表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
逆断罪・国外追放された王子とドラゴン派遣サービス始めました  作者: 川奈あさ
1章 ざまぁ王子がドラゴン島にやってきた
8/34

07 反抗期のドラゴンの寝顔

 


 朝、エリンが目を開けると目の前にプラチナブロンドがある。陽の光に照らさられてサラサラと輝くそれは……


「うわっ」


 エリンは思わず声をあげた。そうだ、昨夜リュドヴィックと同じ部屋に閉じ込められて一緒のベッドに寝ていたのだ。

 小さな寝息をたてて眠っているリュドヴィックを見る。朝の光の中にいる彼の美しさに思わず目を奪われる。

 赤ちゃんみたいに泣いていたリュドヴィック、眠っている姿もかわいい……いや黙っているとどう見ても男の人にしか見えない。


「……」


 昨夜意識せずにすぐに眠ってしまったが今更ドキドキしてきた。バスローブがはだけて彼の鍛えられた身体が見える。


「ワ、」


 恥ずかしくなってきたエリンははだけたバスローブを閉じようとするが、触ってしまうと余計に意識してしまう。

 身体はもちろん癇癪持ちの赤ちゃんでもないし、反抗期のドラゴンでもない。大人の男性の身体だ。


「ん」


 バスローブを閉じて離れようとしたエリンの手をリュドヴィックはつかんだ。顔を確認するが眠ったままだ。ムニャムニャ言いながらエリンの手に頬ずりする。


「赤ちゃんか!」


 ときめいてしまいそうでエリンはなんとかツッコミをいれてみるが、握られた手はどう考えても大きくてエリンの手をすっぽり包んでいる。……これは赤ちゃんなわけない。


「ドラゴン、これはドラゴン」


 そう思っても柔らかな手はドラゴンなわけはない。振り解きたいが、疲れているリュドヴィックを起こすのもかわいそうだ。エリンの手を頬に当てているリュドヴィックは穏やかな表情で眠っている。


 悔しいけれど、エリンはリュドヴィックの顔がめちゃくちゃ好きだった。他の女性たちも皆憧れていたから当然だわと言い訳をするけれど、とにかく好きな顔だ。その顔が目の前にあって、自分の手を頬に添えているのだから意識するのも仕方ない。


「昨日よく眠れたな、私」


 リュドヴィックの隠されていたキャラに圧倒されたとはいえ、よく眠れたものだ。黙っているリュドヴィックは危険だなと思っていると、エメラルドの瞳が見えた。


「あ、おはよう、リュド……」


 ぼんやりとした様子のリュドヴィックは「お母様……」とつぶやくとエリンの身体を引き寄せて抱きしめた。


「え、うわ、」


 エリンの顔には硬い胸板が押し付けられた。石鹸の匂いが鼻をくすぐり、がっちりとまわされた腕は抜け出そうになく、寝息は耳元で聞こえる、身体中が熱に包まれて、抱きしめられてることを意識させられる。


「ごめんなさい、ごめんなさい……」


 リュドヴィックが小さな声で繰り返す。エリンの顔は胸に押し付けられていて顔が見えない。うなされているのだろうか。

 エリンは身を捩る、抜け出せそうにはないが、リュドヴィックの顔の位置まで移動は出来そうだ。

 動くとリュドヴィックのバスローブが再度はだけて、彼の胸板の温度を直に感じてさらに意識してしまったが、なんとか顔を確認できる位置まで移動できた。


「リュド、」


 リュドヴィックはうわ言を呟きながら苦しそうだ。悪夢を見ているのだろうか。彼の今までの境遇を思うと無理もない。涙が彼のまつげを濡らす。


 大泣きしていた昨夜のリュドヴィックの姿を思い出す。


 彼はただのカッコつけだと言っていたが、女生徒の憧れのプリンスに、学年首席に、シャルロット嬢のスマートな婚約者に、そうなるまでにどれほど努力したんだろうか。そんな彼を洗脳した自称聖女に人の心はないのだろうか。そして、外聞のためにあっさり追放されてしまったリュドヴィック。


 大きな身体だけど子どものように涙を濡らしながらうなされる彼を見ていると、エリンの胸に熱いものが滾ってくる。


「ドラゴン島をもう監獄なんて言わせない」


 ドラゴン島を再興させる。その夢はさらに熱く燃える。


 頭を撫でてやりたかったが、強く抱きしめられているので手はそこまで伸ばせない。仕方なく先程のように頬に手を添えてみる。


 しかし先程より密着していて少し顔を近づけるだけでキス出来てしまいそうな距離なのだから、頬に手を当てると本当にキスをするような気分になってしまう。


「……」


 リュドを守る母親の気持ちになり夢に向けて決意を新たにしたが、リュドヴィック王子に憧れていた頃の女学生に戻ってしまい顔が熱くなって心臓の音が早くなる。規則的なリュドヴィックの寝息とアンバランスだ。


 そのとき、リュドヴィックの目がパチリと開いた。


「……」

「……」


 今度は寝ぼけていないようだ。見開かれた瞳の中にエリンはいる。


 リュドヴィックは目をパチパチしながら、エリンを見て、それから自分の身体を見るために下を向いた。自分の胸にエリンの胸は押し付けられているし、足はしっかり絡まっている。自分の腕がエリンをがっしり囲んでいることを確認した。

 そしてもう一度エリンの方を見る。慌てて上を向いたから鼻と鼻が触れた。


「……」


 固まっているリュドヴィックの顔から、エリンは手を離した。

 それが合図のようにリュドヴィックは


「うわわわわ!!!!」


 と叫んで、ドラゴンのような早さで起き上がりそのまま後退りしてベッドから落ちた。


「なんというか、予想通りね……」


 先程まで真っ赤になっていたエリンだが、リュドヴィックの予想通りの展開にすぐにまた冷静さを取り戻せたのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