第71話 両手に華
僕は、島村さんと生きている喜びを享受し過ぎてとんでもないことに気が付いた。
「景親! まどかはどうした! 陰陽師のような奴とまさか……」
幽霊の敵と陰陽師の服装のアイツが気が付けば居なくなっていた……。
そうなると最悪の事態だと……。
「いえ、まどかならあそこで伸びてますぜ。アイツちっちぇのにパワーはあるんですな。陰陽師の服装の奴を味気なく吹き飛ばしていましたぜ」
日陰でぐったりと倒れているまどかが見えた。
「じゃぁ、何で逆に伸びてるんだ……?」
更に依然目を回しているように見える。本当にあれでよく戦えたな……。
「お化けが怖すぎてオーバーヒートしちまったみたいですぜ。
ま、活躍したんですしいいんじゃないですかい」
「いや、そこは克服しろよ……」
「まぁ、良いじゃないですか。終わり良ければ全て良しです」
苦手ながらも奮闘したというのはかなり凄い事ではあるけどな……。
「おぉぅい。大丈夫かぁ?」
僕はまどかの顔の上でパンパンと手を叩いた。
「うぅん……」
10回ほど手を叩いたところでまどかがようやく虚ろな目で目を覚ました。
「良かったです無事で……」
島村さんは胸に手を当てて心底ほっとしたようだ。
僕はいつも通り気楽に接していたが、確かに目を覚まさない可能性があったか……。
脳震盪などになっている可能性があるからな……。
「あれぇ……? お兄ちゃん~? そう言えば敵は~?」
まどかが目をこすりながら体を起こした。口元が緩い感じでよだれがちょっと出ている。
「あぁ、お前がブチのめした敵が帰っていって、他は別の所に向かって行ったようだ」
あの陰陽師みたいな奴は逃げ足だけは速いのか、またも逃げられたようだが……。
「……あれ? お兄ちゃん右手首が赤いけどどうしたの?」
見て見ると島村さんの手の跡がクッキリと残っている。
「あぁ、これはさっき島村さんに崖から落ちそうになった時に強く握られたからだよ。お前は怪我が無さそうで良かった」
まどかは一気に目が覚めたのか目を真ん丸にした。
「えっ!? お兄ちゃん崖から落ちかけたの!?」
「まどかちゃん聞いてくださいよ。この人さっきこのままだと2人とも落ちるからって無理やり銃で自分の手を打ち落として自殺しようとしたんですから!」
「ちょっ!? 島村さん! 告発するなよ!」
折角黙っておこうと思ったのに……。
ただ、どうせ僕のいないところで告発するだろうけど……。
「ちょっとぉっ! 命は大事にしなくちゃダメじゃない!」
「いや、だってその危ないと思ったし……」
「どーでもいい言い訳は良いから! 命を粗末にしたらあたしもお姉ちゃんも皆も悲しむんだから……ヒックッ……」
「わ、分かったよ。だから泣くなって……」
まどかが泣きだしたので思わず頭をなでてしまった。
コイツの涙には弱いんだよ……。
とりあえずは泣き止むまで、頭を撫でながら待った。
「ふぅ……ホント、馬鹿な考えは止めてよね?」
「はい……」
全く……皆僕が居ないとそんなにダメか? 僕なんて替えがききそうなもんだが……。
「そろそろ移動しませんか? ここも危ないように感じます」
島村さんが、提案してきた。地盤が危ないのはここも共通だろう。僕も頷いた。
「島村さん足は大丈夫? 結構足が赤くなっているけど……」
島村さんは右足をサッと僕から見えないように引いた。
先ほど話しながら自ら処置をしていたようだが、傷口が開いたのは間違いない。
「だ、大丈夫です。足のことは良いので、いち早く本隊と合流しましょう――っと!」
と言いながら立ち上がるだけでバランスを崩しかけているんですが……島村さんの様子が心配だ。僕は島村さんの腕を取った。
「折角だから肩貸してあげるよ。まぁ、僕に体重かけすぎても倒れちゃうかもしれないけど……」
「は、はぁ……大丈夫なんですか? 伊勢さんの方が良さそうな気がしますけどね……」
島村さんは何とも言え無さそうな顔をしている。
ま、まぁ、僕の体力の無さに関して不安に思うのも無理はないが……。
「それもそうだな。じゃぁ、景親頼む」
正直言って多少不安はあった……。
「いえ、俺は少し先行して周囲を警戒しておきますんでね。
申し訳ないですが、虻輝様お願いします。
いざという時すぐに動ける人間がいないと問題かと」
先程からあまり発言していなかった景親は冷静だった。
常に周りに敵がいないか注意を払っている。警護としては超一流と言えた。
「確かにそれもそうですね……でも、何だか悪いような気がします」
「良いって、仲間なんだから当たり前だろ……。その怪我も僕のせいなんだし。
さ、僕の方に体を預けて? あ、嫌なら別に良いけど……」
「い、嫌では無いです。それではお言葉に甘えて……」
そう言いながら島村さんの温かい体が僕にかかってくる。
セクハラ! ヘンな事言わないで下さい! とか言ってくるかと思ったけど思ったよりも素直に言うことを聞いてくれた。
た、ただ……ちょっと重い。こ、これは……僕が鍛えていないからだろう……。
――まぁ、その分柔らかさを感じられるんだから役得もある。多少辛くても言わないでおこう。
「ちょっとぉっ! 何だかいいムードになりかかってるけど! あたしのこと忘れてない? 片方をあたしが負担してあげる!」
まどかがどう言う訳か知らないがプリプリと怒りながらなぜか知らんが僕の右肩を持った。
「いや……何で島村さんの肩じゃなくて僕の肩を持ってるんだ?」
しかもほとんど負担軽減に繋がってないし……。
むしろ、僕とまどかの身長差がある分、こっちの負担が増えているまである。
「えぇ~良いじゃん別に~」
何を考えているのかよく分からないが、
まどかの表情を見ると何やら滅茶苦茶嬉しそうな笑顔だから別に良いか……。
こうして、ゆっくりながらも歩き出して20メートルも離れないうちにとんでもないことが起きた。
ガラガラ! グシャ―! と大きな轟音が再び崖の方から鳴り響き、先ほど僕たちがいたところが崩れ去っていた。
思わず振り返ると土埃がここまで舞ってきた。
皆も振り返ったようで同じように土塗れになっている。
「あ、危なかったね……ついさっきまであたしたちがいたところだよ……」
「ああ……間一髪出発しておいてよかったな……」
正直かなり疲れも溜まっていてまだ休んいたい気持ちはあったのだが、
あの土砂崩れに巻き込まれて、僕たちの最期にならなくて本当に良かったと思った。




