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It's top secret!  作者: 八嶋 黎
1章 RemembeЯ編 (全46話予定)

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第21話 Snowball

 ここは地下3階の廊下。

 top secret は既に仮眠室へと引き上げており、ここに居るのは2人の少年だけだった。



「――と、いう訳だから。お兄さんに気を付けろって言っておいてくれる?」


 朝練後、ICPO top secret 003のDr.殺死屋(ドクターころしや)に呼び止められたFBI top secret 005の鬼火(おにび)は非常に困惑した。

 言われた内容に頭がついていかなかった。



「――え」



 待ってくれ……。

 それは一体どういうことなんだ……?


 殺死屋に情報提供を受けた鬼火は混乱した。


 何故、自分の兄が殺されかけてるのか。

 そして、何故、それを殺死屋が知っていて、関われる立場にあるのか。

 鬼火は訳が分からなすぎてフリーズした。



「……だから、とりあえず放置になったけど、死にたくないならこれ以上首突っ込ませないようにしてくれる?って言ってるんだけど……。えっと、ちゃんと理解できてる??」


 殺死屋は鬼火の理解力の低さを心配した。

 もちろん、鬼火の頭が悪いとは思ってはいないが、再度説明したほうが良いのか悩んでいた。


 鬼火に説明したのは昨日の司令とエリックの会話だ。

 鬼火の実の兄である、警視庁捜査一課勤務の宮崎竜士(みやざきりゅうじ)が結構こちら側(top secret)に関わりすぎており、殺すか飼うか一旦放置するかの選択をしていた件だった。

 ……かなり物騒である。


「……何か、兄ちゃんの命がどんどん危うくなってる気がする……」


 鬼火は絶望した。どうやってあの兄を止めろと?と光の灯らない瞳が語っている。

 説得するにはそれなりの情報が必要だ。だが、鬼火は兄から見たらただの高校1年生。下手に話に出したら速攻取り調べコースになる未来しか浮かばない。


 兄は頭が良いうえに探求心が強く、精神力もずば抜けたものを持っている。

 こちら側(top secret)に気付くのも時間の問題だと思われた。……鬼火の正体がバレるのも、だ。


「……正体だけは明かさないでよね。それこそ――殺すしかなくなるから」


 殺死屋は top secret の【正体がバレた場合は、正体を知った人を自らの手で48時間以内に殺すこと】というルールを持ち出し、鬼火に伝える。


 正直、殺死屋としても宮崎兄弟には生き残ってもらいたかった。……大切な人の、血縁者だから。

 だからこそ殺死屋は、宮崎兄が生き残る選択肢になるように誘導している。最後まで上手くいって欲しいと願った。


「……本当に危なくなりそうだったら、噂程度に気が逸れるような……適当な情報、出してみるわ……」

「よろしく。じゃ」


 返すのがやっとな鬼火の返答を受け、殺死屋はあっさり仮眠室へと帰還した。

 残された鬼火は顔面蒼白のまま、しばらくその場に残っていた。



 ---------------



「……ただいま……。……はぁ」


 【有栖川】の一件から3日後。

 FBI top secret 003の黒曜石(こくようせき)(通称:黒磨(こくま))は、ICPO日本支部での朝練から自宅マンションに帰宅した後、速攻でベッドに身を投げた。

