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第七齢「儀式の経血」

 旧都アイビス 地下水道

 強烈な臭気に当てられて男が目覚め、下水に塗れながら立ち上がる。長剣は抜かれているが左胸の傷は開いたままで、化膿していた。絶えず蝶が流れ出ては羽ばたき、地下水道の内部は紅く霞んでいる。男は思わず違和感のある傷口に触れ、僅かな力で膿疱が破れて膿が漏れ出る。膿は通常の黄緑がかった液体ではなく、海中から月を見上げたような、異様な蒼色であった。

「ダメだな……生きては帰れないだろう」

 男は手を振り抜いて膿を手放し、水面に浮いていた自分の長剣と、その近くに突き刺さっていた鞘を回収し、騎士と共に壁に辿り着いていた銃を拾い上げる。

「これだけ水に浸かっていたらもうダメだな。火薬がしけっている」

 男は銃を捨て、水の流れに従って地下水道を前に進んでいく。

「建造物の繋がりがめちゃくちゃだ。とても現実とは思えない……」

 膿を垂れ流しながら進むのに合わせて、典型的に濁っていた下水が変色していく。

「クソ……ッ」

 男はそれには気付かず、しかし激しい消耗によって壁に寄りかかり、休憩する。同時に男の後方に大型の何かが降ってきて、着地によって水面を高く跳ね上げる。

「……!」

 男がそちらへ向いて確認すると、何かは醜いと形容するのも甚だしいほど醜悪な外見をしており、複数の獣の脚部によって四足歩行を行っているようだ。明らかに尋常でないことはわかり、男は傷を庇っていた手を離して、全力で駆け出す。獣は全身を前方に投げ出すような異様な走法で詰めにかかり、下水に浮かぶ生き物やゴミを取り込んで膨れ上がっていく。地下水道はなぜか分岐が一つもなく直線で、男はこれ幸いとばかりに愚直に走り続ける。獣は膨れるほどに遅くなり、男はそちらを向いて少し速度を緩め、そして終端に到達していたことに気付かず踏み外して落下する。

「なっ……!」

 男は空中で懸命に身体の向きを整えようとするが、上手く行かずに水面から顔を出していた鞘に突き刺さり、腹を貫通される。間もなく、男が落下した地点からもはや巨大なスライムのようになった獣がずるりとはみ出て、重力に任せるままに男と同じ足場に降りてくる。男は痛みを堪えて立ち上がり、胴体を深々と貫いている鞘を強引に貫通させて自身の手に取る。そして抜刀し、現れた長剣は、膿と同じ色合いの刀身で、淡い蒼光を放っている。反応するように獣の身体が割り開かれ、内部から人間の上半身が接続された巨大な頭足類のような魔物が姿を現す。魔物は膿と同じ色の刃を持った大鎌を握っており、男を発見すると戦闘態勢に入る。体格差に合わせて魔物は大きく姿勢を下げながら男へ斬りかかり、男は傷と水に足を取られている状態故に頭を屈めて避け、返す刃を長剣で受け止める。魔物は素早く引き込んで男の姿勢を崩しながら振り上げて致命傷を狙い、長剣で再び受け止めながら魔物の膂力に任せて下水から上がり、飛び上がりながら魔物の頭部に長剣を突き刺し、全体重をかけて首を切り落とす。切断面から溢れる大量の膿に男は巻き込まれ、再び意識が遠退いていく。

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