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第1話 昨日とは違う朝

2055年(恒平9年)11月3日水曜日


 気が付けば僕はVR空間でゲームをしていた。

 たまに寝ながらゲームをしていて寝落ち状態の時がある。今もその状態だろうと思った。


「んー、今何時だ?」

 そんな中、時間を見るともう夕方7時の10分前である。


「玲姉にそろそろ呼ばれるな。ログアウトするか」

 僕のスキルがあれば、ゲームをしながらであってもご飯を食べると言った器用なことは可能なのだが、いかんせん玲姉が激怒する……。味わって食べないと僕の関節があらぬ方向に曲げられゲームどころでは無くなる……。


「あれ……おかしいな……」

 しかし、ログアウトがどうしてもできない。本来そのやり方は簡単だ。コスモニューロンでログアウトのコマンドを入力するだけである。

 

 しかし、今はどうにもコマンドを入力してもエラーが発生して全く上手くいかない。


「うーん、ゲーム運営側の問題かなぁ。困るなぁ。もう5分前なのに」

 玲姉もご隠居並みに時間に厳しいのでマジで僕の生命の危機だ。自然と汗が出てきた。

 

極稀に運営側が不具合を起こしてエラーが起きることがある。その際に、誰も動けなくなったりログアウトが不可能になったりする。

 こんな時に限ってそれが起きてしまったようだ。


「仕方ない。運営側にアクセスしてみるか。僕に何かできることもあるかもしれないし」

 僕はそう思って運営にアクセスしようとするがそこでもウンともスンとも言ってくれない……。


「ま、まさか……このままVR空間でずっと……」

 VR空間が出来た当初の頃は意識が戻らない人もいたそうだがまさかこの僕が……。


「うわああああああ!!!!」

 そう絶望的な気持ちに襲われた時にガバッと布団から飛び起きる。な、なんだ夢か……最近どうにも生々しい夢ばかりを見る。

 時間を見るとまだ5時前だ……今日は父上の予定の都合上早めに旅館を出ないといけないとはいえ、6時から朝食なのだからまだ1時間以上もあった……。


 ふぅ~っと深く呼吸をして

 昨日の車の中での夢のように近いことが現実化しないと良いけど……。


「お兄ちゃんおはよ~! あれ、顔色が今日も悪いねぇ~。もしかして食べ過ぎ?」

 まどかが朝食を食べる大広間に着いた瞬間にすぐに声をかけてくる。


「ああ、おはよ。いや、なんかまた悪い夢をみてね……」


「あはは! お兄ちゃんって結構ロマンチストだよね~。何か夢に結構影響されちゃってさ~」

 まどかなんかに言われるととても癪だ。


「クッ……次からはお前なんかには言わないようにするよ。お前と喋ってもゲームの実力は微塵も上がらんしな」

 まどかの言いたいことは分かるが、昨日の夢に近いことが現実として起きたからな……。


「え~、それはなんかヤダな~。グチでも良いからいっぱい喋ろうよ~」


「ちょっ! 纏わりつくなよ! 分かったから!」

 ベタベタと引っ付いてくるまどかを振り払おうとするが中々離れない。


「お前たちは朝から元気だな……。朝食を荒しかねないから早く座って静かに食べろ」

 父上が一番上座から呆れた表情でそう呟いた。


「はい……」

 僕たちは自分たちの席におずおずと座った。

 朝食を見ると昨日と似たような感じだ。まぁ、正直ご飯は昨日の夕食のような特別な料理でなければ正直言に収められればそれで良い。


「お兄ちゃんのご飯の量少なくない?」


「お前はいつも少ないがな……僕は昨日食べ過ぎたんで調整だよ。それじゃ、いただきます」

「いただきます」


 皆で一斉に食べ始めた。正直、こうやって一堂に会して食べるのはあまり好きではない。

 自分が比較的好感を持っている人間とならまだ食べて良いけど……まぁ、ここはまだ父上が仕切っているから僕たちが自由に動けるだけマシだけどな。

 黒服がズラリと立っているのはホント居心地が悪いけど……。


「それでも昨日よりは元気よく食べていると思いますけどね。昨日は魂が抜けていたかのようで上の空で食べてましたよ」

 そりゃ島村さん。君のせいだよ君の。君が父上を殺すんじゃないかと警戒していたんだよ。

 言わないでおくけど……。

