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第67話 夢の再現

 圧倒的な殲滅戦ではあったが、少し先から見ている父上はとても渋い顔をしている。

確かに僕も言語化は出来ないのだが何だかこれでいいのだろうか? と少し違和感に近いモノを覚えた。


「ふぅむ……藤井君。昨日のデータを見ていた時から思っていたことなのだが、どうにもシステマチック過ぎるね」

 

 父上が口を開くと、藤井と呼ばれた担当者が青ざめる。場の緊迫感が一気に増した。

「ど、どういうことでしょうか?」

 気の毒なぐらい藤井さんは唇を震わせている。


「獄門会はかなり奇抜な戦術を取って来る。ロボットはレーザーによる電撃攻撃などはやってくれる。

しかし、獄門会は攪乱作戦や幻術攻撃も多用してくる。そんな中、あんなに堂々と攻めてくることがあるのだろうか?」


 確かに父上の言うとおりだ。今のままでは想定外の事態が起きた時に対応が不十分のように思えてならない。


「は……はい」

「今のレベルだと3Dデータで見せられるのと大して変わらない。延長線上に過ぎないぞ。シミュレーションの段階でこういうことをやるのは構わないが、あの敵側に使っているロボットだってそう安くないんだ。

予算を消化するためにこの企画を立てているなら問題外だ! もっとしっかりしてくれないと戦線は支えられないぞ!」


 僕がぼんやりと思ったことを父上は具体的に言葉にしてくれたと言って良い。

“こんなに上手くいくはずないよな”と心の底で僕は感じたんだ。

 

また、予算をきちんと消化しないと“実績主義”の虻利家からすると有効活用し無い部署や幹部が解任されるケースも多い。

定期的にこうした実地の監査が行われるのも納得が行った。


「も、申し訳ありません……」

藤井さんは体のサイズが半分になったかのように縮こまって恐縮している。


「こういうことが分からないから、先日の「仙台出兵」のように実践でも大敗する。

まぁ、そう言うことが分からないのも無理はない。

第三次世界大戦を経験していた世代から交代しつつあるからな――経験がない人間が増えてきたからこういう事態が生じていくんだ。気を付けてくれ」


 父上は敢えて声を落ち着かせゆっくり話した。あまりにも藤井さんが委縮したからだろう。


「なるほど……こういうことがあるから実地調査をするのですね」

 島村さんが腕を組んでいて頷いている。


うーん、どうして僕と同じ反応をしている筈なのに腑に落ちないんだろう……何か裏があるように感じてしまうのは僕の心が汚れているせいなのだろうか……。

 だが、こればかりは考えても仕方ないか……。


「父上の話だとVRでの映像を見せられても“良いところばかり切り取る”から判断がしにくかったりするらしいんだよね。

なるべくそうならないようにシステムを組んでいるらしいんだけど……」


 結局色々な角度から見ないと分からないということなのだろう。

さっき実際に見ながらも父上は色々な角度のコスモニューロンのカメラからも見ていたようだった。


「へ~そうなんだぁ。そういや、お兄ちゃんもゲームをしている時と普段とじゃ別人だもんねぇ~。普段はポカーンとしてるのに、ゲームとなると眼つきが全然違うよ~」


「そこで、僕を出すなよ僕を。お前はその点いつ見てもあんま変わらんよな……。

いつも元気と言うかなんというか……」

 常に純粋で前向きである意味尊敬するよ……。


玲姉も似たような感じだから本当に姉妹でよく性格は似たよな――残念ながら身長やムネのボリュームの面では絶望的な差があるけど。


「この人にも変わらないところはあると思いますよ。大体何かいつも考えているみたいで、ブツブツと呟いていますからね。完全に不審者ですよ」

 島村さんがすかさずそんなことを言ってくる。


「あ……何か呟いてた? まさか不審者と思われるほど呟いているとは思わなかったよ……。状況を分析しているだけなんだけどなぁ……」

 日頃ゲームで状況を確認している癖で皆が何を考えているとか、次の展開はどうなるんだとか……そう言うことばかり考えちゃうんだよな。


「あはは! 普段外に出ないから誰にも指摘されないだけなんじゃないのぉ? とりあえず、口に出さなきゃいいんじゃない~?」


 確かに稀に外に出ても、僕のことを良く知る人物しか会わないからそう言う風に指摘されることも無かったわけだ……その点島村さんは僕に対して嫌悪感すらある。

ある意味客観的に見ることが出来るわけだ……。

 

 父上たちは未だに今回の演習の問題点について藤井さんと話している。そんな中、突如として地面が“グラリ!”と揺れ始めた。


「うわっ……何だ!?」

 目の前の地面にヒビが入り、一気に地面が崩れ始める。その場にいた全員がギョッとして一気に逃げ始める。


「皆! 森の方へ!」

僕は急いで叫びながら森の方へ転がり込むようにして走った。

 ゴッソリと崖が崩れ去った。幸い、誰も犠牲になった者は居ないようだったが、誰もが青ざめている。

 辛うじて森の方は地盤が固かったせいか、大丈夫のようだ。


「こ、これは一体……」

「どうしたのでしょうか……先ほどの演習で地盤がおかしくなってしまったのでしょうか? 調査させましょう」

 皆が動揺している中、更に景親が転がり込んできた。泥まみれでスーツも一部千切れている。


「あ、虻輝様! 大変です! て、敵の大軍が我々の元に向かっています! すぐに避難をして下さい!」

「な、なんと! この崖崩れも奴らの攻撃のせいかもしれません! 虻成様、虻輝様。ここは我々が何とかしますので、是非ご避難をお願いします!」

 三浦さんの声も裏返っている。一同に動揺が広がった。

 

 だが、僕は事前に何となく予感があったので妙に落ち着いていた。そして、周りを観察するとあることに気が付いた。

先ほどの崖崩れの影響で車の中で見た夢と同じような景色になっているのだ。

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