44話 空の番長
テーゼ魔導国王都リューミアの象徴である樹木「エンシャントエンダー」は町の中だと全体を捉えられないほどの巨大さで高さは優に雲を突き抜けている。
神秘的かつ力強い存在感を放つエンシャントエンダーを「守り神」と信じている者がいることも納得だ。
そんな巨大な木の枝の上に、1つの影があった。
「Zzzzz…」影の正体は横たわって寝ていた男だった。
木の枝はハンモックのようにゆったりと揺れ、睡眠の心地よさを演出している。
ピリピリピリピリッ!!
「Zzzzっあぁ!?」男は突然なりだした音により、夢の中から現実世界へ呼び戻された。
「やべっ」男はなりだした通信用の魔道具を手に取り、通話ができるようボタンを押した。
「会長!どこにいらっしゃるんですか!?もう入学決定者のオリエンテーションが始まってしまいますよ!?」慌てている様子が伺える声が通信魔道具から聞こえた。
「あー今起きたわ」男は悪びれる様子もなく返事をした
「今日は会長も祝辞を述べる重要な仕事があるのですから!すぐに校庭に向かってください!」
「大丈夫大丈夫、今から自由落下で向かうからよ」
言うや否や、男は通信を切った直後、なんの躊躇もなく木の枝から飛び降りた。
ちなみに、男が寝ていたところは、下をみれば雲が広がっていることがわかるほどの高さである。
―――……・・・
曇り空のなか、セレスの合格を確認したあとのおれたちは、そのまま行われる入学式のようなものに参加するために校庭へ移動していた。
「えーっと、私たちのクラスの列は…」
「あそこじゃないか?」「あっ!本当だ!」
おれとセレスは自分たちSクラスの列にならんだ。
列といっても綺麗に並んでいるわけではなく、集まっていると表現した方が良さそうだが。
当たり前だけど、このまわりにいるやつら全員が同じクラスであり、Sクラスと評価された実力者だということだな。
「オリエンテーションなんてどきどきするね!楽しみ!」終始はしゃいでいるセレス
「そんな楽しむ要素なんてないと思うけどな」
実際、学院関係者の話を聞いたりするくらいだろうし、どちらかというと暇だと思うけどな。なんて、考えていたら聞き覚えのある声が聞こえてきた
「ほら屑!さっさと進まないと他の人の迷惑にわるわよ!!」バチンッ
「ブヒィィ!!ありがとうございますミサキさま!!」
忘れることなんてありえない2人組がおれたちのところに参列した。
ていうかこいつ等も入学者だったのかよ、しかもSクラスじゃねぇか…
気になることばかりだが、関わりをもつと面倒くさそうだから見て見ぬふりをすることにした。
Sクラスに限らず、他の入学者たちも2人の奇行が気になってしょうがないようだ
「あっ、セレスとロップだ!」「一緒のクラスだ!」変態コンビに意識を割いていたら、また聞き覚えのある声が話しかけてきた
声をかけてきた方へ顔をむけると、昨日の食事中に親睦を深めた双子のマデリン・エヴァリンがいた。
どうやらこの2人もSクラスになれたようだ
「2人とも!一緒のクラスになれて私もうれしいよ♪」セレスはすぐに2人のことが気に入ったようですっかり友人関係になっていた。
「同じクラスだけれどもライバルでもある」「つまり負けないのである」
「うん!私たちも負けないよ!」
ほどよく話がまとまった時に、声がスピーカーを通して聞こえた。
「皆様、聞こえますしょうでしょうか?」
その言葉を皮切りに先ほどまで聞こえていた話し声がピタっと止まり静まり返った。
声の発信者は演壇の横に立っている男のものだった。
「合格おめでとうございます。本日のオリエンテーションを務めさせて頂きます生徒会副会長のハート・レオナルドです。
今回のオリエンテーションは入学式とは違い、生徒会主体で行いますので気兼ねなくご参加くださいませ」
