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逆断罪・国外追放された王子とドラゴン派遣サービス始めました  作者: 川奈あさ
1章 ざまぁ王子がドラゴン島にやってきた
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12 二人は子供ドラゴン

 


 突然部屋に現れた男にリュドヴィックは言葉をなくしているが、エリンにとっては見慣れた光景だ。呆れた顔でエリンは尋ねた。


「ジル、あなた王都にいるはずじゃ……どうしてここに?」


「エリンが結婚したと聞いたからだよ!」


「……ちゃんと許可をもらってから来たんでしょうね」


「もちろん!以前エリンに叱られてからは絶対に守ってるんだ!」


 エリンは疑わしげな顔をするが、男は自慢気に胸を張る。


「久しぶりだねエリン、元気だった?会いたかったよ」


「一週間前にも会ったけどね」


「だってエリンが島に戻っているのが嬉しくて」


 部屋にズカズカ入ってきた男はニコニコとエリンの手を取る。尻尾など生えているわけはないのだが、ブンブン振る尻尾が見えるようだ。


 男の名はジルベール・アンリオ。ルロワドラゴン騎士団の正騎士かつ王立騎士団所属の二十歳。

 王立騎士団に派遣されるのは、ルロワ騎士団の中で特別優秀な未来ある若者だけだ。つまり彼もルロワの中でトップクラスの実力がある大変優秀な者だが……。


「そうだ!どうして結婚!?誰と!?なんで!?」


 涙目でわめく姿からはとても想像できないが、王都の女性には『氷の騎士様』と人気なのだ。

 国王の警護を主に担当しているジルベールは人目につくことが多い。

 涼やかな切れ長の目元、美しい銀髪のポニーテール、スラリと長い手足。いつも静かに控えていて口説いてくる女性には素っ気無く笑顔はほとんど見たことがないと言われるクールでスマートな氷の騎士。

 学園にいるエリンにもそんな噂が聞こえてきたことがあったの、だが。


 この姿を見れば女性達の『氷の騎士様』への憧れは砕け散るのではないだろうか。

 エリンはジルベールのハグを阻止して、隣で呆然としているリュドヴィックに目を向けた。


「紹介するわ。この方は私の夫になったリュドヴィック。こちらはジルベール、今は王立騎士団に所属しているの。ルロワドラゴン騎士団のエースよ」


 エリンの視線の動きに気付き、ジルベールは初めてこの部屋に他の人間がいることに気づいたようだ。リュドヴィックもようやく石化から解かれてジルベールを見つめる。二人は惹かれ合うようにジッと十秒程見つめ合ったかと思うと



「貴様はあの時の――!」

「追放された王子がなんでここに!?」



 と同時に目を見開いて叫んだ。


「あら、知り合いだったの?」


「こいつは僕に剣を向けたんだ!」

「罪人の元に向かっていくんだから当たり前だよね!?」


 二人は同時にエリンの方を向き、非難を含んだ声で叫んでいる。



「ああ!あの時の!」


 エリンはあの日の、卒業パーティーの断罪イベントを思い出した。そういえば自称聖女に駆け寄ろうとしたリュドヴィックは騎士に剣で制止されていた。



「あれジルだったんだ」


「えっ、エリン、私の活躍見てなかったの?あの場にはエリンがいると思って張り切っていたのに!」


「衝撃的な出来事すぎてそこまで目に入らなかった」


「ふん」


 がっくりと項垂れるジルベールに、リュドヴィックは勝ち誇ったように笑みを浮かべるが何も勝ってはいない。しかしジルベールには効いていてリュドヴィックを恨めしそうに睨んでいる。


「どうして追放されたヤツがここに!?」


「失礼よ」


「私が仕える国王が追放した相手を敬う必要なんてないだろ。罪人なんだから」


「ジル、やめて」


 普段はスマートな男なのに、ことエリンが絡むと子供ぽくなる。私の周りにはこんな男しかいないのだろうかとエリンの頭は痛くなってきた。

 追放ネタを出されると弱いリュドヴィックは何も言えないでしょぼんとしているでないか。


「まあとにかく色々あって結婚することになったのよ」


「色々ってなに!?ちゃんと説明してよ」


「ジルの仕えている国王様がこのドラゴン島を監獄扱いしたのよ」


「監獄?」


「島流しついでに私と結婚、というわけ」


 エリンは簡単にジルベールにいきさつを説明した。エリンも背景や思惑などは結局わからないので本当に簡単な説明しかできなかったのだが。


「帰る」


 エリンが話し終えるとジルベールがすぐに部屋の外に出ていこうとするからエリンは慌てて阻止した。嫌な予感しかしない。



「待ってジル、何をするつもり?」


「王都で問題を起こして私も島流しされる」


「貴方の場合はただの帰郷になるわよ」


「僕たちの婚姻に文句があるなら、お前のご主人様に文句を言うんだな」


 リュドヴィックは元気を取り戻し嫌味を言うまで回復している。その元気と反比例してジルベールは落ち込み、演技のように崩れ落ちる。



「私の可愛いエリンが、私の可愛い妹が……」


「この島を再興するために、共に経営を行うパートナーをずっと探していたのはジルも知っているでしょう?」


 エリンはジルベールの隣に座り込んで背中をさすってやる。ジルベールは小さく頷いた。


「そうだけど、エリンに相手が見つかると思わなかったから」


 さりげなく失礼だが、気にせずにエリンは続けた。


「私たちの夢を叶えるため、私は新規事業から、ジルは騎士団から、ドラゴン島を盛り上げるって約束したでしょ。もう監獄なんて思わせないように再興させましょうね」


「うん」


「ジルのことを信じてるから。王都からドラゴンのイメージを変えてくれているって。ね、一緒に頑張りましょう」


「任せてくれ。このドラゴン島を私とエリンの手で再興しよう。私の心はいつでもエリンのもとにある」


 ジルベールは瞳の中に光を取り戻し、両手でエリンの手を取って力強く言った。


「僕の妻に気安く触らないでもらえるか」


 リュドヴィックがやってきてジルベールの手を払うとエリンの腕を引っ張り、その場に立たせて自分の隣に引き寄せる。



「こんな勝手に結ばれた婚姻、すぐに無効になる」


「そんなわけない」


 リュドヴィックも不本意な婚姻だったはずなのに、あの日の恨みをこじらせたジルベールにはやたら強く出る。二人の視線がばちばちと絡み、どうでもいい言い争いが起きる事をエリンは察したので口をはさむ。



「それでジル。どうして帰ってきたの?」


「ああそうだ、騎士団長に頼まれたんだよ。騎士を一人連れてきてくれないかと。故郷の領地に帰るとかで欠員が出て。うちの騎士団から誰か、と言うことになったんだ。ね?許可を得ているどころか仕事でこの島に来たんだよ!」


 誇らしげにジルベールは胸を張るので、エリンははいはいと受け流した。


「いつまで島に滞在するの?」


「残念だけど明後日まで。団員に目星はつけているから、今日明日で彼の意思確認をするよ。一人連れて行っても問題ないかな?」


「五十人くらい連れていってくれてもいいのよ」


「ふふ、冗談が相変わらず面白いね」


 エリンは全く冗談ではなかったが、思いついたことはあった。


「ジルがいるならちょうどいいわ。明日はルロワ基地を案内してもらいましょ」


 エリンの提案にリュドヴィックは露骨に嫌な顔をした。


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