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第74話 ご隠居の憤怒

シャワーを使い、高速で体を洗うとすぐさまスーツに着替える。

 コスモニューロンでの対話ではあるので、姿を出さないことも可能ではある。

だが、ご隠居と話すとなれば姿を見せないことは許されない。


「……一体どんなことを言われるのだろう」

 最悪は死をも免れないだろう。ただ、僕自身はミスをしていないので……きっと大丈夫なはずだ。


 そうなると危ないのは担当者である藤田さんだ。

 彼はこのプロジェクトの責任者でもあるので、責任を追及されるのは間違いない。


「何とか庇ってあげたいけど……」

 一度ご隠居が決定したことを覆せるかは不明だ……しかし、何が起こるか分かっているにもかかわらず何もしないというのは目覚めが悪い。



 父上の部屋まで行った。ここで、対談があると先程連絡があったのだ。


「虻輝です。失礼します」

 

 本人確認の認証システムを解きながら中に入る。

 既に父上と、藤田さんの姿があった。後は護衛の黒服が10人ほどそばに控えている。


「おお、何とか間に合ったな。あと5分だったぞ」


「ええ、ちょっと服を着るのにも移動するのにも手間取りまして……」

 汎用ロボットに手伝ってはもらったのだがそれにしても体の痛みが酷すぎて、

どうしようもなかったのだ。

 だが、遅れは許されないので、とにかく必死になってここまでやって来た。


「では、虻頼様との交信を始めます」 

 言われる直前から僕たちは頭を下げている状態で体を固定させている。

 黒服が言うと、大画面からご隠居の修羅のような顔が映し出される。

 あぁ……やっぱり相当怒ってる……。


「おい! どういうことだ! 仙台出兵以来の歴史的な大敗北と言うことらしいではないか! ロボットの損壊は過去最高だとか聞いたぞい!」


 開口一番いきなり怒鳴り散らされ、一同委縮した。


「で、ですが幸い死者は0名でした……」

 横を見ると藤田さんが顔を真っ青にしながらそう応えた。


「貴様! 世に対してそのように口答えするか! 大体よく考えてみろ!

 ロボット兵器500体と人間どれぐらいだと釣り合いが取れると思っておる!」

 

 ……どうやら逆に火に油を注いでしまったようだ。

 とんでもない怒号が頭上を通過していっている。

 この部屋にいる誰もがこの悪夢のような時間が早く終わってくれと思っているに違いない。


「い、1体20億円とも言われていますから1兆円ほどです」


「そうじゃ! 一般人1人が稼げる金額などせいぜい5億円ほどじゃ! 

2000人ぐらい死んでようやく釣り合いが取れるレベルじゃ!」

 

 やべぇ……映像越しな上に頭下げてるのに唾が降り注いで来ている気分だ……。


「藤田! 貴様は制裁じゃ! 貴様一人の命で勘弁してやるわ!」

 やっぱりそうなったか……。


「ご、ご隠居様。お言葉ですが、今回は敵の新たな戦術もありました。

 確かに藤田さんの訓練内容に問題があったのは僕もこの目で見ましたが、

 多少の訓練でどうにかなるレベルの攻撃ではありませんでした……」


 折角シャワーを浴びたばかりなのに汗まみれになっているが、

それでも自分の言いたいことは言い切った。


「ほぅ……虻輝はそう申すか……虻成はどう思う?」

 ふぅ……ひとまずはどうにかできたようだし、僕に怒りの矛先が飛んでこなかった……。


「は、はぁ……私もすべての責任が藤田のものにあるとは思えません。

 私がそもそも外でわざわざ演習を見ようと言ったのも原因がありました。

 基地の中から演習を見ていれば我々を救援するために無尽蔵の部隊を投入する必要もありませんでした」


 父上も藤田さんを一緒になって庇ってくれた。


「……2人ともそう申すか。だがのぅ、こういうのは責任を誰かが取らなくてはいけない。そうも思わぬか? しかも歴史的な損害を受けたのじゃ」

 

「は……はぁ……」


「おい、アレを持って来ているな? お前らちゃんと身に付けているな?」

 ご隠居が何やらゾワリとした不穏な空気がこちらまで感じられる。

これからとんでもないことが起きる悪い予感がした……。


「皆、面を上げよ。今から見せてくれよう。この奥義をな」

 

