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ARCADIA 星跡の都編〜The METEOR CAPITAL chapter〜

作者: noel

 王国編に出てくる湖と王都リバースの再生の物語です。


    挿絵(By みてみん)



 かつて都として栄えた城の周りを囲む町は、一筋の光線が見えた刹那、吹き飛んだという。

 遠方の地でもその光は目撃され、人々は口々に星が落ちて来たと語った。

 火災が収まり、様子を見に行った人々は、大地にすり鉢状の穴が穿たれており、そこに有ったはずの城も町も木々もくり抜かれている事に言葉を失った。


 目の前に広がるその信じがたい光景に、弟の王子と伴に北方辺境の直轄領への静養で難を逃れた王女は、呆然とするしか無かった。

 王位継承とはかけ離れた三女と四男。

 父王は力強く国を治め、上の兄弟達はその父を良く補佐していた。

 身体があまり丈夫ではない姉弟は無理をしなくてもいいと、政務は任されておらず、夏の静養に出ていたのだ。


 王女キャロラインは思わず空を見あげた。もしや大地ごと空に浮かんでいるんじゃないのかと。

 残念ながら青々とした雲一つない空が見えるばかりだった。


「お姉様、父上や母上、みんなはどこに行ったの?」


 この光景を見ても理解できないほど、弟王子は幼かった。


「見てわかるでしょ?ここには居ないのよ。どこ行っちゃったのかしらねえ」


 現実主義の王女はやさしい嘘などつけず、ただありのままを伝えた。


「早く帰ってくればいいね」


 みな、二度と帰ってこないとは流石に言えず、キャロラインは無垢な弟の頭をよしよしと撫で、にっこりわらった。

 悲しく無かった訳では無い。ただ現実的にもう二人しか肉親はいないのだ。弟の前でメソメソしてもしょうがない。

 王都がこの状態ではもうこの国は立ち行かないだろう。そして、自分たちには政治能力はない。

 しかも平時ならともかく壊滅的なこの状況だ。


「キャロライン様、このあと、どうします?」


 ここまで無理を言って連れてきてもらった辺境伯がキャロラインに尋ねた。

 弟王子にはあまり聞かせたくないので、辺境伯の従者とあっちで遊んできなさいと追いやる。


「ひとまず休めるところはあるかしら。何なら辺境に戻ろうかしら?」


「それは流石に無いでしょう。周辺に住む民が王女と王子が帰って来たと涙を流して喜んでいたではないですか」


 確かにこれで何もかも解決するような喜び具合だった。いい大人達がこんな子どもに何を期待するのか。


「じゃあどうしたらいいの?何なら貴方が王様になってもらっていいのよ?」


「ご冗談を」


「だって私達が何の役にたつというの?」


「それはそうですが、皆、貴女方に期待してるのですよ」


 役に立たないと言い切った!

 いや、むしろ清々しいが。


「わかったわ。じゃあ貴方が爵位のある者を招集しなさい。見てのとおり費用は出ないから、取り立てなさいね?あと人手もよろしく」


「ええ!?私がですか!?」


「そうよ。がんばってね。私は自分に出来ることをするわ」


「出来ること?」


 あれだけ焚き付けておいて、首を捻る辺境伯が憎たらしい。


「取り敢えず、皆に聞くわ。ここに残って復興したいか、どこかに遷都するか。残りたいならここに再興すればいいし、遷都したければどこかの領地を接収するから」


「簡単に言いますなぁ」


「だってそれしか無いじゃない。答えはシンプルよ」


 現実主義の王女はひたすら現実的だった。




「みんな集まってくれてありがとう。私は第3王女のキャロラインよ。辺境に静養に出ていて、生き残ったわ。私もあまりの事に呆然としているの」


 王族らしからぬ気軽な物言いに、集まった周辺住民は驚いた。第3王女はあまり人前にでず、にっこり笑った肖像画の印象しかない。

 愛くるしく、たおやかな見た目で、繊細なイメージを抱いていた者が多く、早くもそんな幻想は崩れ去った。


「いい?今からみんなに決めてもらいたいの。ここはこんな有様だけど、ここに残って復興したいか。それともここ以外の土地に行くか。その場合は遷都するのか。それともどこかの爵位がある貴族に王になってもらうか」


