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第72話 基地前の強襲

 景親が周りを警戒しながらゆっくりと前を進む。

コスモニューロンでより安全そうなルートを三浦さんが算出して僕達にデータを送ってくれているようなのでこれを信じて進んでいくしかない。

 

 僕たちは歩くことに精一杯なので正直かなり助かる。

 戦力としても負傷している島村さんと僕より景親の方が役に立つだろう。


 僕たちは低い姿勢で草むらをかぎ別けるようにして慎重に進んでいく。

 敵になるべく見つからないようにするためだ。


「――! 少々お待ちを、誰かが近づいてきています」

 そうやって30分近く慎重に行軍していると、景親が突如として歩みを止めて僕達を牽制した。


 “誰か”の気配を察知したのだろう。

ようやく“万里の長城”が大きく視界に捉えられるぐらいの距離になったというのに……。


 僕は唾を飲み込み緊張して気配をなるべく消そうと努力をする。

隣の島村さんも不安そうな表情をしている。


「虻輝様ですか?」

 姿を現したのは三浦さんだった。ようやく胸をなでおろした。


「おぅ、三浦さんじゃねぇですかい。無事だったんですな」

 景親はいつも通り気楽に声をかけている。


「ええ、なんとか」

 三浦さんは服がボロボロになっている。何だか不安になってきた。

 その背後からはロボット部隊が“ヌッ”と言う感じで静かに姿を現した。


「ち、父上は大丈夫ですか?」


「虻成様は今基地におられます。多少負傷しましたがかなりの軽傷です。

実は先程まで激戦があり、ようやく撃退に成功したところなんですよ。

 ここで更に待ち伏せがあるとは思いませんでした。

黒服部隊も半数が犠牲になりました……」

 僕が居ない間にそんな激戦になっていたとは……。


「確かにそんなに苦戦するとは思いませんでした。

やっぱり実践は話が違ってくるんですね」

 島村さんは先ほどの話を踏まえてそんなことを言っていた。

ホントに訓練を見る限りではここまで苦戦するとは僕も思っていなかった。


「敵が想像を超える技を出して来ました。まさか土を溶解させてロボット部隊を行動不能にしてしまうとは……」

 それは苦戦しても仕方ないな……。


「よくそれで勝てましたよね~」

 まどかの言うことに納得だ。逆にその有様だと壊滅していてもおかしくはない。


「ええ、基地を背に戦いましたので。基地からの援護射撃で何とかなりました。

敵も基地を陥落若しくは虻成様を討ち取ろうと思って“とっておき”を使ってきたと思いますから、ご安心していただいていいと思います」


三浦さんはそう言っているが、先ほど“ご安心”と言ってから襲撃されたという事実があるので逆に警戒を強めた。

そもそも、わざわざ三浦さんがここに来ている時点でこの付近で敵が現れることを前提としているのだろう。


そんなことを考えていると、早速と言って良い程、ガサリ! と僕たちの草むらが大きく揺れる!


「だ、誰だ!」


 その場にいた全員が物音がした方に注意が行った。


「知美!」

 姿を現したのはどうやら先ほど島村さんから「ミナ」と言われた子だった。


「ミナ……こんなところまで……」

 僕の肩への負担が軽くなる。島村さんが自力で少しミナに歩み寄ったからだ。


「虻輝様。敵ですし、叩き斬りますか?」

 景親が木刀を構えながら僕に囁いてきた。


「ま、待て少し様子を見よう」

 ミナと言う子からはあまり殺気は感じない。ヘタに刺激をしないほうが良いだろう。

 三浦さんも空気を読んでロボット部隊を控えさせているだけで攻撃するのは止めてくれている。


「どちらかと言うと、島村さんの様子を見ておこう」

 僕は背伸びをしながら景親に耳打ちをした。


「はっ! 分かりました」

島村さんが旧友に対してどういう動きを見せるのか注目に値する瞬間だ。

 

恐らくはここを乗り越えられれば、虻利家からも信用を得られるだろう。

 僕はさっき助けてくれた島村さんを信じることにした

――あの崖から落とされそうになった時に手を離せばいつでも僕を自然に葬り去ることが出来たのにしなかったのだから。


「その……知美! 今からでも遅くないよ! 一緒に帰ろうよ!」

 ミナがそんなことを叫びながらもはや懇願していると言った形だ。


「……残念だけど、私の戻る場所は獄門会には無いです」

 島村さんはゆっくりだが明確に答えた。


「どうしてそう言うのさ! 一緒にずっと訓練してきたじゃないか!」

 ミナとしてはどうしても島村さんとは戦いたくないようだ。


「……ミナといた時の私は本来の私ではありませんでした。

 復讐に身を任せて半ば自分を見失っていたんです。

 確かにお母さんを殺されたり、お父さんが行方不明になってしまったことは許せません――ですが、それを復讐してもあまり意味が無いように感じたんです」


「でも、虻利家は悪事をさんざんやって皆を苦しめているじゃないか! 

