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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第2章 悪夢の共闘

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第73話 ボロボロの生還

 なんとかミナ達を撃退できた……。

 安堵と共に疲れが体中に殺到してきた。

 しかし、まだ敵が潜んでいるとも限らない。休んでいる場合では無いように感じる。


 僕たちはずぶ濡れな上に足が土塗れなのでゆっくりではあるものの基地に向かって退却していった。

 警護のためのロボットが何機も周りを警戒している。本当は飛んで帰りたいところだが、まだ敵がいる以上目立つ帰り方はしたくない。

 あと1キロほどなのだが、中々近づいている気がしない……。


「しかし島村さんは大したものだよ。あの状況化を打開してしまうんだから」


「ホントッ! あたしも知美ちゃんの弓の力を始めて見たけど凄いんだね~!」

 まどかは目を輝かせてスキップをしている。


「ええ、私も必死でしたから……」

 しかし、島村さんは浮かない顔をしている。それは足が痛いだけでは無さそうだった。


「やっぱり、ミナって子と戦うのは抵抗感がある?」


「ええ……3年間毎日一緒に訓練していましたから……」

 その相手に対して弓を文字通り放ったのだ。複雑な感情が交錯しても仕方ないだろう。


「神妙な雰囲気のところ申し訳ないのですが、島村さんには後ほど獄門会について聴取させていただいてもよろしいでしょうか?」

 僕達より前を進んでいた三浦さんが振り返りながらそんなことを言ってきた。

 いや、空気を読んで欲しかったが……。


「はい、勿論私に話せることなら何でも話させていただきます」

 島村さんは悲しそうな表情から一気に引き締めながら、ハキハキと答えた。


「島村さんは結局のところ獄門会でどういう地位だったの?」


「そうですね……具体的な地位は与えられていなかったので一兵卒と言う感じでしたね。

 ミナとはほとんど道場では仮の宿泊施設のようなものがあり一緒に稽古をしていたという形でした。

 部屋も同じだったので、学校に行く前の朝のランニングから、家に帰ってから寝るまで一緒でした……」


 島村さんはどこか遠い眼をして懐かしむようにして振り返った。


「なるほどね……確かにそれだけ一緒にいたならもはや“家族”と言って良いよな」


「そうですね。ミナはとても明るく、よく冗談も言ったりしてくれて私の荒んだ心を癒してくれました」


 心を荒ませたのは虻利家なのだから僕としてもその点はとても責任を感じる……。


「……そんな親友に対してあれだけ強い言葉を言えるんだから本当に大したものだよ。

 僕なら躊躇しちゃうよ……獄門会へ戻ろうかなとか思っちゃったりしそう」


 島村さんは僕の言葉に対して歩みを突如として止めた。

 僕とまどかは思わずバランスを崩しそうになる。


「実は私も少しはそう思いました。ですが、玲子さんやまどかちゃんを裏切れないと思いました」

 やっぱりそう言う感情が渦巻いていたから戦場であっても突っ立ったままだったんだな……。


「良かったぁ! あたし達も少しは役に立ったんだね!」

 まどかがぴょんぴょんと跳ねて喜んだ。お前はウサギかよ……。


「はい……過去のことは勿論大切ですけど。私は今を生きようと決めました。

 だからもう、迷わないです」

 静かだが確かな決意だった。その眼にも早く曇りは無いように思えた。


 今の発言を拡大解釈すればもう父上を狙うということも無いのかもしれない。

 これは甘い憶測かもしれないけどそう信じたかった。


「やっぱり過去どうであったかより、今どうであるか。

 そして、未来へ活かすか……これが重要になってくるよね。

 同じ過ちだけは決して繰り返してはいけないから……」


 これは僕が肝に銘じたことだ。島村さんのような悲劇的な家族を生み出さないようにする社会システムを作っていかなければいけない。



 

 やっとの思いで旅館の玄関に辿り着くと、途端に力が抜けた。

 昨日の5キロのジョギングとは比べ物にならないほどの疲労に襲われその場で思わず寝そうになった。

 島村さんは僕が倒れ込んだ時にバランスを崩しかけたが、すぐに体勢を立て直す。

傷口が開いたのに、僕よりも元気そうだった。


「ちょっと! お兄ちゃん! そんなところで寝始めないでよ! 邪魔で仕方ないんだけど!」


「他人のことを考えられる人だったら虻利家の人間では無いと思いますから仕方ないですよ」


 まどかと島村さんから酷いことを言われまくる……。

 だが、この当たり前にあったようなやり取りも生きているからこそあるものだ。

生きていることに奇跡的なモノを感じながら、仕方なしに体を起こした。

 体に付いた土が旅館の高級な敷物を汚していた。


「部屋まで何とか辿り着けるか……」

 爬虫類のように4足歩行で地面を這って進む。

島村さんを支えていた時の腰の負担が大きすぎてこうでもしないと体を維持不能なのだ。


「アハハッ! 何だよその歩き方ぁ!」

 まどかがお腹を抱えて笑っている。


 そんな中目の前から誰かが歩いてきた。

顔が見えないから誰か分からんが、浴衣から見て見分が高い事だけが分かる。


「おぉ……虻輝たちも無事だったか……本当に良かった……と言うかお前何をしている?」

 父上だと分かって僕は腰を抑えながら無理やりサッと背筋を伸ばして立ち上がる。

当然、何の意味も無いのは言うまでもない(笑)。

 ついでに腰もグキリ……と異様な音を立てた……後で誰かにマッサージでもしてもらうか……。


 父上は肩の辺りを負傷して包帯を巻いてあるが、それ以外は何事も無さそうだった。


「ちょっと、疲れが出まして。

 父上もご健在でホッとしました。本当にとんでもない日でしたね」


 それにしても、最近何もなく終わった日が無いような気がしなくもない……。


「前線基地が常に攻撃の脅威に晒されているということは知っていたが、まさかあそこまで追い詰められるとは思わなかった……ロボット部隊も5割以上損害が出てしばらくは専守防衛になりそうだ」

 

「そこまで損害が出たとは……」

 確かに、無尽蔵に基地から出撃しているように見えたもんな……最後には水に流されて修復も難しそうだ。


「今回は本当に大目玉を食らってばかりです……本当に反省しないとこの基地が陥落してしまうかもしれません」

 実戦練習の担当者だった藤井さんも少しの負傷で済んだようだ。

 そして申し訳なさそうに縮こまっている。


「後でご隠居から今回のことで話があるらしいから、服を整えて参加するように」


「はっ……急いで体を洗います」

 やべぇ……基地は陥落しなかったものの5割の損害なのだから誰かが犠牲になってもおかしくはない……。


 父上の表情が優れないのは疲れだけではないのだろう。

 僕も、先ほどまでは疲れからの汗だったが、それが冷汗に変わったのが分かった。

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