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It's top secret!  作者: 八嶋 黎
1章 RemembeЯ編 (全46話予定)

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22/28

第22話 新人と裏事情

 ゴールデンウィークの終わりごろになった。

 隊員は朝練を終え、自主練しながら地下訓練室でたむろしてた。


 ICPO top secret 002の紅忍(くれないしのぶ)は壁に背を預け、女性陣の戦闘を眺めつつ水分を取っていた。

 忍自身、他の top secret の訓練の為に朝からずっと戦っていた。ここで小休憩だ。


 ICPO top secret 007の魔女(まじょ)()ルナはサブウエポンのナイフで、ICPO top secret 009のΣ(シグマ)はサブウエポンの短刀で戦っている。

 本来ルナは魔法のステッキを使い、ICPO top secret 001の黒真珠(くろしんじゅ)の補助として時々戦っているだけのため、戦闘の経験値が足りていない。実践を重視して忍に育てられたΣと戦うのは丁度良いと思えた。


 FBI top secret 003の黒曜石(こくようせき)(通称:黒磨(こくま))は相変わらず落ち込んではいたが、警視庁捜査一課勤務の宮崎竜士(みやざきりゅうじ)の襲来で多少は切り替えができるようになったらしい。危機感のなせる業だった。

 同じチームメンバーで徒手格闘をしていた。


 その他隊員は戦っていたり、休憩しつつ喋っている面々も居た。

 裏事情では問題しか起こっていないが、もう仕方ない。探り合いの視線をスルーしながら、再度水が入った古めかしい水筒に口を付ける。



 ブツッ……


《 top secret に継ぐ。10分以内にラウンジに集まりなさい。もう一回言うわね?10分以内にラウンジに集まりなさい。以上》


 ブツッ……と音が切れ、安井司令からの放送が切れた。


「……呼び出しかぁ……」

「まぁた何かあったのか?」

「トラブルは御免(ごめん)だな」


 ICPO top secret 004のDr.殺人鬼(ドクターさつじんき)、ICPO top secret 005の人斬(ひとき)(ざむらい)、ICPO top secret 006の人喰い(カニバリズム)が口々に呟く。


「とにかく、向かおうか」

「だな。行くぞ」


 ICPO top secret 001の黒真珠(くろしんじゅ)、FBI top secret 001の十字石(じゅうじせき)が互いの top secret に声をかける。

 top secret は【A、Bチーム】【C、Dチーム】の順にエレベーターに分かれて乗り、5階へと向かった。



 ---------------



「来たわね」


 忍たち【A、Bチーム】がラウンジに入るや否や、若干不機嫌な安井(やすい)が出迎えた。

 隣にはエリックと知らない女性が居た。女性は金髪で眼鏡をかけた、西洋の顔立ちの美女だった。多分、ハーフではないだろう。外人っぽい。


 会議前から不機嫌なのかよと思いつつ、忍は適当な席に座る――が、ICPO top secret 003のDr.殺死屋(ドクターころしや)は安井から遠く離れた席へと向かった。


「……?」


 声をかけようか迷いつつ、忍は殺死屋の顔を覗く――!?


 殺死屋の顔色が悪い。真っ青だ。

 俯いて顔を見せないようにしているが、冷や汗だらだら。よく見ると震えている様子だ。


 嫌な予感がする。

 忍は咄嗟(とっさ)にΣの手を握り、殺死屋の居る、目立ちにくい席へと着席した。


「え――?」


 Σは不思議な顔を向けてくるが、殺死屋の表情で何かを察したらしい。ひとまず黙ることにしたようだ。

 置いて行かれたFBI top secret 005の鬼火(おにび)は不思議な表情をしていた。だが、忍が裏で何か問題を抱えつつ動いていたのは知っていたため、事情を後で聞くことにして平静を装い前を向いた。


 黒真珠、ルナ、ICPO top secret 004のDr.殺人鬼(ドクターさつじんき)は疑問の表情を浮かべたが、殺死屋たちが後ろの席に座るので、目立たないようカモフラージュの為に忍の周辺に座ることにした。