 確かに昨日のことを思えば周りが見えるだけマシとも思えてきた。


「島村さんは、いつも結構食べているよね……あ、だからそれだけ育ったんだ……」

 思わず胸元を見てしまった。

 島村さんの表情からは不快指数が上がっているのが分かる――ああ、またやってしまった……。


「お兄ちゃんは配慮しているように見えて、突発的にやらかすこと多いよね……。

見てると、油断している時にボロが出ているよ……」


「ぐぅ……」


「皆がいる前でなければ思わず頭の形が変わるぐらい殴り飛ばしていました。運が良かったですね」


「ヒィ……スミマセンデシタ……」

 再び鋼を穿つような視線が突き刺さる。更に語気がドスがきいていてやべぇよ……。


 その後はヘタなことを言わないためにも黙っておくことにした……。


「今日はこの地域一帯のセキュリティ部門についてヒアリングを直に行う。

ただし、進路を少し変えて回り道をする。進路については公開できないがな。

今回の旅は午前中で終わりだ。私も次の予定があるので昼には東京に着けるようにする」

 食事終盤に父上がそんなことを言ってきた。


 今更だが、敵襲に備えて色々と対策をしてきているのだろう。そう言う警戒をしている時は相手は動いてこない。

 時間が経って警戒が緩んだ時に相手は攻めてくることが多いのだ。


「ちなみに僕たちはどうしたらいいでしょうか?」


「うん、私が話を聞いている間また観光でもしていてくれれば良い」


「分かりました」

 相変わらずゲスト待遇なのは助かる。目的地だけは大体わかるが今回は内地なので大丈夫だと思うのだが……。


「ところで、どうして獄門会に僕たちの動きが分かるのでしょうか? 

父上だってこれほど大規模な襲撃を受けたことはあまり無かったとは思いますが、視察の2回か3回に1回ぐらいは命の危険を感じていると聞きました」


 食事が終わり父上が帰ろうとしたところを呼び止めて小声で話しかけた。


「それについては三浦とも話したのだが、旅館の情報が漏れた可能性がある。

内通者が伝馬制などで伝えたか。何かだと思われる」


「伝馬制とはまた古風なやり方ですね……」

 江戸時代で使われていた郵便や伝達方法である。しかし、獄門会なら人伝の方法以外では連絡が取れない可能性が高い。


「ああ。それ以外の可能性だと――この中に裏切り者がいるかもしれないということだ」

 僕はハッと島村さんの方を一瞬見やる。島村さんは僕が視線を向けたことに気づいていない様子だった。


「島村さんは違うと思いますよ。父上は無事ですし、僕を殺そうと思えばいつでも殺せましたからね」

 今のセリフの後半は更に声を潜めた。


「私もその可能性は低いと思う。それなら獄門会と合流するか私かお前を殺していそうだからな。

そして、今回のこの視察計画がなされたのは2週間ほど前。それまでの間に伝わるルートがないかどうか様々な可能性について追及したいと思っている」

 “可能性が低い”ということはまだ疑っているということの裏返しでもありそうだがね……。


「でしたら、今回の一件は父上が自作自演で危機を演出したという可能性もあるんですか?」


「ほぉ、面白い発想だな。発言したのがお前でなければ即大王を呼ぶところだがね」

 父上はキレ気味な表情になった。さっきから相手にマジな目をさせることに定評がある僕……。


「ははは……冗談ですよ……数多の可能性について検証したまでです」


「……まぁ言いだしたのは私だからな。とにかく気を付けてくれ、敵はすぐそばにいるかもしれないのだから。

 何か不審な行動をしている人物を発見したらすぐに連絡をくれ」

 いつもの表情に戻ったけど、流石にちょっと焦ったわ……。


「分かりました」

 内通者でない場合が特に厄介だ、虻利家もビックデータを駆使して特定に努めているにも拘らず割り出せないのだから、余程巧妙に行っているに違いない。


 そう思った時に真っ先に頭に浮かんだのは玲姉だった――だが、玲姉が僕やまどかを危険に晒す理由が無い。

 そうなるとやはり科学技術局か特攻局あたりの人間なのだろうか……。

 いずれにせよ、僕が思っている以上に深刻な事態が訪れているかもしれなかった。


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