 王族があっさり王位を譲っても良いと宣言した。


「あ、あの…まだ王女様も王子様もいらっしゃるのに、そんな事…」


「そうはいっても私より年上の王族は生き残ってないし、城の兵士も城下町もそこに住んでいた人々ももういないわ。仕組みがすでにあってそこに座ってニコニコしてれば良いならともかく、ゼロどころかマイナスからはじめないといけないのに、私と王子が皆が満足いく答えが出せると思う?悲しいけどそれが現実よ。なら、私達は生き残るために選択しなくてはいけないわ」


 たおやかな見た目で淡々と話す王女にみな目を見開く。


「簡単に決められないと思うけど、みんな家族と話し合って明日また集まってほしいの。いい?みんな自分で決めるのよ?そして決めたからには全力で取り組む事。誰がどんな決定をしても皆咎めない事。良いかしら?」

 

 次々と正論を説かれ、呆気にとられながらも、裏表なく本音を語る姫に、これからどうすればいいのかと悲嘆にくれていた人々は、光明をみた気がした。

 自分は何もしないと公言しているのに、この現実を目の当たりにして尚真っ直ぐと前を、未来を見据えているその姿に、何かをもらった気がした。

 

 翌日、ほとんどのものが残ると言った。何人かは親戚などのよりどころがあるとの事で、ここを離れる事に決めたそうだ。

 王女の言葉どおり、誰も何も責めなかった。


「みんなよそへ行くと思っていたわ。本当にいいの?後悔しても、選んだのは自分たちよ?」 


 キャロラインは念押しした。

 人々は笑って答えた。


「俺は大工だ!仕事がいっぱいで腕が鳴るぜ」


「まあ!今一番必要な事ね!頑張って」


「私は石工です。道を整備しましょう」


「嬉しいわ。私の靴はもう泥だらけよ」


「私は木こりです」


 そうして次々と名乗り出る人々に笑顔で応えた。


 キャロラインは本当に何もしなかった。ただ人々の声を聞き、笑顔で謝辞を述べ褒めまくった。

 復興のため、大工が皆が寝泊まりできる小屋を作ると、キャロラインと王子はそこの一棟に移り住んだ。


「姫はよくこんなベッドに眠れますなぁ」


 指示したとおり各領地から資金と資材、人手を連れてきた辺境伯は驚嘆した。

 身体が弱い姫と幼い王子が粗末な家で暮らしている。何だか居た堪れなくなった。


「ぐっすり眠れてるわけないでしょ?何言ってるのよ。あなたが私にそうさせたんでじゃない。冬までに暖炉付きの家を建ててちょうだい」


「承知しました」

 

 姫が唯一文句をダラダラ言うのは、辺境伯だけであった。

 彼は知っている。王都の異変を聞き、姫が一晩彼の腕の中で泣き明かしたことを。

 だが泣くだけ泣いて、それ以降は泣かなかった。


「自分の目で確かめに行くわ」


 泣き明かした翌日、姫は言った。

 弟王子は姫にべったりだったので一緒について行った。

 元々、姫は辺境伯に輿入れする予定であった。だが王族がたった二人生き残った状況で、弟王子1人残してはいけないと、辺境伯に破談を申し入れた。


 それからも姫はただ寝て起きて、みんなのところをくるくる回って歩き、すごい!素敵!最高!と褒め称えてはニコニコしていた。

 時には疲労で倒れてしまったものにもこう声をかけた。


「そんなに頑張ってくれたのね!ありがとう。でも今はゆっくり休んで。だって動けないんでしょ?無理しないで休む休む!」


 姫の笑顔と労いの言葉は、皆に力を与えた。すり鉢状の穴と、焼けた大地。まずは整地から。瓦礫は穴に埋めれば良い。

 だがその前に姫が言った。

 

「ねぇ、星の石、見てみたいわ。あの穴の底に見える石がそうなんでしょ?辺境伯、私をあそこに連れて行って」


 姫は笑顔で無茶振りした。

 すべてを一瞬でなぎ倒した痕跡をこの目で見たいと言う。

 辺境伯はやれやれとため息をつき、大工を更に10人ほど領地から呼び寄せた。

 姫が安心して降りられるよう木組みの階段まで作られた。

 姫の願いを叶えられるならと、1日仕事をしてヘトヘトのはずの職人たちも手伝い、すり鉢状の穴の底に至る階段が出来上がると、姫は早速穴の底まで降りていった。


 円形にえぐり出された黒く煤けた土肌。

 その上に青く広がる空が見える景色は、異様な光景だった。

 ゴツゴツしているものの、黒光りする星の石は確かに大きいけれど、これほどの穴を穿った存在にしてはこじんまりとしていた。

 