 その時、ふとルナが呟く。


「私――あの人、嫌い」

「あ、私もです。……何か、気持ち悪い……」


 その言葉を聞き、女性陣以外の【A、Bチーム】メンバーが眉を(ひそ)める。殺死屋に至っては驚愕の表情でΣを見つめた。


「理由を聞いていいか?」

「えーと……。強いて言うなら、女の勘……?」

「ルナに同じく、です。あと、何か寒気?震え??もします……」


 Σは自分の身体を抱きしめるような仕草をした。

 【うしゃぎ】が居れば抱きしめていたのだろうが、【うしゃぎ】は仮眠室でお留守番だった。


 Σの回答にルナは驚く。


「えっ!?……私はそこまでじゃないけど……でも、警戒したほうが良いと思う」


 ルナは再度警戒を促した。


「……?そんなに怪しそう……?普通じゃねー……?」

「僕も……普通に美人な人だと思うけど……?」

「ヤバいのか……??俺には全くわからないが……」


 鬼火、殺人鬼、侍はよくわかっていないようだ。だが――


「……警戒、していたほうが良いだろうな。必要以上に関わらないようにしよう」


 忍は結論付け、警戒するように促す。

 理由は殺死屋の様子と――ルナたちの【女の勘】。

 【同性に嫌われる人間に、碌な人間はいない】――この格言を知っていたからでもあった。



 ---------------



「集まりましたね。本日集まってもらった理由は2つあります」


 【C、Dチーム】がラウンジに到着し、各々が座席位置を不審に思いながら適当な席に着いた後。エリックは話を切り出した。


「1つめは彼女の紹介です。名前はエリー。FBIから来た、新人ですよ」

「はじめまして。エリーです」

「彼女――エリーは皆さんのバックアップに入ります。医師免許も持っているため、現場で怪我をしたときは気軽に頼ってくださいね」


 エリックはエリーを明るく紹介し、エリーは笑顔で挨拶した。

 だが、そのエリーに対して暗黒の視線を向けている者がいる――安井だ。エリックに近づき、仲良くする女が気に食わないのだろう。



 ――うっわぁ……。醜い恋愛バトルは他所(よそ)でやってくれ……。



 安井の視線にドン引きしつつ、忍は室内を見回す。

 【C、Dチーム】の反応は様々だった。


「きれいな髪の、お姉ちゃんにゃー」

「へー。新入りなんだ……」

「うお、美人」

「エリック副司令と並ぶと、様になるな」


 といった、エリーを怪しまずに賞賛を送る者。

 FBI top secret 007の斎槻(いつき)、FBI top secret 006の朝吹(あさぶき)、FBI top secret 004の一縷(いちる)、ICPO top secret 006の人喰い(カニバリズム)の4名だ。


「……うわ……巻き込まれたくないなぁ……」

「怖っえぇ……」


 安井の視線と空気から面倒ごとの予感を感じ取り、肝を冷やす者。

 ドン引きしている黒磨(こくま)と十字石の2名だ。「これ以上の面倒ごとは必要ない」と思っているのだろう。


「……へぇ?……面白くなってきたね」

「Oh LaLa……!キャットファイトか。……ミスターエリックはモテるねぇ……☆」


 反面、楽しみ始める者も居た。

 冷え切った瞳で上司陣を見つめるが、口元は緩んでいる。双方の top secret 年長者(FBI top secret 002の霧雨(霧雨)とICPO top secret 008の死神(しにがみ)ネルガル)は良い性格をしているようだ。



「2つめは【RemembeЯ(リメンバー)】の動向です。……数日前、日本の研究施設が爆発した事件は知っていますよね?犯人はRemembeЯ(リメンバー)でした」


 エリックは言葉を切り、ホワイトボードに建物の写真を貼り付ける。


「実は、研究員を殺害した後に建物を爆発していたようです。この一件により、本格的に日本で動き出したと思われます。これからは出動回数が増えると思いますが、どうか皆さんのお力を貸してください」


