第76話 ホッとする再会
僕が部屋から出るとまどかが目を丸くして待っていた。
「あ、お兄ちゃん……なんか、凄い音が出てたけど大丈夫だったの?」
「あぁ、僕は無事だった。ちょっと服がボロっただけだ。
ただ……担当者の藤田さんがご隠居に粛清された」
敢えて殺されたとは言わなかった。コイツ結構ショックに対して耐性が無いからな……。
それにしても、物を大事にしたいのに2着も高級スーツがお釈迦になってしまった……まぁ、他の人も似たようなものだし命があるだけマシだけどな……。
「ええっ!? さっきの凄い音はそれだったんだ……。医療班の人も出入りしていたしね」
「お前も色々と言動に注意しろよ。結構素直に発言しちゃうからな」
「いや、お兄ちゃんもでしょ……あぁ、悪い所似ちゃったかなぁ~!」
まどかがニコニコしてそんなことを言った。
まぁ、しかし中で爆音が起きても部屋に乱入してこずに、
こうして何か目に見えた異変があっても部屋の前で大人しく待っていたりするから意外と冷静な感じもあるけどな。
「そういえば、島村さんは聴取を受けてるんだろ? やっぱり、獄門会について聞かれているんだろうか……。そしてちゃんと答えるのだろうか……」
「でもさぁ、ずっと黙っておけば何も分かんないんじゃないの? 知美ちゃん今頃貝のように黙ってるのかも……」
裁判上に不利になることを黙秘すりゃ良いってのは虻利家が支配する前の世界の話だ。
「ホント、お前はバカだなぁ。“何も答えない状況は不利になる”そう言う尋問をしてくるんだよ。
ただでさえ、島村さんは保護観察中なのだから答えなきゃ即、人体実験送りだよ。
あとは、嘘を吐いているかどうかの精度も今の真偽測定器だとまず分かるからね。嘘を吐いても無駄だよ。
島村さんは頭が良いからそう言うところまで分かっているに違いないから意外と素直に答えるんじゃないかな」
「あっ、そっか――ってバカは酷いよぅ!」
まどかは頬を風船のようにぷぅっと膨らませた。
正直、まどかは馬鹿ではない。長年のやり取りの一環でこう言ってるだけで、質問をしている内容のセンスはかなり高い。
実際にまどかの受け答えをしているうちに僕なりに答えが見つかったのだから。
僕の考察によると思ったよりも島村さんは大丈夫なのかもしれない。
「とりあえずは、知美ちゃんを迎えに行こうよ!」
僕が無事だったのがそんなに良かったのか知らないが、クルクルと回りながらご機嫌な様子だ。
「そうだな」
そう言いながら僕たちは移動することにした。僕のいた父上の部屋とは反対側なので少し遠い。
いつもの下らない話やら、まどかをイジったりしながら目的地に向かった。
「あの奥の部屋で尋問が行われているらしい。どうなんだろうか……」
そう言った瞬間向こうから障子が動いた。
「あ、まどかちゃん! 良かったです元気そうで!」
島村さんは僕には目もくれずまどかに向かって言った。相変わらずなところではあるが無事でいてくれただけで嬉しさもあった。
「知美ちゃんどうだったの? ちゃんと答えられた?」
「ええ、島村さんはとても素直に答えて下さってとてもスムーズに進みましたよ」
続いて三浦さんがニコニコしながら部屋から出てきた。
「あ、そうだったんですね。そうなると住民票は発行されたんですね?」
「ええ、ペンダントでお渡ししました」
確かに島村さんの首元にそこそこセンスがある見慣れない紫色のペンダントが踊っている。
凄く下品かもしれないけどあの位置から胸元を見れたら凄い眺めなんだろうなとかヘンタイなことをまた考えてしまった……。
「そういや、まどかはどういう形で持っているんだっけ? お前はペンダントして無いよな?」
「あたしは、足のブレスレットだよ。確かGPSと共通だったと思うよ」
そういや、コイツもこうしているが、玲姉と共に監視対象なんだよな……。
確かに足元を見ると小枝のような足にリングがついていた。
「いやぁ、良かったねぇ島村さん。黙秘しているんじゃないかって話題にしてたんだよ」
「流石に私はそんな子供みたいなことはしません。あなたならダンマリかもしれませんけどね」