 本来なら会社への出勤準備を始める時間だったが、会社は事件のせいでビルのフロアごと営業停止に追い込まれていた。


 本日の朝練後も、朝練に身が入っていない黒磨(こくま)を心配して、FBI top secret 002の霧雨(きりさめ)が話しかけてきてくれた。

 だが、黒磨の目下の悩みは遥香(はるか)のこと。――あの、怯え拒絶する瞳だ。



「……遥香……」


 黒磨は彼女だった存在の名前を呟く。


 遥香に告白されて、交際を始めた。

 今まで浮かれていたが、【有栖川】の一件で住む世界が違い過ぎたことを思い知った。



 霧雨には事件後にかなり話を聞いてもらっていた。

 話しても結論は変わらない。これ以上、霧雨に迷惑をかけるわけにはいかなかった。

 そもそも、霧雨には子育てがある。可愛い盛りの、元気いっぱいの男の子との生活を邪魔したくはなかった。



「……寝るか……」


 黒磨は瞳を閉じる。


 本来なら就職先を探しに行った方が良いのだろう。だが、黒磨は再就職の前に1回休もうと考えていた。

 そもそもRemembeЯ(リメンバー)の出現のせいで top secret が忙しいし、二足の草鞋(わらじ)の成果で二重に給料をもらっている感じだった為お金もあった。