 top secret 隊員の方を真っすぐ向き、エリックは言葉を締めた。

 国際テロリスト集団である【RemembeЯ(リメンバー)】は粛清対象。だが、エリックにとっても【RemembeЯ(リメンバー)】は捕まえたい敵だ。

 エリックが捜査につぎ込む熱量は凄まじかった。


 普段であればすぐにでも情報が巡ってくるはずだが、今回は時間がかかったようだ。……日本の警察が、ICPOに情報を渡さないよう工作していた可能性が考えられた。

 気持ちはわかるが、すぐにでも教えて欲しかった。



「集まってもらったのはこの2件だけですよ。お手を煩わせてしまいましたが、どうぞ訓練を再開してくださいね」


 にこやかに発言したエリックに、忍はこれ幸いと訓練の話題に切り替えることにする。


「じゃ、水分取ったら地下でもっかいやるか。敵役は俺が。――いつも通り、中心で引き受ける」

「えー忍、スパルタじゃーん……」

RemembeЯ(リメンバー)とかと戦って、あっさり死ぬよりいいだろ。はいはい、行くぞー」


 忍は鬼火の言葉を無視し、全員が地下へと向かう用に誘導する。

 結果、全員がぞろぞろと外へ出て、自販機へと向かう。



 忍は出て行く集団に紛れつつ、エリーから殺死屋とΣが視線に入らないよう気を付けつつラウンジを出た。

 そして、すぐに自販機とは違う方向――Σの仮眠室がある方向へと向かう。


 その様子を見た他の top secret は(いぶか)しむ。

 忍は殺死屋から手を離し、後ろ手で【警戒】のハンドサインを送った。

 サインを受けた十字石や霧雨の瞳が鋭くなる。

 何人が見たのだろうか。後ろを向いていたからはっきりした人数はわからない。だが、確実に意図は伝わっただろう。ここはこれで良しとする。


「Σ。仮眠室で【うしゃぎ】を回収したら、即地下へと向かってくれ。俺は殺死屋と地下で話す」

「わかりました」


 本当はΣを1人にしたくはない。

 だが、まずは殺死屋と話さなければ。エリーはきっと碌でもない。


 Σは仮眠室の鍵を開け、扉付近までお出迎えに来ていた【うしゃぎ】を抱きかかえる。ついでに飲み物を冷蔵庫から回収した。

 再び部屋に鍵をかけ、廊下で告げる。


「――行けます」

「わかった」


 3名とぬいぐるみでエレベーターホールへと向かう。

 エレベーターホールには他の top secret が集まっていた。どうやら水分は購入し終えたらしい。


「悪い。誰かΣを見ていてくれないか?エリーとかいう女に、絶対に近づけないようにしてくれたらそれで良い」

「なら、俺が。ルナと一緒に居させる」

「俺らも見とくから、安心してくれ」


 忍の言葉に、黒真珠と十字石が返してきた。両 top secret のまとめ役が行ってくれるのは心強かった。


「……大丈夫か?」


 黒真珠が聞いてくる。

 黒真珠は忍を探りに行った結果、殺死屋の過去に触れていた。おおよその見当は付いているのだろう。


「悪いが、次乗らせてくれるか?……殺死屋と今後の対策を考えたい。――早急に」

「わかった。乗ってくれ」


 黒真珠は道をあけ、次のエレベーターに乗れるよう前へと進ませてくれる。

 忍は礼を言い、殺死屋とΣと共に前へと進む。

 そして――タイミングよく到着したエレベーターに、忍たちは颯爽と乗り込んだ。



 ---------------



 地下訓練場に集まった面々は、適当に過ごしていた。床に座る者、寝転ぶ者、お菓子を食べている者もいた。大義名分だったはずの訓練をしている者は1人もいなかった。

 その中で18歳以上は固まり、情報交換をしていた。


「やべぇよな。絶対に」

「ああ。殺死屋の反応が異常だった」


 十字石、黒磨(こくま)がエリーについて話す。


「そもそも同性に嫌われている時点で大体は察せるが……」

「――え、嫌われてたの!?……安井司令は独特だから、あんまり参考にならない気が……」


 黒真珠の言葉に霧雨が驚きつつ返答する。


