掛けてきた!!
最終コーナー《コールド・クレイドル》ーー突入ッ!!
この急旋回の“氷刃の弧”を、二人はどう切り抜けるのか!!
◆◆◆
……速い。でも、読んでいた。
あいつのギアは、大型の高出力。故に制動補助が搭載されてる。
つまり、最終フレームで必ず“ズレ”が生まれる。
「勝つなら、ここしかない」
俺は、一瞬だけ息を殺し、右脚のアクチュエーターを全開に入れる。
視界に映るメーターが更に振り切れ、ガタガタを悲鳴を上げるが気にすることなく突っ込んでいく。
コーナー内側、冷却材がまだ乾いていない箇所へ滑り込む。
通常ならスリップ必至だろう。
だが、俺の“生身の身体”は、そこに馴染んだ。
まるで氷の上を滑るスケーターのように、身体ごとギアを傾ける。
来いよ、化け物。
このラインは、俺しか走れねぇ。
それでも……来れるなら、
「来てみろ、ヴォルテクス!!」
◆◆◆
なんとぉ、信じられません!! ゼッケン77! コーナー内側、冷却材ラインを滑っている!!
普通では制御不能な“あの区画”を、ギアではなく体で曲げたぞ!?
外側から追うヴォルテクスとの差が……詰まる! 詰まる!! 詰まったァァァ!!!
並んだーー並んだぞォォ!!
残るは最終直線、まさに命の一閃ッ!!
勝つのは生身の亡霊かッ!
それとも鉄の烈風かッ!!
◆◆◆
さぁ盛り上がってまいりました。
最終コーナを両者見事に抜け、完全な横並び!!
どうなるクロウ、どうするヴォルテクス! このままじゃ判定すら出せないぞォォ!
「ふぅ~……」
「こぉ……」
二人のスピード・ギアが、空気を裂いた。
鋼鉄の機動に走る重圧。
軽量ボディの加速がもたらす風の斬撃。
前方、残り距離は150メートル。
……そして、ニトロがーー解き放たれる。
◆◆◆
よし、完全に読めてた。
ヴォルテクスはここで撃ってくる。
奴は“最後で勝ちを決めるタイプ”だ。
問題は、俺が一歩先に撃てるかどうかだった。
勝ちに行くなら、タイミングは“完璧”じゃないとダメだった。
「いまだ!」
俺は右手に握りしめたグリップ、親指に仕込んだトリガーを、押し込む。
◆◆◆
来たァァァ!!! ゼッケン04、《バリス・ヴォルテクス》、本日二度目、最終のニトロを解放だぁ!!!
おぉっと、それにクロウも反応したッ! ゼッケン77《ラン・クロウ》! まさかの同時ニトロ発動!!
まるで弾丸!!
疾風が、今、風景ごと置き去りにしたァァァァァ!!
◆◆◆
ヴォルテクスのギア、《グラヴィス・デルタ》が轟音を上げる。
複数の方向から噴出される圧縮燃焼ブースト、ギアのフレームはわずかに震えながらも速度を上げていく。
ーーだが、俺には追いつけない。
俺のギア《RX-Falcon》は、フレームを削ぎ、部品を減らし、ただ「前に進む」だけに特化した設計だ。
同じ火を使っても、軽ければ軽いほど、先に行ける。
ーーブーストの伸びが違う。あっちの出力は上。でも重い。
「先に風を切るのは、俺だ」
風景が一瞬、白に溶けた。
風圧で目の奥が軋む。
でも、構わない。
「……行け、行け!」
◆◆◆
差が生まれたぞ!! 差がッッ!!
ヴォルテクスの超火力ニトロを、クロウが……ッ!!!
抜いたァァァァァ!! ラン・クロウ、最後の最後で加速に勝ったァァァ!!
これは……これは、歴史的瞬間だッ!!
Speed Gear Racing、デルタ・ラッシュ第5戦ーー勝者は……ゼッケン77! ラン・クロウ!! 生身の亡霊が、鉄の暴風を置き去りにしたァァ!!
◆◆◆
ーーやっぱり、これだ。
足元から、焼け付いたアクチュエーターの臭いが込み上げる。
全身の関節がまだ振動してる。
……でも。
ーーこの音、この痛み。この一瞬の、静けさ。
これは……あの頃と、似てる。
けど、あれとは違う。
今はーー俺の意思で、前に進んでるんだ!