 その上失恋(?)のストレス。……結論、休む一択。寝よう。


 黒磨は睡魔に身をゆだねた。



 ---------------



 ピンポーン……



 ふいに、玄関のチャイムが鳴った。


 黒磨の意識が覚醒し、目を開く。

 時刻は9時を指している。

 はて、何故チャイムが鳴るのか。……寝起きの頭で考えるが、皆目見当がつかない。


「……誰だよ……」


 黒磨はのそりとベッドから起き上がり、ドアモニターを確認して目を見開く。


「……は……!?――宮崎!?」


 外に居たのは中学時代の同級生の――現在、警視庁捜査一課に勤務する刑事の、宮崎竜士(みやざきりゅうじ)だった。



 ---------------



 黒磨は玄関のドアを開け、宮崎を室内に招き入れた。

 宮崎は非番なのだろう。私服に身を包んでいた。黒磨も自宅ということもあり、かなりラフな格好だったから、身なりを気にせずに済んだのは幸いだった。


 数分後、黒磨はコーヒーを淹れて宮崎に差し出した。

 宮崎はリビングの椅子に腰かけ、出されたコーヒーに口を付けた。

 机の上には宮崎が持ってきた手土産が置かれた。粉砂糖がかけられ、雪玉のような見た目をしたクッキー……ブルードネージュだ。ブラック無糖のコーヒーに合いそうだった。



「……どうしたの、急に……。てか、何で俺の自宅知ってんだよ……」

「あー。……まぁ、色々な……」



 ――おい、宮崎。絶対、職権乱用しただろ。



 言葉を濁した宮崎に、黒磨は心の中でツッコミを入れる。

 黒磨はトレーを片付けて宮崎の向かいに座り、自身もコーヒーに口を付けた。



「……災難だったな」


 開口一番、宮崎の口から飛び出してきたのは、【有栖川】の事件に関してのことだった。

 一瞬、黒磨の動きがぎこちなくなる。


「……だが、思った以上に顔色が良さそうで安心したわ」


 宮崎はそう言い、少しだけ微笑んだ。



「……心配してくれてありがとう。……知ってたんだな」


 事件に対して特に何も感じていない黒磨としては、宮崎の言葉に冷や汗だらだらだった。



 ――俺の自宅で取り調べか?……勘弁してくれ……。



 本音を言えば、速攻追い出したい相手だ。だが、恐らく良心で訪ねて来てくれたであろう友人に礼を言い、言葉の後半で適当に返事をした。



「――ああ。同期が【この前の一件】を担当してたんだ」

「そっか……」


 黒磨は視線をテーブルに落とし、宮崎が持ってきたブルードネージュを口に運ぶ。

 甘く口の中でほろほろと解けていくクッキーに、黒磨の心は少し癒された。


 宮崎は優しい表情を繕い――黒瀬に気付かれないよう、注意深く彼を観察していた。



 宮崎の目的は【ひとりの警察官として】黒瀬に探りを入れること。

 だが、同時に友人として黒瀬のことを心配してもいた。

 通常、あんな現場に居たのであれば精神がやられたり、PTSDになっていたとしても不自然ではない。

 刑事事件を担当する傍ら、被害者遺族を見てきた。そのうえ、宮崎自身も元々被害者遺族だ。だからこそ……寄り添いたいと思って黒瀬の家に来ていた。



 一方。黒磨はコーヒーをテーブルに置き、宮崎を見る。



 ――どうしよう。特に話すことがない。



 黒磨が黙り込み、両者の間にしばしの沈黙が訪れる。

 宮崎が訪ねて来てくれたことは、友人として嬉しくはある。が、会話したとて相手は本職。必ずどこかからボロが出そうで怖かった。

 ……可及的速やかに、早々にお引き取り頂きたい。



「あれからどんな感じ?……ゆっくりできているか?」


 宮崎は黒瀬のメンタル面を心配して言葉をかける。


「……大丈夫だよ。今まで激務だった反動か、たいてい寝てるし」

「そっか。……悩みとか無いか?俺でよければ聞くぞ?」


 おっと。宮崎にぶっ込まれてしまった。

 ……そりゃ、まぁ、急に殺人鬼が団体で会社訪問してきて、その結果社員が何人も刺されて。会社が出勤停止になってたら……「普通は」悩むわなぁ……。


「……彼女に……嫌われました」


 致し方ない。目下の悩みを白状することにした。

 黒磨としては、事件より遥香に嫌われたということに意識が向いていた。これは変わらない事実なので、聞かれても嘘にはならないだろう。


「!?……彼、女……?!」


 だが、宮崎は驚いた。

 黒瀬の口から出たのは彼女の事だった。……ツッコミどころ満載だ。



 ――殺人というショッキングな出来事よりも、彼女に嫌われた可能性の方が気になるのかよ……!?



 黒瀬の様子に宮崎は引いた。



 ――てか、反応がサイコパスの極みだろ。大丈夫か黒瀬!?



 ……恋愛脳、怖いな。リア充爆発しろ――いや、もう爆発してたわ。

 だが、宮崎としては事件当時の様子を黒瀬の口から聞くチャンスでもある。なので、既に爆発してしまった元リア充の片割れの話に乗る。


「お、おう……。……そういえば、付き合ってたらしい、な……?……その、お相手は【最後まで居た被害者女性】……だよな??」

「……ああ。……正直、助けなきゃって……でも、気付いたら――怖がられてた。……俺、嫌われたわ」


 黒磨は最後を明るく言い、宮崎に無理やり作った笑顔を向ける。

 だが、対して宮崎の表情は、混乱しつつも硬いものだった。



 黒瀬が倒した【有栖川】の様子は、はっきり言って異常だった。

 同期に見せて貰った写真を見て、咄嗟に「サイコパスかよ!手慣れてんな!?」と口走ってしまうほどに……酷い有様(ありさま)だった。

 軽く調べた限り【黒瀬計磨(くろせかずま)の経歴】に問題はなく、アメリカで刑務所にお世話になるようなこともしていなかった。


 だが、宮崎としてはどうも【(にお)う】。いわゆる刑事の勘だ。

 ラーメン屋で再会したときは驚きすぎて考えが至らなかったが、改めて対面してみれば彼の異質さに気が付く。……それこそ、既に何人か殺していそうな……。そんな【(にお)い】。


 認めたくはなかった。

 これは、黒瀬が友人だからという理由だけではない。刑事の勘を認めてしまえば――同時に、宮崎の身近に【同じ(にお)いを発している人間】が居ることも、認めることになるから。



「……そうか。……辛いな」


 宮崎は黒瀬に寄り添う発言をする。


「……助けたのに嫌いになるとか、彼女も見る目ねぇな。黒瀬はこんなに良いヤツなのに」

「……遥香は殺されかけたんだ。……仕方ないって」


 黒磨は宮崎に対して言葉を返した。

 だが、少々ずれた回答に宮崎は引っかかる。



 ――なぜ、他人事なんだ?黒瀬だって【有栖川】に殺されかけてるだろ?