いかにも、生徒会にいますよっという風貌の真面目そうな人が話を続けた…
「まず始めにリューミア魔法学院生徒会会長より祝辞を述べさせていただくのですが…」
すると、そこで言葉が止まり、副会長が困ったような表情で周りを見渡した。
「あれ?どうしたんだろう?」何が起こっているのかよく分からず、首を回して辺りを見渡した。
どうやら肝心な生徒会長がいないようだ。
このまま待たされるつもりか?と誰もが考えていた時
「いやー悪いな野郎ども」
「「「「「!!!???」」」」」」
声は上から聞こえてきたため、全員が一斉に空を見上げた。
そして、そこにいたのは学院の制服の上から特攻服を羽織った、大きなリーゼントが特徴の大柄な男が空中にいた
「会長!なにをやっているのですか、早くこちらにきてくださいよ!」副会長のレオナルドさんが、空中にいた男を叱咤していた。どうやらこの男が生徒会長で間違いないらしい
生徒会にいる人物像としては、真逆な外見をしている。
「いいじゃねぇか!?こうして間に合ったんだからよ!!」
一通り揉めたあと、会長である男が合格者のおれたちを見渡した
「さて野郎ども、おれの名前はヴィクトール・ストロフだ。
細けえ話は置いておいて本題に入るぞ。ここでは貴族だの王族だの身分は関係ねぇ!!
魔法学院だなんていうが、実際はだれが優秀かを争い続ける場所だ。特にお前らの学年は20の国から留学者が来ている。
その中でてっぺんをとることができたら、少なくとも大陸中の派遣を握る可能性が一歩近づくというわけだ」
会長の言葉に合格者たちは少しだけざわついた。大陸で一番になれるという壮大すぎる可能性が目の前にあるということが分かったから
副会長のレオナルドさんが余計なことを言うなと念で送るかのように、ものすごい形相で会長を睨んでいた。
「あっ、雨…」
だれかが気付くや否や、パラパラッと雨が降り出し始めた。
校庭にいるおれたちは、雨をもろに浴びているわけだが、急いで避難するほどではなさそうなのでその場に留まっている。
再度、会長は話を続けた。
「ここでは両者の合意を得ることができれば、決闘ができのし上がることも蹴落とすこともできる。
もちろん、おれはいつでも歓迎だぜ?」
そういいストロフさんはバットを手にした。どうやらあれが心霊武具らしい。見た目は至って普通なバットだが。
「おれが生徒会長の理由は単純だ。それはおれがここのだれよりも強えからだ。
お前らの心が砕かれない限り、おれは全力で立ち向かう。それが、馬鹿なおれでもできる会長の役割ってやつだ」
そういいながら、ストロフさんはバットを大きく振りかぶった
「オラヨッ!!」空へ向かってスイングされたことによってできた風圧は、勢いがとまることなく進み続け、王都全体を覆う雲へ到達した。
「はあ!?」「嘘だろ…」「何が起こってるんだ」
見ている先で起こった光景に、思わず全員が驚愕した。
なぜなら、ストロフさんが繰り出した風圧はそのまま消えることがなく、雲を両断したからだ。
空が割れたと表現しても差し支えがない。
「雨が…」雲が吹き飛ばされたことにより雨が止んだ。
噂で聞いたことがある。縦横無尽に空を駆けめぐり、空飛ぶ魔物を容易く討伐することができる冒険者登録をしているプラチナランクの学生がいると。
「この人がそうだっていうのか…」
空を駆ける姿から、「空の番長」という2つ名まで付けられて大陸中のギルドで噂になっているとか。
「とりあえず、おれの目標が決まった。留学中にあの人を超えることだな。」
相撲取りのマグナさんと同じくらい壁の高さを感じながら決意した。
雲が割れた隙間から、日光が通り、そのままストロフさんを照らした。
ストロフさんは猛獣のような笑みを浮かべて、合格者全員に叫んだ。
「おれの才能は【裂空】だ!!テリトリーである空をおれから奪ってみな!!」




