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話す言葉が違っても



医師の診断によると、子供は栄養失調と半身にいくらかの骨折、あとは軽い風邪症状が見られる、とのことだった。ならばやはり、グロッキーな顔をしていたのは死者の王の、時に分速100㎞を越える飛行に付き合わされたことも関係しているのだろう。何なら扱いが乱暴になって骨が折れたというのもありうる、と思って話を聞けば

「味見のついでに目についた傷は治した。ヨワルテディアも生物が血を流しすぎれば死ぬのは知っている」

ときた。では子供の方から聞き取りをしようと思えば、こちらは故郷の言葉しか話せないようで詳しい事情は聞き出せなかった。だが、どうも人間同士のいざこざによって傷を負っていたようである。

「…しかし、己の出身の言葉しか話せんのなら貴様の言葉もわからんだろう。不当に契約を結んだのではなかろうな?」

「何を言う。神は遍く生物の願いを聞く。ヨワルテディアも当然、(ヒト)の言葉が判るとも」

串刺し公はそれを聞いて胡散臭いものを見る目をした。しかしまあ、相手が相手なので言葉がわかるから話が通じるということでもないのだ。彼には理解しがたいことに、死者の王の支配地域は未だに人を生贄に使う儀式が廃れていない。というかこの死者の王こそ生贄を受け取る神であったりする。死者の王が通じていると思っていても通じていない可能性もある。

「お前がわかっても子供の方がわからんかもしれんだろう」

「お前たちの言葉を理解しているのだから俺の言葉を理解していないわけがないだろう。お前たちはこれの言葉が判らんのだろう?」

「む…」

言われてみればその通りだった。彼の国の言葉と極東の言葉は共通点があるのかすら危うい。それでも理解しているのなら、何かしらの理由があるだろう。ならば彼の言葉と同じように死者の王の言葉も理解している方がかえって自然だった。

「…ともかく、この子供が風邪を引くことになったのは貴様の所為だろう。碌な防寒装備もない状態で貴様の高速上空飛行に付き合わされれば風邪で済んで僥倖なくらいだ。寧ろそれは余であっても体調を崩すぞ」

「なに、(ヒト)の子はそんなに脆いのか?一応風よけはしてやっていたのだが…」

「知らないのなら教えてやるが生物は冷えすぎれば死ぬ」

「むぅ。…だが、偉大なるヨワルテディアには何でもないことも、脆弱な(ヒト)の子には耐え難いというのも何ら不思議はないか…。俺も少し不安になってきた。俺にこの子供が育てられるか?」

「貴様に計画性というものがないことは知っていたが、やはりか…」

常に気分で生きているとかではなく、本人なりの思慮や規則はあるようなのだが、死者の王はその場の思い付きで重要なことを決めてしまうことが度々あった。本当に常人には理解できないのだが。

「そういえば、名前くらいは聞いているのであろうな?」

「ん?うむ。ラン…お前達の言葉では(カエルラ)といったか?と言っていたな」

異国の響きの名を告げた時、子供が言う。

『私の名前は藍月なんだけど』

抗議の色を帯びた声に彼は聞き返す。

「どうした?」

『藍じゃなくて、藍月なの』

「…ランゲツ?」

『そう!』

「ランゲツらしいぞ」

「藍の月?ならば藍でも間違いではないだろう」

「貴様は余の名前も正しく呼ばないからな…」

愛称で通る範囲なので彼はそれ以上の訂正を諦めている。それに少々癪ではあるが、彼と死者の王の関係はあえて言うなら友人のようなものになるので。

「貴様がランゲツを無事育てられるかはともかく、手放す気はないのだろう」

「うん。ヨワルテディアは一度手に入れたものを他者に譲り渡すことを良しとしない。死んだら飲み干すだけだ」

「生かすと決めたなら少しは生かす努力をしろ…」

いやある意味で彼のところに連れてきたのは生かすための努力だろうし、正しい判断だったのだろうが。

「生物は必ず死ぬものだ。死者の国の王たるヨワルテディアがそれを否定するわけにはいかない」

「…最後には死ぬというだけで、生きようともがくものたちを愛でるのも貴様だろう」

「…んふふ。ヴラディーも少しは俺のことがわかってきたようだな」

「貴様が大層悪趣味だということくらいはな」

「俺が悪趣味?はははっ…趣味が悪いのは俺より猿どもの方だろう。嫌悪や愛憎、我欲で食べもしないのに同胞を殺す。ヨワルテディアは食いもしないのに生物を殺したりはしないぞ」

「…意見の相違だな」

そのあたりの話は世界観、価値観の違いとしか言いようがない。ふたりとも、一般的に見ると悪の存在なので。どちらにしても本人は自分が正しいと思うことをしているつもりなのだが。

「ともかく、貴様が一児の親になるというのであれば、最低限人の親がすべきことくらいは学んでもらわねばな」

「…珍しくお節介だなヴラディー。どういう風の吹き回しだ?」

「貴様がランゲツを通して人の扱いを学べば、貴様がうっかり(・・・・)余の民を壊すような事故も減るかもしれんだろう」

「あれは己の脆さを自覚せず俺にちょっかいをかけてくる猿どもが悪い」

どんな土地にも命知らずや浅慮というのはいるものである。まあ彼の領民は領主が領主なのでそのあたりを弁えている者の方が多くはあるのだが。



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