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あの日のこと

契約した時のこと

藍月視点


自分の目が嫌いだった。ママが叩くのは目の所為だと思っていたから。

「折角、藍青と月魄が双子で生まれるはずだったのに!半分ずつじゃ意味ないじゃない!」

って。私が生まれて何年も経つのに、私を見るとその失望を思い出してしまうらしい。ヒステリックに喚くママは体は大人なのに、精神がまるきり子供で、人の親になるのはちょっと早かったみたいだ。

そうして、「その目をこちらに向けないで!」と私を叩く。だから、あんまりママの視界に入らないように、気を引かないよう静かにしていた。

パパは私に無関心だった。私を見ても何も言わない。叩かないけど撫でてくれることもない。そもそもあんまり家にいない。だからパパの考えていることはよくわからなかった。

文字が読めるようになった私は、どうしてママが双子が欲しかったのか調べることにした。双子じゃない私でも、それができたら、もしかしたらママがみとめてくれるかもしれないって思ったから。

そうしてわかったのは、藍青と月魄というのは本来、この家に代々伝わる怪物の名前だってこと。姿は一定しないけどその名の通り藍青は深い藍色の瞳を、月魄は淡く輝く銀白の瞳をしている(まさに私の目だ)。そしてその力が拮抗していることでこの家は繁栄しており、あぶれた部分が怪物として実体化して家の者の使い魔になるので、どちらか優勢な方しか姿を現さない。

ええと、つまり…ママは何かしらの外法に手を出していたらしい。本来生まれないもの、生まれてはいけないものを産もうとした。そうして生まれたのが、藍青でも月魄でもない私だった。その望みは多分私には叶えられない。私は人間だから。だから私は、自分を藍青でも月魄でもない、藍月であると定義した。

6歳の誕生日、それまで私に何もしてこなかったパパが言った。

「そろそろ使えるようになったか?」って。

意味が分からなかった。そうして私は座敷牢に閉じ込められた。食事はきちんと与えられた。毎日決まった時間に食事が運ばれてくるときだけが他者に会う時間で、それ以外はひとりきりだった。牢の中には布団とぬいぐるみだけしかなかった。ユニットバスが後付けで備えられていた。衛生的。

やることがあまりにもなくて、一日の半分は眠っていた。そうして夢の中で色んなヒトとお話しした。ずっと眠っていると体に悪いと言われて、牢の中でできる体操をした。

そうして、7歳の誕生日が来た。

「ヤドリギの双子が儀式に必要だったんだ」

とパパが言う。双子として発生して、だけど母親の胎の中で一つになってしまった双子。そんなものが必要だったんだって。つまり、今の私。

儀式場になったのは屋敷の一角に作られた、神楽を捧げるための舞台。そこに、血で円と文字と紋様が描かれた。西洋の魔術儀式の作法だった。パパ以外にも黒い布を被った大人が何人もいて、儀式に参加していた。日も暮れて真夜中。蝋燭の明かりが辺りを照らしている。

「きたれ、きたれ、きたれ!悪魔よ我らの悲願を叶えたまえ!!」

円の一つに座らされた私の喉が掻き切られた。血があたりに飛び散った。神聖な場所を血で穢して、碌なことになるわけがないのに。そんなにまでパパたちは何を望んでいたんだろうね。それが生きてなきゃ叶わないことなら、多分叶わなかったのだけど。

「香しい匂いがするかと思えば、随分なことをしている」

音もなく降り立ったものの気配にパパたちは平伏した。私はただただそれを見ていた。見た事のない姿をしていたから。悪魔だと言われれば悪魔だと思ったかもしれない。死神と言われたら、怪物と言われたら、神と言われたら、そう見えたかもしれない。でも、人間にだけは見えなかった。喉を切られていたから、何も聞けなかったけれど。

「お前は、俺の糧になるか?」

私は問いかけに頷いた。綺麗な顔が近づいて、喉の傷に口を付けられた。血を飲み下す音がして、ふっと、喉の痛みが消えた。

「お前の血は俺の舌に合う。一度で飲み干すには惜しい。…それに、その目も気に入った。お前が変わらずその目で俺を見て、血を捧げるのであれば、守ってやろう。助けてやろう。さて、どうする?お前はこの慈悲深き夜闇の化身(ヨワルテディア)と契りを結ぶか?」

「…藍月は、それを受け容れる」

初めて私が欲しいと言われて、嬉しかった。このヒトが良いと言ってくれるのなら、これから自分の目も好きになれるかもしれないと思った。

「ならば契約成立だ。これから、お前は俺のものだ」

力強い腕が私を抱き上げた。すると、パパや他の大人たちが騒めきだした。平伏をやめたパパと目が合った。

「このヒトはパパの望んだ悪魔じゃないよ」

――暗転。



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