「司令はどうでもいい。妹……ルナとΣが口を揃えて『嫌い』と言った。初見で」

「あっちゃー……☆確定演出、かな?」


 黒真珠の言葉に、ネルガルが苦笑いしつつ返した。どうやら【同性から嫌われる人間に、碌な人間(やつ)はいない】ということを知っているようだ。


「……俺は、殺死屋の過去に絡んでいる人物の可能性が高いと思う」

「俺もだわ。あの様子じゃ、確定だろ」

「……そろそろ聞いても良い?忍との話し合いで、一体何があったの?」


 確信を持つ黒真珠と十字石に、霧雨が問う。


「……多分、この後忍が明かすだろ。もうこれ以上は隠しきれないから。だが――この考察が合っていた場合、エリーは最悪の危険人物だ。絶対に近付くんじゃねぇ」


 十字石は言葉を切り、18歳以上の集まりを解散させた。



 ---------------




「落ち着いたか?」

「……うん。……何とか……」


 忍と殺死屋は、秘密裏に改装した殺死屋のラボに居た。


 殺死屋はラボに入るや否や過呼吸を起こしていた。

 恐らくパニック発作だろう。過去のストレスが一気に押し寄せたらしい。


 当然だろう。だって――


「あのクソ女――エリーの本名は、エカチェリーナ。僕やあの子――宮崎燈里(みやざきあかり)、エルダが居た実験施設で一時期働いていたゴミだよ。」

「てことは……」

川隅(かわすみ)・D・芳夫(よしお)と同じだよ。……(あか)の薬を研究して、僕たちに投薬……していた」


 最悪な予想が当たってしまった。

 真っ先に距離を取って正解だったが、殺死屋とΣのことがバレるのも時間の問題だった。



「あと、過去の背景から考えるとKGBスパイの可能性が高いと思う」


 しかも、スパイか。



 ――FBIは大丈夫か?



 いや、今は関係ないな。

 それに、俺の所属はICPOだし。エリックさんに頑張ってもらおう。



 ……何でいつも、一気に問題が噴出してくるんだか。

 忍は大きなため息をつき、殺死屋に今後の提案をする。


「……これ以上は隠しておけない。明かせる範囲で明かすぞ」

「――!い、嫌だ!」


 殺死屋は大きな声で反対した。

 だが、忍は引き下がらない。絶対に引き下がれない。


「公開する。じゃないと……全 top secret が被検体になる可能性が高い」

「……っ、ぁ……」


 殺死屋は声にならないようだ。


「あまり言いたくはないが……()()の双子の弟も同じ道を辿るぞ。しかも、俺の――【一族に伝わる秘薬】でも治せるかわからない、改良版が打たれることになるはずだ」

「……」


 殺死屋は俯き、黙る。

 言い返すことができないのだろう。そして、双子の弟には無事でいて欲しいという思いもあるのだろう。


「……ん?」


 ここで忍はとある可能性に気付く。


「……もしかしたら……誰かがエリーの実績を知っていて、対RemembeЯ(リメンバー)の意味も含めて強化兵を作ろうと……?」

「――!!まさか、安井司令が!?僕らを意思の無い兵隊にしたがっていたし……!!」

「――いや、違うと思う。だとしたらエリーをあんなに睨まないと思うし、FBIじゃなくICPOに引き込むはず」

「……なら……、誰が……」


 殺死屋は顔面蒼白だ。

 もちろん忍の顔色も悪い。だが、仮説を立てねば十分な対策が取れないため、脳みそをフル回転させる。


「まさか――あの、髭面のオッサン……FBIのアワード、か……?」

「……可能性はあるね。けど、そんなことしたら一般人と実力差が開きすぎて、僕らを殺せなくなるんじゃないの?」


 アワードは最終的には top secret を処分したがっていた。

 なら、何故力を与えようとする?


「……何か……対策が、ある??」

Wählen(ヴェーレン) Leute(ロイテ)の能力を打ち消したり、とか?それか……新たな薬で――Wählen(ヴェーレン) Leute(ロイテ)以外の人間を、Wählen(ヴェーレン) Leute(ロイテ)と同様に……調整、できる……ってこと……!?」