 通常であれば殺人という出来事に目が行き、それに追加して彼女のことが語られるはず。彼女より事件のストレスが大きくなるはずなのだ。


 実際は、黒瀬はFBI top secret 003の黒曜石(こくようせき)(通称:黒磨(こくま))として、10年間対象者を粛清しまくっているから、現場を見ても殺されかけても色々と平気なだけであるが……宮崎は知る由もない。



「まぁ、俺は何とか過ごせてるよ。……仕事も少し休んでから転職するか、新たなオフィスが出来たらそこで働くかするかな」

「そうか。……無理だけはするなよ」


 きっと、これ以上は聞けないだろう。宮崎は話題を変えることにした。


「このあと暇か?どっか飯でも食いに行かね?」

「いや……そんな気分じゃないんだ。……しばらく家でゆっくりしたい」


 黒瀬に断られ、宮崎は席を立つ。

 床に置いていた鞄に手を伸ばし、身支度を整えた。



「……また来るわ。あんまり気を落とすなよ」


 【有栖川】の現場は惨状だった。

 あれだけ酷いと、通常だと自死を選ぶ者もいる。


 怪しさ満点の黒瀬であれば心配の必要はないかもしれないが、万が一精神のバランスが狂った結果、事件のことを気にしていないのであれば話は変わってくる。

 なので、宮崎は無理にでも約束を取り付け、数日後に様子を見に行くことにした。



「……来てくれてありがとう。……またな」


 宮崎の考えを察した黒磨は礼を言い、宮崎を玄関の外へ出して見送った。



 マンションの階段を降りつつ、宮崎は考える。

 同時に、玄関の扉を閉めた黒磨も思考を巡らせていた。



 宮崎が手土産に持ってきたブルードネージュは、フランス語で雪玉を意味するクッキーだ。

 英語だとSnowball(スノーボール)

 Snowballは英語で「小さなことが大きな影響を及ぼす」や「雪だるま式に増える」という意味の比喩表現でもある。



 お互い、言えないことや疑惑が――この短期間で雪だるま式に増えてしまった。


「……友達でいられる時間も、短いのかもしれないな」


 黒磨の呟きを聞くものは居なかった。



 ---------------


 べちゃ、べちゃ……という足音が建物内に響く。


 ここは日本のとある研究施設。白を基調とした清潔感漂う施設()()()


 そう……1時間前までは。

 現在は床も壁も天井も、一面が赤に染まっていた。



 その中で双剣を持った青年は、ピンク色の髪を揺らしながら鼻歌を歌っていた。施設が【綺麗になった】のが気分が良かったのだろう。

 手に持つ大き目の双剣からは血が滴り、青年の身体も返り血に染まっていた。


「エルダ。準備完了だ。――撤退するぞ」


 金髪……というかプラチナブロンドに緑の瞳をした、黒のスーツ姿の男性が青年に話しかける。

 話しかけられた青年――エルダは振り向いた。


「フレデリックさん!了解です」



 エルダは満面の笑みで出口へと足を進める。

 廊下の途中に居たフレデリックや、出口へと向かっていた仲間と合流して、研究施設の建物から離れる。


 敷地の外に出たところで、エルダは研究施設を振り返る。

 エルダの表情は安堵なのか悲しみなのか、読み取ることは出来なかった。

 弔いなのだろうか。他の仲間も施設を視界に入れ、無言で見つめていた。


 フレデリックは無言で手元のボタンを押す。

 直後、研究施設内から複数の爆発音が響いた。



 フレデリックはポケットから1枚の真っ黒のカードを取り出す。

 鋼鉄を思わせるほど光沢のある、このプラスチック製の黒いカードには、金の文字で【RemembeЯ(リメンバー)】と書かれている。国際テロ組織であるRemembeЯ(リメンバー)が犯行を行ったことの証明でもあった。


 フレデリックはカードを敷地の地面に投げ捨て、仲間に対して「行くぞ」と告げる。

 エルダを含む仲間たちは最後に数秒だけ燃え上がる研究施設を見つめ、フレデリックの後をついて――【仲間】であるWählen(ヴェーレン) Leute(ロイテ)が虐殺されていた研究施設を後にした。


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