第69話 現実への直視
「……あの小さい子と何か関係があるの? 出来れば話して欲しい」
モヤモヤしているのはかなり気持ちが悪いので思い切って聞いてみることにした。
島村さんは目を見開き、ハッとした表情になった。
「……お見通しなんですね。じ、実はあの子はミナと言って私が獄門会に所属していた頃のお友達だったんです。
お友達と戦うことになることに私達互いに抵抗があったんです」
確かに、ミナと言う子もかなり神妙な表情をして島村さんの方を見ていた。
これは本当のことを言っていると言って良かった。
だが、現実としてあることはもう彼女達は敵同士に分かれてしまったということだ。
「今、ここは戦場だ。あの子も旧友かもしれないが今は敵なんだ。
最低でも撃退するための攻撃をしてくれないとダメだ。
それが分からなければ君は死ぬ。それどころか、
周りの人も君が戦わないことによって死んでいくんだ」
僕はまどかがブルブルと震えながらも辛うじて戦っているのを指差す。
ほとんど目を瞑りながら投げ飛ばしている感じだが……何とか戦えている。
もはや酔拳のような動きをして敵を倒しているんだからある意味凄いよ……。
「あのようにまどかは幽霊っぽい敵が相手だとあまり役に立たない。
でも、必死になんとかしようとしている。
そんな中、君までもがそんな様子だと僕たちは全員破滅する」
僕は一度大きく息を吸った。
「最悪僕はこれまでの“実質的な殺人”もあるから破滅しても仕方ないと思う。
でも、まどかを守れないと玲姉に対して立つ瀬がないだろ?」
島村さんは目を見開いて、いつもの引き締まった表情に戻る。
「……そうですよね。ミナだって分かっている筈です。
攻撃をされたとしても私とはもう決別したはずなのだと。
私も玲子さんについていくと決めたんですから……このことは割り切らないといけませんね」
「正直言って僕だってこの状況を信じたくはない。
でも現実から目を背けていてはただ殺されるだけだ。
玲姉や烏丸や弟たちや正平達にだってまた会いたいしね」
「私も玲子さんみたいになりたいです」
「それなら過去とは決別するんだ。過去のことは自分のルーツだし忘れてはいけないことだとは思う。でも囚われてもいけないんだ!」
島村さんの目つきが鋭いものに戻る。これならもう大丈夫だ。
「はい。必ずここを私の力で脱します! ただ――」
少し島村さんが右足を気にする素振りを見せた――まさか。
「ちょっと足を悪くしてしまったみたいで……」
傷口が開いてしまったのか、靴下が赤くなっている……。
「ご、ゴメン……さっきはそこまで気にしてられなかったから」
先ほどはあらん限りの力で島村さんを突き飛ばしてしまった……。
恐らくは体重のかかり具合が不幸にも右足に偏ってしまったのだろう。
またしても申し訳ないことをしてしまった……。
「い、いえ。元はと言えば私が戦場でボーっとしていたのがいけないので……
でも、そんなことは言ってられません! まずはまどかちゃんを助けないと!」
島村さんはそう言うとすかさず、弓を放つ構えを取った。
よく周りを見ると、仮面を被った空を飛んでいた奴らや“ミナ”と呼ばれた島村さんの友達は居なくなっていた。恐らくは父上の追撃に向かったのだろう……。
「はぁぁぁぁっ!」
島村さんはまどかの周りを取り囲む幽霊に対して弓を放つ。
だが、電撃の弓は以前見たものに比べるとやはり威力は弱い。
しかし、幽霊のような奴らは怯んだのか集団で何メートルも後退した。
今の状態でもまどかを援護する上では少しは効果がありそうだった。
「と、知美ちゃんありがとう!」
まどかは死んだような眼つきで戦っていたが、島村さんが参戦してくれたのもあってか少し元気になったようだった。
「中々劣勢になって来たのぅ~。更なる増員をしてくれる!」
ようやく安心できるぐらい数を減らしたと思いきや、またどこからともなく声が聴こえてくる――そしてまた金剛杖のカシャーン! という音が響いた。
「ひぃぃぃぃぃっ! 何なのアレぇぇぇぇぇ!」
まどかが裏返った声で叫び、また目を回しかけている……。
無理もない。さっきよりも大きな幽霊が僕たちの前に突然床から湧き上がってきて、列をなして迫ってきている……。
しかも、体は真っ黒で骸骨のような真っ白な頭部からギョロリと睨んで来る目が赤い。いかにもホラー映画に出てきそうな亡霊のようだ……。
だがよく見て見ると、これだけの大きさでかつ数を出すために遠距離での攻撃が難しいのか、陰陽師のような姿をしている男が出てきている。
「まどか! 幽霊は無視しろ! あの陰陽師だけを狙え! 景親はまどかを背負って突撃しろ! 島村さんは援護を頼む!」
「はっ! お任せを! まどか! 行くぞ!」
景親が有無を言わさずまどかを背負い、陰陽師に向かってイノシシのような勢いで突撃していく!
その勢いで舞い上がった砂埃が僕の眼に入るほどだった……。
やはり肝となるのはあの陰陽師のような奴だろう。アイツさえ倒してしまえばきっと局面を打開できるに違いない!
「くそぅ! 亡霊ども! 半数は虻輝を狙え! そして半数は我を守れぃ!」
ホラー映画に出てきそうな亡霊も景親と入れ替わるようにして僕めがけて殺到してくる。
僕はとにかく逃げる。景親とまどかが先に陰陽師を倒すか、僕が倒されるのが先か……そう言う戦いになってきた。
「いぃぃぃぃぃ!!!!」
振り返ると無数の赤い眼が僕の間近まで迫ってきた。取り込まれたらヤバそうだ。
視界の端では景親が迫りくる亡霊を吹き飛ばしながら敵に飛び掛かろうとしている。
僕は何とか逃げながら反撃をしようと考えながら足を踏み出すと――
突然、バリバリバリッ! ゴーッ! という何かが破壊されていく轟音が響くと共に、視界がグラリと揺れた。
下を見ると断崖絶壁の崖が見える。
「え……。う、そ……だ……」