「――あくまで可能性の話だ。だが、技術は日々進歩しているし……考えたくはないが……」


 そう言い、忍は口ごもった。


「はは……っ。僕らの強化データは有効だったんだ……」


 俯き、怒りのこもった声で殺死屋が呟く。その拳はかなりきつめに握られていた。



「……()()の居た施設のことは言わない。だが、それ以外は話す。――自分を守れるのは自分だけ。情報は必要だ」

「……わかった。けど――あの子は……」

「思い出したら真っ先に話を聞いてやってくれ。介入して良いなら俺も行くから」

「……わかった」


 殺死屋が了承したことで話し合いは終了した。

 忍は行くぞと言い、殺死屋と共に地下訓練室へと向かった。



 ---------------



 訓練室のドアが開き、忍と殺死屋が入ってくる。


「――待たせたな」

「忍!!」


 忍の登場に、黒真珠が駆け寄る。忍は黒真珠には視線を向けず、室内に居る全員を視界に居れ、宣言する。


「部屋を移動しよう。……みんなに話したいことがある」


 地獄の情報開示の始まりだった。



 ---------------



 忍が先導し、地下を階段で移動する。

 辿り付いたのは使われていないはずの部屋だった。


「狭いが入ってくれ」


 不思議な顔をする面々を無視し、忍は鍵を開け、中へと入る。


 土足のはずの床には畳が敷かれ、靴を脱いで上がるようになっていた。靴箱も用意してあったので、何とか全員分の靴は室内に納まりそうだった。

 室内には砥石(といし)や電気式の()が用意されており、簡単な武器製作や暗器のメンテナンスは行えるようになっていた。

 手入れに必要な道具は棚の中に格納しているのだろう。他にも棚があったが、恐らく生薬の保管場所だと思われた。室内は漢方薬っぽい匂いがした。


「……()も、地下を無断で改装していたの……。しかも、僕の部屋と近いよね?というか、階段挟んで反対側だよね……?今まで全く気付かなかったよ……」


 若干呆れつつ殺死屋が呟く。

 まさかご近所さんだとは思っていなかったのだろう。そして、まさかの地下無断改装仲間だった。


()()もだろ。バレなきゃいいんだよ、バレなきゃ」


 忍はさらりと言葉を返す。

 全員が中へと入り畳に上がると、忍は内側から鍵を閉めた。


「――さて。司令に無断で改装した、俺の秘密基地へようこそ!ここなら誰にもバレないだろうから、好き勝手話せるぞ♪」


 忍はそう言い、いたずらっぽい笑顔を見せた。


「……忍……たまに居なくなると思ったら……」


 黒真珠は呆れつつも、長年の疑問が解けたような感じだった。……よく今までバレず、司令にお仕置きされなかったものだ。


「マジかよ。……よく見つからなかったな、ここ……!?てか、殺死屋も無許可で改装した部屋持ってるのかよ!!」


 人喰い(カニバリズム)が引き()った表情を浮かべる。

 殺死屋「も」ということは、人喰い(カニバリズム)もどこかの部屋を無許可で改装してそうだ。……また仲間が居たようだ。


「まぁね。良くあることでしょ」

「あってたまるか」


 人喰い(カニバリズム)の意図を察したのかさらりと切り返す殺死屋に、根が真面目な黒真珠がツッコんだ。


「……俺もやろうかな。新しい毒、作りたいし」


 ものすごく小さな声で霧雨が呟く。


 ICPO勢は司令の目を盗んで好き勝手しているメンバーが多いらしい。

 なので、便乗しようと思ったのだろう。


「お前もか……」


 十字石は頭を抱えた。



「じゃ、話を始める。――良いよな?」

「ああ。始めてくれ」

「頼む。この薄気味悪いもやもや解消したいんだわ」


 忍の発言に黒真珠と十字石が答える。

 忍は頷き、話を始める。


「まず……これから話すことにはかなりの衝撃が伴う。あー……その、かなり辛い話だが、全員心して聞いて欲しい」


 忍は斎槻(いつき)(小学校に入ったばかり)がいることをふまえ、言葉を簡単にしつつ説明を始める。


「まず最初に――エリーは危険だ。近付くな」

「だから警戒のハンドサインを出して、俺らを地下に集めたんだな?」

「ああ。エリーは外国のWählen(ヴェーレン) Leute(ロイテ)人体実験施設の、元研究員。あと、多分彼女の背後にはロシアが付いてるはずだ」

「――は!?」


 ICPO勢はエリーが人体実験施設の元研究員であることに驚いていた。

 だが、FBI勢は更に驚きを隠せなかった。