「この石が、父様や母様、兄様や姉様、城や町の皆を連れて行ってしまったのね……」


 姫は石を撫でながらポツリと呟いた。

 一緒に穴の底に降りた職人たちは、その呟きに、普段はニコニコ笑っている姫の本当の哀しみを感じ取った。


 姫は空を振り仰ぐ。つられて皆も空を仰ぐ。

 そこにあるのは、ただただ高い群青の空。

 そうして長い事、丸く縁取られた絶壁と空を見上げた後、姫は明るく言った。


「しょうがないわよね。もう星は降ってしまったんだもの。無かったことにはできないわ」


 姫はどこまでも、ただ現実を告げるだけだった。


「ねぇ、やっぱり星なのね。何かキラキラしていない?」


 姫が黒光りする石を撫でながら言った。

 確かに石は光に当たり七色の光を反射している。


「こ、これは……!?」


 商人の男がポケットからルーペを取り出し星の石の表面を観察した。


「ダイヤモンドです!この石にはダイヤモンドが含まれています!!ああ、このあたりの地面にも!?」


 商人の男の声が穴の底に響き渡った。




 そして、10年の歳月をかけ、都は復興を遂げ、名をリバースと改めた。

 幼かった王子は立派な青年となり、民に請われ長く空位だった王座に就くこととなった。

 復興を支えた星の石とその穴は、王子が即位する直前に、石の下から水がわきだしたかと思うと見る間に湖になってしまった。まるでその役目を終えたかのように。

 この湖の底にはいまでも星の欠片が沈んでいる。その周辺からはまだダイヤモンドが取れるそうだが、水底深く沈んでいるため採掘が難しいらしい。

 だが星が落ちてから水が湧き出すまでの間は多くのダイヤモンドを採掘でき、復興の財源になったそうだ。

 もともとダイヤモンドが産出される土地

ではなかったため、星の贈り物とされていた


 

「姉上、長い事ご苦労をおかけしました。これからは精一杯ご恩をお返ししますので…」


 即位した王子改め王が姫に感謝を述べる。


「いらないわよ。あとはあなたの好きにおやりなさい。私は隠居させてもらうわ」


 しかし、姫はそう告げて辺境へ旅立った。


「あなたも物好きね。ほんとにずっと待ってるとは思わなかったわ」


 姫を迎えに来た辺境伯はくっくと笑って答える。


「姫に振り回されて、よそ見する暇もなかったですなぁ。やっと貴方をお迎えできて感無量ですよ」


「大げさね。もう行き遅れの年増なのに」


「それはお互い様ですな」


「そうね。同い年だものね」


 その後、二人の間には子どもが産まれた。身体が弱かった姫は長年の無理がたたりその子が大人になる前にこの世を去ったが、短くとも辺境伯と仲睦まじく幸せな晩年だったという。










 実はこの話、レジスタンス編に出るキャロラインをヒロインとしてデザインしたにも関わらず、出番が皆無だったために救済編として書いたものなんです(笑)

 私は星が大好きなのですが、クレーター湖と高温高圧でダイヤモンドが生成された…かもしれないという設定で書いてみました。

 キャロライン、サバサバしてて好きなんですけどねぇ。サバサバしすぎて甘い要素が皆無でした……。

 この話でも、ほんとに何もしないヒロインです。

 ただ悲観に暮れるだけでも無く現実を見つめる様は潔いですね。

 弟王子、グレンです(笑)

 きっと辺境伯は力になってくれたと思いますが、即位した途端置いてけぼりになって、ちょっと可哀想。

 だけど、この10年で彼を支える体制も出来上がっていたのでしょう。

 この後、キャロラインは聖女信仰のシンボルになります。神よりキャロライン様のハッパのほうがよほど人々の救いになったのでしょうね。

 辺境伯はライアン・リーズナー。レジスタンス編の落書きに出てきた整備チームのモブ男さん…。


 ARCADIAは各時代のそれぞれの理想に向かって生きる人々の物語です。


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