これは世直しの一環だよ! 世界を変えていこうよぅ!」

ミナは役者のように身振り手振りを交えている様子は僕からでも必死さを感じた。


「確かに虻利家は色々なことをしていると思います。

ただ、個々人には色々な想いもあると思うんです。

 だから内部から変えることが出来るのではないかと思うようになりました」


 それに対して島村さんは真っすぐ旧友を見つめている。

彼女らしい一点の曇りもない澄んだ瞳をしている。


「くぅ、こうするしか、こうするしか――無いのか!」

 ミナが何かしら手で合図を出した。

僕には何の合図か分からなかったが何やら不穏なものを感じた。


「ミナ! 何を!」

 島村さんはその合図が何なのか大体察したのだろう。

血相を変えてミナを抑えようとする。


 その時、どこからともなく亡霊部隊や天狗仮面の男が再び現れる。


「な、何と! 我々も迎え撃つぞ! 行け!」

 三浦さんの声に反応して、周囲にいたロボット部隊が動き出すと共に、空を見ると基地の方からも無数に出撃してきたのが見えた。

 瞬く間のうちにまたここは殺気に包まれた。


「フフ……無駄だよ! ロボットはこれで無効だよ!」

 

天狗男が無言で地面に降り立ち、何やら謎の呪文のようなものを唱え始める。

 意味が分からないのにとても不気味で聞いているだけで背筋がゾッとしてきた……。


「わわわ! どういうことだこれは!」

 何と僕たちの立っていた地面がたちまちドロドロに溶けていき膝ぐらいまで一瞬にして埋まってしまった……。


「畜生! どうなっちまってるんだこれは!」

 景親がジャンプなどをしようとしているのだろうが……全く動けそうにない。


「これが、ロボット部隊の力を半減させた謎の術です! これの対策をしないと今後の我々も苦戦しそうです……」

 

 三浦さんがそう叫ぶが、そもそも“今後”も何も今日帰還できるか分からないがな……。

 いずれにせよとんでもない術と言わざるを得ない。


「フフフ! ボクの力を見せてやる!」

 ミナも何やら呪文を唱え始め。突然バケツをひっくり返したような水が身動きが取れなくなったロボット部隊に襲い掛かる!


 当然、空にも逃げることが出来ないロボットたちは多少の銃撃を行うものの、

腕を伸ばして流されないようにするなど多少の抵抗をするも空しくいとも容易く、流されて行ってしまった。

 

 僕達がいたところは島村さんを奪還するためなのか、辛うじて水で流されていなかった。


「知美……これでもうボク達の言うことを聞かざるを得ないよね?」

 ミナが島村さんの所にゆっくりと向かって行く。

 もう皆びしょ濡れになっている。スーツが張り付いて本当に気持ちが悪い……。


「ミナ、私のことをあまり甘く見ないことですね」

 ところが、追い詰められているかに見えた島村さんが自信ありげな表情でミナを見つめながら弓を放つポーズを取る。


「私の今の足の状態から言ってこれは悪手ですよ!」

 とんでもない閃光が美しい放物線を描き、天狗男に真っすぐ向かって行く――。


「グハッァ!」

 それも見事に羽に命中して直滑降して撃ち落とした。

 これが本来の島村さんの射撃だよな。と改めて感心した。


 天狗男が墜落するとともに、溶解していた地面が戻った。

 土の塊みたいなのが膝まであってかなり気持ち悪い気分になるが状況は打開した。


「よし、ロボット部隊! 奴らを攻撃しろ!」

 三浦さんが元気になって一気に声を上げた――この人真面目そうで結構“調子いい人”なのではなかろうか……。

 少なくとも結構楽観的な思考の持ち主のように思えてしまう……。


 まだ、無事だった基地から向かってきていたロボット部隊が合流しミナに向かって


「くぅ、知美! まだ、ボクは諦めていないんだからねっ!」

 何やらまたヘンな呪文を唱えるとミナが天狗男を水の術で乗せた。


「ミナ! 私はもう戻る気はありませんから!」

 島村さんはミナが退却していくのを鋭い目線で見つめながらそんなことを叫んだ。

 しかし、その背中はやはり少し寂しそうだった。

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