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つないだ手はあたたかい


藍月の体調が整うまでに死者の王は串刺し公に人の子育てに必要な知識を叩きこまれた。必要なことだと認めたのか死者の王も大人しく学びに務めた。元々学ぶことを厭わないだけの柔軟性のある吸血鬼である。言語の異なる相手と文通友達になるくらいだからそれはそう。ちなみにこの世界において、準共通言語のような扱いのされている言語による手紙である。第二言語として扱っている国が多い。ちなみに藍月はそちらの言葉も片言程度なら話せることが途中でわかった。やはり複雑なやりとりは難しいが。

そして二人は藍月が旅に耐える状態になって死者の王の故郷ではなく藍月の故郷に戻った。死者の王曰く、

「神殿に連れ帰れば藍は次の儀式の生贄になる。それは面白くない。もっと食いでができてからでいい」

串刺し公には何処まで本気で言っているのかわからなかったが、完全に建前でもなさそうだった。詳しい内容や間隔などは知らないが、死者の王の地元で人を生贄にする儀式をしているのは事実だし。

藍月の故郷は本来、死者の王には縁もゆかりもない土地である。知名度もほとんどない。そして強大な吸血鬼の支配地でもなかった。そもそも吸血鬼は土地に縛られるものも多いのでほいほい出歩いている死者の王が特殊なのだが。

「そういえば、夜さまは何でこの土地に来たの?」

藍月に問われ、死者の王は笑う。

「暇潰しに適当な船に乗り込んでうっかり寝過ごしたらこの土地だった。流石に腹が減ったから糧を探して、後はお前の知る通りだ」

「計画性がない…」

それが真実かはともかく、事実ではあるのだろう。神は基本的に嘘をつかないしつかせない。神の言葉を偽りにするのは人間である。まあ彼は吸血鬼でもあるのだが。

ともあれ死者の王は異国の地に住み着いた。串刺し公が危惧するほどのトラブルも起こしていない。彼はその気になれば結構な精度で人間に擬態することもできる吸血鬼なのである。その気になるケースがとても限られているが。寧ろトラブルというか、安穏と在れなかったのは藍月の方だった。

(ヒト)は十分な睡眠をとれないと躯を壊すのだろう。子供は十時間くらい寝た方がいいとヴラディーは言っていたぞ、藍」

「…ねたくない」

「それは起きていたいのか、眠るのが嫌なのか、どっちだ?」

「…怖い夢を見るの」

どうも生活が落ち着いて精神的な余裕が出たことでPTSDが表面化したらしかった。

コウモリは本来夜行性で、吸血鬼も陽光を嫌って夜型生活を送っているものが多い。彼も(太陽が苦手というわけではないが)日中は眠ることが多いのだが、今は子供に合わせて朝夕は起きている。日中は学校があるので朝送り出してから眠って夕方帰ってくる頃起きるようにしているわけである。つまり子供が眠る時間はバリバリの活動時間である。

「…おいで藍、慈悲深きヨワルテディアが共に居てやる」

「…うん」

彼はやれやれと藍月を懐に抱え込んだ。そして仕事のためにPCの前に座る。

現代は神もリモートワークができるのだ。流石に神殿に大型電子機器は揃えていなかったが、スマホと電子マネーは導入されていた。悪霊も電子マネーはカツアゲできないので。ちなみに彼は新居にPCは導入したがスマホは持っていない。なんか好かないので。

そういうわけで指向性マイクとヘッドホンをつけてのライブ通話する神様という事になったわけである。直接会わなくてもできる用事ならそれでいいので。彼としては藍月を抱えての通信など人間がペットを抱えて通信するのと同じノリのつもりである。拾い子をしたこと自体は神殿の人間たちにも伝えたので。

『…畏れながら、偉大なるヨワルテディア。御許に幼子がいるようですが』

「俺が許した。それがどうかしたか?」

『いえ…ヨワルテディアがお許しになられたことならば私どもに言う事はございません』

当然通信先の人間たちは困惑したが当人たちは全く気にしていない。何なら藍月は人肌に安心して眠ってしまったくらいである。既にこの地では夜遅く(通信先は時差があるので早朝)なので眠気が限界を超えたのだろう。安らかな寝息を立てているが、彼の衣の裾をがっちりつかんでいる。

そういえば眠るまで、とか区切っていなかったので藍月の方から離れようとするまでに引き離したら約束破りになるか?と彼は小首を傾げた。まあ今のところ然程邪魔でもないので懐炉代わりに放っておくことにした。そうして朝、藍月が目を覚ますまで放っておくことになるわけである。

安心からかそれ以外の理由でか、夢に魘されることもなかったので藍月にとっては多分良かったのだろう。健やかな眠りは子供の成長に大事である。そして藍月の彼への懐き度が上がった。ある意味当然かもしれない。どうあれ彼は藍月を救い守ってくれる存在となっているのだから。


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