パッと顔を上げるとご隠居の印象がいつもと違って見えた。

何が違うのか瞬時には分からないが少しいつもと服装がまず違う。

 

「ご、ご隠居様まさか! おやめください!」

 父上が何かを察したのかご隠居に向かって叫ぶがもう遅かった。

 大きな映像からのご隠居が刀を引き抜抜いたと思った瞬間ととんでもない閃光が起きたかと思うと、

 地雷でも爆発したかのような衝撃が僕らを襲った。


「うがっ……」

 あまりの衝撃で僕たちは壁まで叩きつけられた。

ただでさえ腰がおかしくなりかけているのにさらにそこにダメージが加わった……。

一瞬にして着ていた新品のスーツはボロボロになった……。


「ほっほっほっ! 愉快! 愉快! 少しやり過ぎたぐらいかのぉ」

 呑気なご隠居の声が聴こえてくる。


「ふ、藤田! しっかりしろ!」

 父上が藤田さんに駆け寄っていた。どうやら、あの衝撃は藤田さんに対して向けられたものだったらしい。

 

「虻成様……残念ながら藤田さんはもうお亡くなりになっております」

 医療班が直ちに部屋に駆け付けたが、すぐにそう診断した。


「ほっほっほっ! 無事制裁をできたようじゃな。

皆、命を懸けて任務を遂行するように」

大変ご機嫌のままご隠居との連絡は終わった。


 部屋の被害状況を見ても、広範囲にわたって攻撃の影響を受けたのが分かる。

全ての家具が最低でも倒れご隠居の画面の正面にあった物は破壊されている。


 父上のいる部屋なのだから相当耐久力が高い材質で作られている筈だ。

やはりとんでもない衝撃が部屋全体を襲ったのだ。


「藤田……悪い奴では無かったのだが……」

 父上が藤田さんを思い起こしながらふと呟いた。


「ご隠居に目を付けられてしまったら一巻の終わりですよね。

 それにしてもとんでもない攻撃でした」


「画面越しに攻撃をしてきたと言うことは

……もしかすると秘具である『ゼロンスステッキ』を使ったのかもしれないな」

 

“宇宙人”が提供したと言われている『ゼロンスステッキ』は強大な力を有しているが、わざわざ“制裁”のために使うか?


「そうなんですか?」


「よく思い出してみればいつものご隠居の部屋では無かっただろう?

 背景が黒めの部屋だった」


「あ、確かに。いつもの豪華絢爛の部屋ではありませんでしたね」

 何かちょっといつもと印象が違うなとは思ったんだよな。そう言うことだったのか。

 だが、よく考えてみれば空間を超えるほどの攻撃をしてくるのは『ゼロンスステッキ』の力を使ったとしか考えられない。


「恐らくは、大王が特別仕様で作った特別仕様の部屋だろう。

 それを使っての攻撃だったのだろう」


「確かに斬撃の前にご隠居様が何か指示をしていました。

 周りの人間にも特殊な装備をさせていたのでしょうね」

 ご隠居の服装も違っていたしな。


「うん。普通1人を罰するのにそんなに大掛かりなことはしないとは思うのが常識だ。

 だがご隠居様は本当に常識の外に存在しておられる方だからな……」


「ええ、確かに……。ところで藤田さんはどうなるのでしょうか?」

 勿論ご遺体がどうなるのかと言う意味である。


「そうだな……残念だがここまで大きなミスをしてしまったのだ。

 まともな埋葬方法では無いだろうな。

 最悪は戸籍ごとなかったことにされるだろうな」

 

 虻利家の影の刑罰として“存在抹消刑”と言うのがある。

 事実上の財産没収も兼ねており、家族すら強制的に人体実験行きである。

 恐らく人類史上で最も恐ろしい刑罰だろう……。


「そ、そんな一度のミスで……抹消刑とは」


「それだけ“責任者”と言うのは責任が重いんだ。

彼もあれで年収3000万円はあった。お前も肝に銘じて注意しておけ。

年収は責任の重さなのだとな」

 

父上の表情は険しかった。自分自身にも言い聞かせているに違いない。


「はい……」

 僕のミスは父上は別格なので影響はなくとも、玲姉やまどか、島村さんにも影響するだろう。

 年収50億の僕の責任は果てしないと言える……。

 一つ一つの行動にやはり神経をとがらせておく必要があると心の底から思った。

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