「くぅ……あり得そうだから反論できない……!」
冷静に考えたら非合理的でもどうしても感情的に判断してしまう……。
「盛り上がっているところ皆さん申し訳ないですが、今日は昨日よりもいい料理を出そうと思います。
ワンランク上の肉や魚をご提供できますよ。無事に今日を乗り切ったお祝いです」
三浦さんがそんなことを言ってきた。
「へぇ、昨日の料理も相当な質だったけどアレより上なのは凄いねぇ……」
昨日は量は少なめではあったが懐石料理と肉が添えてありとても豪華に見えた。
アレより上と言うのは中々楽しみだ。昨日は色々考えていたので全く味わえないほど余裕が無かったがな……。
ただ、一人で広い部屋で1人で食べることになるけど……。
島村さんとまどかも思わず顔を見合わせている。
「楽しみだね!」
まどかはニコニコしている。お前の明るさには本当に助けられているよ。
「じゃ、また明日な」
「あ、うん……また明日……」
また風呂の前とかで会うとかはあるかもしれないが、今日は2人とはこれまでだろう。部屋の前で別れた。
まどかは捨てられた子犬のような眼をして僕を心理的に引き留めようとしていたが、島村さんにセクハラしちゃうんだから仕方ない……。
ベットに倒れて1分後に通知が来た。1時間後に夕ご飯と言うことだった。
「ふぅ、まだ時間もあるし風呂でも入りに行くか~。折角旅館に泊まっているのに1回も露天風呂を使わないだなんて勿体ないからな~」
さっきはシャワーを浴びたが、寝る前にまた汗を流そうと思っている。温泉もつかりたいしな~。
そう思いながら浴衣を持って風呂に向かうとまどかがあても無く歩いていた。
「おい、まどか。そんなところで何プラプラ歩いてるんだ?」
「お兄ちゃん露天風呂とか好きでしょ? 時間に余裕があるし、絶対来ると思ってたんだ~」
僕が声をかけると笑顔で振り向きながら言った。
「つまり待ち伏せと言うことか。何が言いたい?」
僕がちょっと高圧的な感じで言うとまどかは少し委縮したような感じがしたので、僕は笑顔になった。
するとまどかは安心したような表情に戻った。
「ねぇ、ご飯ぐらい一緒に食べようよ~。何だか2人だけの部屋って何か凄く広いんだよね~」
何だ、可愛い事言ってくれるじゃないか。
「つまりは寂しいんだ? ただ、島村さんが賛同してくれないんじゃないかなぁ。
だって島村さんに追い出されたんだし」
島村さんの魅惑的な体を見て変な気を全く起こすなと言う方が無理があるし……。
「知美ちゃんはすぐに賛成してくれたよ~。まぁ、男の子だし仕方ないんじゃないの?
あとは、口に出さなきゃ良いんじゃないの?」
何だか玲姉が言いそうなことを言うなよな……。
「ふぅむ、正直1人でご飯を食べるなんて久しぶりだから豪華な寂しい夕食になるなとはどこかで思っていたんだよな」
ぶっちゃけかなり嬉しいけど、ここであっさり嬉しさを見せたり、あっさり承諾してしまうと僕の“格”に問題が出てくる。
「お兄ちゃんが何考えているか大体わかるよ……にやけを必死に堪えているから……」
「うっ……!」
「それじゃ、一緒に食べてくれるんだね?」
「そりゃそうだ。お前らと一緒にいれて悪い気はしないよ。島村さんも新しい家族みたいなもんだしな」
一応まどかも含めて可愛い女の子2人と一緒にご飯を食べれて嬉しくないはずはない。
島村さんには今日も助けられたし、家族のような仲間として感じてきたのは本当だ。
この一連の会話で僕の格はまた下がったがな……。
「ちなみに、お兄ちゃんの家での格付けは元から一番下だからこれ以上下がらないよ。良かったね!」
「えぇ……何で読まれてんだ……」
「だって無駄に“格”とか気にしていることあるじゃん! あんなの意味ないのにさ~
それじゃ! 後でね~!」
まどかが風呂に姿を消えていった。
「うるさい奴だよな~。さぁて風呂で汗を流すか~」
笑顔で風呂に入りに行けた。とても食事が楽しみになった。
やっぱりいくら料理が豪華でも誰と食べるかによって味の“内容”が変わるよな。