 アメリカ――FBIはロシアを敵国と定めている。冷戦を思い出してほしい。事実なら、かなり危険だった。


「その実験で行われていた凄惨な……酷すぎる行いは、ここに居る殺死屋が証人だ」

「……まさ、か……」

「殺死屋はICPOに入る前、人身売買の組織に拉致されたらしい。そして、その行き先が――エリーの居た、人体実験施設だった」

「――っ!!」


 想像を絶するカミングアウトに top secret は言葉を失う。

 1人理解ができていない斎槻(いつき)に、実父である霧雨が「知らない人に勝手に連れていかれて、家族と離れ離れになって、その後とても痛くて辛くて悲しい目に遭ったんだよ」と解説を入れた。霧雨の解説で内容を正確に理解した斎槻は、無言で霧雨に抱きついた。


「……ちなみに、クソ女エリーの本名はエカチェリーナ。このことからスパイだってこともわかるでしょ?……愛称で呼ばれるなら【カチューシャ】もしくは【カーチャ】になるはずだからね」


 殺死屋の解説に、FBI勢は更に青ざめる。

 FBIがどうなろうと知ったことではない。組織が崩壊するなら万々歳。だが、 top secret に関わっているのであれば対処しないとまずい。自分たちの情報が敵に流される可能性があるからだ。


「……あ、れ……?――っ!?」


 突然、Σの視界が暗転し、畳に倒れかける。

 咄嗟に忍が支えるが、Σは頭を押さえて苦しみ始めた。


「……う、あ……。痛い。……痛い痛い痛い――!!?」

「Σ!?」

「落ち着いて!――息できる?目は見える?何も考えないでいいから、思考を放棄して!!大丈夫だから……!!」


 殺死屋がΣを抱きしめ、必死に声をかける。

 【うしゃぎ】もΣを落ち着かせるべく、抱きしめつつ身体を軽く叩いていた。


 殺死屋のやけに親切な――異様な対応に周囲は驚くが、深い事情がありそうなので邪魔しないでおく。


 数分でΣの頭痛は収まったようだ。

 Σはぐらぐらする頭で、周囲にもう大丈夫だと伝えた。


「何ですか……?これは、何なんですか??どうして、こんなに……?」

「――()は……君のままで居て。何も思い出さなくていいから……!」


 意味不明の頭痛に襲われ混乱するΣに、殺死屋が返したのは「思い出さないで」という言葉。

 そして、Σのことを「君」と呼んでいる。隊員名では呼んでいない。



「――え?……まさk――んむ!」



 朝吹の口から思わず出た言葉は、いつの間にか横に現れた忍によって口を塞がれた。これ以上言うことは駄目らしい。


「……僕の部屋でお茶でも飲まない?階段挟んでこの部屋の反対側だし、近いよ」


 殺死屋は笑顔を作り、Σに向ける。その瞳はどこまでも優しかった。


「――え……?あの……」

「……()とは楽しい話がしたいんだ。……行こ?そして、美味しいもの、食べよ?()と一緒に食べたかった、とっておきのお菓子があるんだ。ぬいぐるみの【うしゃぎ】……()も一緒に来て欲しい」


 殺死屋はΣの手を引き、靴を履いて廊下へと歩き出す。

 Σは困惑しつつも【うしゃぎ】を抱えた状態で付いていくことにした。何となくこの場に残らないほうが良いと察したのだ。



 部屋の扉が閉まり、場に沈黙が訪れる。

 忍は再度鍵をかける。


 重い空気の中、最初に口を開いたのは忍だった。


「大体予想がついているとは思うが……弟子、Σも殺死屋と同じ施設に居た被検体だ。記憶喪失ではあるが」

「やはり……そう……、なのか……」


 朝吹が納得したように呟いた。

 頭痛は記憶喪失の――記憶がよみがえりそうになる時に出る反応なのだろう。


 良い記憶ではないことは確定だ。

 殺死屋の「忘れたままでいて」という言葉に物凄く納得がいった。


「ああ。戸籍は俺が保護した後に作成したものだ。……本当の家には戻れてはいない」

「え!!」

「殺死屋も……だが。まぁ、殺死屋(あいつ)は天涯孤独を気取ってはいるがな」


 忍はヒントだけを与え、言葉を切る。


「……殺死屋の……本当の、家……?」


 殺人鬼が何かに引っかかったように呟く。


「そういえば、殺死屋は仮眠室で暮らしてるって言ってて……」

「……未だに家族のもとに戻れない理由は?何かあるの??」


 黒磨(こくま)が呟き、霧雨が問う。


「……DNA。投薬実験により派手にゲノム情報が弄られていて、色々とヤバいらしい。また、家に帰ろうにも失踪前のDNAと一致しなかったから、本人と認められなかったんだと」

