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始まりの一歩は真っ白な朝だった。正午には子どもたちのはしゃぐ声が遠くから微かに聞こえ活気づく村も、早朝となればその限りではない。目の前に広がる草原に見えるのは家と田畑と動物くらいで、人の姿は見えない。ふと上を見上げてみると、空一面に雲が敷き詰められ大陽が隠れていた。だが過ごしやすい気温だ。鼻を通りすぎる空気は澄んでいる。自分以外の、村の人々がまだ眠っていることが分かると、両手を目一杯持ち上げ深呼吸をした。「よし!」頭が冴えて、ようやく覚悟が決まった。不安や自分を引き留める理由はいくつも思い浮かんでいたが、寝起きの頭を誤魔化すのには苦労しなかった。隅に追いやった恐怖が大きくなる前に特大の歩幅で進む。少しして家を取り囲む柵を出る直前、振り返って自分が育った家を眺めた。すると家だけでなく、その中で今も眠っている両親や机の上の置き手紙、更には祖父と一緒に過ごした日々も目に浮かんできた。それに一抹の寂しさを覚えたが、自分の夢や祖父の願いも同時に思い浮かんできていて、優しく背中を押された。「じゃあ、行ってくるね」自分にも聞こえないくらいの大きさで呟くと、キューは堂々と歩いていった。




