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怪物の正義

つづきというか青視点


双子として生まれるはずだった片割れが、藍青でも月魄でもない藍月だというなら、その片割れの俺は青魄だと思った。藍月が人間だというなら、生まれなかったのに此処にいる俺は怪物なのだと思った。双つで生まれるべきだった俺たちは一つになって、片割れの中に俺はいる。

自分がどのような存在かは生まれる前から知っていた。だって俺と彼女は、藍青と月魄として生まれるはずだったから。どっちがどっちなんてことはどうでもいい。人間たちには区別がついていないから。神さまが己を信仰する人の子に授ける使い魔。笑っちゃうね、多くを望んだって碌なことにはならないのに。

藍青と月魄は喰らい合う定めだった。ずっと昔からそうだった。神さまがそう決めたから。最初は確か罰だったんだ。多分ね。喰らい合って、もう悪さなんてできないように。溢れた分は使い魔に。合理的だね。反吐が出るよ。

いつまでも喰らい合っていたかったのに。

あの女はきっと頭がおかしかったんだね。怪物だって言われてたのに。でも、この世界では、命を奪うものは大抵、悍ましいくらいに美しい姿をしているんだ。あの男が台無しにしたけど。

てっきり、自分の家のことだからその愚かさを理解して止めたのかと思っていた。違っていたみたいだけど。人間って自分に都合のいいことしか信じないもんね、知ってたよ。そうなると俺も半分は人間だってことなのかな。それはちょっと悍ましいな。

藍月が死にかけて意識を手放して、俺は初めて躯の自由を手に入れた。まあそんなものいらないんだけど。だから二度とこんなことが起こらないように願って俺は神さまに呼びかける。

「藍月は望まないだろうけど、俺は望むよ、神さま!この家にいるやつ皆、死んじゃえばいい!」

でも俺の声に応えたのは神さまじゃなくて、異邦の神だった。

「ならば、供物代わりに受け取ろう。俺が全て飲み干そう。お前のその怒りごと、この屋敷にいる猿ども全ての血潮を」

神妙な顔をして、俺の言葉を真面目に取り合ってくれた。それがとても悍ましいくらいに嬉しくて、腹立たしくて、でも何処か安堵もしていた。だってきっと、俺が何かを願えるのはこれが最初で最後だから。怪物の願いなんて、本当は叶っちゃいけないんだ。多分ね。

三対の翼が、刃のように人の頭を刈り飛ばす。男も女も老いも若きも区別せず、全てが死体になる。逃げまどっても、命乞いしても、同じこと。どちらにしても、約定を破り、神聖な舞台を穢した時点でこの家は終わりなんだ。繁栄は此処で失われ、全て滅びる時がくる。生き残った方がきっと辛いよ。今まで通りなんて一個もかなわないから。神との約定を破るってそういうことだもの。

だって本来は、藍青と月魄が守ってたからこの家はこれまで続いて、繁栄してきただけだもの。ふたりが守りたいって思ったから、続いていたのだもの。でも俺は守りたくないからこれでおしまい。神様の最初の決定の通り、引き伸ばされていた結末がやっと来ただけなんだ。

「きっと最後には俺たちのことも食べてしまってね」

異邦の神にそっと願う。藍月がどう思うかは知らないけど、俺はそう思った。俺たちの新しい神さま。優しくて真面目な神さま。藍月を攫っていってくれるのなら、次なんてないように全部食い尽くして。きっと、きっと。返事はないけれど。

神さまの口が赤く染まっているのを眺めながら俺は再び眠りにつく。藍月は俺のことを知らない。識っているけれど、知らない。無垢に呪われた、白痴のきみ。俺の半身。混ざり合った片割れ。きみがただの人間であり続けるというのなら。俺はその胎の底でまどろんでいよう。さいごの時まで、ずっと。怪物になるのは俺だけでいいから、きみはずっと人間でいて。

「寝起きの空腹とはいえ、少々食い過ぎだな。しばらくは躯が受け付けなさそうだ」

全ての死体に美味いとか不味いとか言いながら血を飲み干した神さまが、はぁと息を吐く。飲んだ質量は何処にいったんだろう。

「サテ、次はどうしたものか…む?(ヒト)の子よ、意識はあるか?俺の言葉はきちんと聞こえているか?」

そういえば俺も片割れも、己がどのようなものか、どのように扱われ過ごしてきたか、この神さまに告げてないな。まあ告げる必要も暇もなかったかもしれないけど。抱っこされてたから歩く必要もなかったし。



そして一話目に至る訳である

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