「――!!!」


 ガクン、と殺人鬼がその場にへたり込む。

 真実を知ったことによる反動か、過度の緊張からの安堵からか。殺人鬼の息遣いは荒く、瞳からは大粒の涙が溢れていた。過呼吸気味になってる。


「じゃぁ……まさか本当に……」

「殺人鬼の……失踪した双子の兄が、本当に殺死屋で合ってたってことか……!?」


 人斬り侍、人喰い(カニバリズム)が発した殺死屋の正体に、室内がざわついた。

 FBIでは殺人鬼の従弟が失踪している件が回っていたのだろう。

 ICPOのルナ、ネルガルは関係性を知らなかったが、だからこそ仲が悪かったのだと理解できた。絶対に明かせないのだ。追えば逃げるはずである。


「……待ってくれ。なら、殺死屋は高校生組だってことだよな?その割には小っちゃくないか?」

「だよな……俺らとあんまり変わらないように見えるし……」

「……環境が劣悪だったせいで、弟子共々成長がかなり遅いみたいだ。それに、あと何年持つかわからない身体だ」


 中学生組の朝吹と一縷(いちる)の問いに、忍は答えた。


「なっ!!」

「そんな……!!」

「待って!?それ、かなりヤバいじゃん!?」


 侍、ルナ、ネルガルが反応する。


「……まぁ、後は本人の口から語られるのを待ってくれ。殺死屋も言えないことが多すぎるんだ」


 忍は強制的に話を終わらせた。


「忍……まだ何か隠してるな?」

「俺たちへの説明、端折(はしょ)ったな?……今すぐに吐け」

「あのなぁ……。他人がペラペラと話して良いことじゃないだろ。いい加減、本人からの開示を待て」


 黒真珠と十字石の追及を、忍は(かわ)した。


 きっと、この2人は「言えないことが多い」という言葉に引っかかったのだろう。

 ……施設名や実験体番号までは言いたくはない。本人が公表すべき事案だった。



「待ってくれ。じゃあ……Σは?……本名は?――あ」

「個人情報、と言いたいが……そもそもが記憶喪失だ。……同じ実験施設に居た殺死屋は知っているらしい。だが、これも記憶のトリガーになりかねないから、今は探らないでくれ」


 一縷(いちる)の質問に忍は答えつつ、これ以上他人が殺死屋とΣのことを探ろうとするのを止めた。



「……あれ……?」



 だが、ここで鬼火が気付いてしまう。

 鬼火は頭の中で、前に話してくれた【兄の証言】が引っかかった。


「殺死屋は、俺の兄ちゃんに……【姉】は生きてるって……。日本に居るって……。……あれ……?何で殺死屋が、俺の【姉】が生きていることを、知ってんの……?」

「!!」


 鬼火の震える声での問いに、忍は息をのんだ。

 忍にとって誤算だった。まさか、殺死屋が鬼火の兄である宮崎竜士にヒントを与えていたなんて……。


「――まさか……!」


 一斉に視線が忍へと向く。言わざるを得ないだろう。


「……俺としては、弟子に過去を思い出して欲しくはない。……エリーを見たときの殺死屋の反応を見ただろ。それに、弟子を拾ったときの身体の傷は尋常じゃなかった。かなり酷い扱いを受けていたはずなんだ」

「――!!」


 肯定とも受け取れる回答に、鬼火の瞳から涙がこぼれる。

 他の隊員も言葉を発することができなかった。


「もうわかったな?Σも殺死屋も、幼ない頃に攫われて被検体にされている。そして、その研究所に居た、研究員の1人が――新入りFBIのエリーだ」


 忍は室内に居る全員を視界に入れ、話のまとめにかかる。


「全員警戒しろ。――好き勝手に身体を弄られたくなければな」


 これは忍による、最大級の警告だった。


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