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第六齢「デッドマンズ・キャバルリー」

 旧都アイビス 街区

 蝶の群れが消え失せると、再び燃える少女とフレスの姿が消え、男だけが残される。

「またか……」

 男は武器を納め、間もなく燃え尽きる家を見やる。紅い雨は止まず、そして男を囲むように案山子の魔物たちが次々に現れる。しかし敵意は無く、男は消耗しているがそれを察し、不自然なほど早く炭化した瓦礫となって家を一瞥して、石畳の道を前に進み始める。

「……」

 男が不意に空へ注意を向けると、赫に染まった月が、黒い炎に食われ始めているのがわかる。男は明らかに疲弊した表情で溜息をついて前進を再開し、導かれるように行き止まりの小教会に到着する。男はもはや、何を疑問に思うでもなく扉を開いて入り、正面奥にある祭壇に腰掛ける少女と目が合う。

「君が、我らの王の兄君だね」

 少女の目前で跪き、彼女の足で肩を押さえつけられている騎士が言葉を発する。わかりやすくフルプレートアーマーで、黒い炎と紅い蝶に穢されている外見だ。少女が足を動かし、爪先で騎士の顎を上げ、そちらと視線を合わせてから騎士が立ち上がる。腰に佩いた長剣を左手で抜きながら振り向き、二歩前に出て、明らかに育ちと外見の良さを伺わせるように佇む。

「好奇心は猫をも殺す。君の知りたいと思う気持ちが、我々の王を目覚めさせたのだ」

 騎士の語りに合わせて少女が笑みを見せ、男が無意識に二歩前に出て、扉が勝手に閉まる。

「さあ、武器をお出しください。知識の探求は、命のやり取り無しには得られない」

 騎士は明らかに正気とは思えず、鎧の内部から黒い炎が漏れ出す。男は仕方なく背から長剣を抜き、続いて銃も左手に持つ。

「赫は間もなく満ち満ちる……」

 誓うように長剣を正面に立ててから、騎士は踏み込み、一歩で数m飛んで刺突を繰り出す。男は寸前で切っ先を長剣の腹で往なしながら右側へ飛び込み、向きを合わせながら近くにあった木製の椅子を蹴り飛ばす。騎士は振り向きながら振るって椅子を切り裂きながら右手を突き出して黒炎を放ち、男は翻って躱しながら長剣を鞘に合体させながら振り上げて鞘を飛ばし、騎士は左腕で鞘を受け止める。重厚なそれを受け止めた衝撃で騎士は硬直し、男は反転して祭壇へ銃を向け、少女へ連射する。左目、首、耳、帽子を連続で貫くが、少女は間もなく銃弾を口から唾液とともに吐き出し、傷が癒える。そして眼の前の敵から注意を逸らした代償か、騎士が過たずに長剣を突き入れてくる。左胸を肋骨の下から貫き、捻りながら抉り込む。

「うぐっ……ぁあッ……!」

「ああ……やはりあなたは我らの王の伴侶となるに相応しい……!」

 騎士は歓喜に満ちた声を上げ、男の傷口からは血の代わりに身を細めた紅い蝶たちが漏れ出して飛び立ち、小教会の内部が紅く染まっていく。

「なんだ……何が起きてる……!?」

 男は痛みもどこかへ消えるほど驚き、騎士は意思を失ったように停止する。

「お兄ちゃん」

 少女は祭壇から降り、歩み寄って既に動力を失った騎士の兜を優しく撫でる。

「お兄ちゃんが来てくれたおかげで、赫は完成するよ」

 突如として床が消え、男は騎士ごと奈落に放り出される。

「大聖堂……そこが、赫のはじまり、お兄ちゃんの旅のおわり」

 男は遠ざかっていく少女を見上げながら、意識を失った。

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