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第65話 崖の悪夢

 昨日の父上と同じタイプのスーツに着替えると、旅館を出て父上の一団と合流し、戦線基地に装甲車で舞い戻ることになっている。


「ひぃ、危ない……時間ギリギリだったぁ……」

 転がり込むようにして車に乗り込む。時間を見ると出発時間ジャストだったので間一髪だった。

虻利家の時間厳守の思考なら、僕ですら遅れたら例え目の前まで来たとしても置いていかれそうだから本当に怖い……。


 何とかギリギリ乗れて安心したせいか朝から色々考えたり、緊張したので疲れが溜まっていたのか車に乗った瞬間に……。


 ――あれ、気が付けばここはどこだろう? 

 さっき車に乗ったばかりの筈じゃ……ザラザラした土だ。崖の上かな、風が「ビュー!」と言う音を立て続けに聞こえてくるほどに強めに吹き荒れている……。


 何か三浦さんが叫んでいると、敵が目の前から突如として現れる。

 まどかが動きが固まるような悪霊部隊と奇怪な攻撃をしてくる――恐らくは獄門会だ。


 救援に来たロボット部隊が応戦するが、悪霊部隊には攻撃があまり効いている様子はない。たちまちのうちに押されていく。

 次々と味方ロボットやられていき、あっという間に父上や僕の目の前にも殺到してきて身の危険を感じた。


 僕は三浦さんから貰った銃を取り出し、3発撃っては補充すると言った形を取った。この戦力差からしてみると糠に釘みたいなものだが、やらないよりはきっとましだろう……。

 そんな乱戦の中、突如として視界に入ったのは島村さんの姿だ。


「あっ!」

 目の前から敵が迫っていて攻撃を仕掛けてくる。

何か怪しい光線のような攻撃だ。ところが、島村さんは他の方向を向いており気づいていない! これは大変だ!

 僕は身を挺して島村さんの盾になろうとするが――。


「うっ……!」

 光線が無情にも島村さんを貫通した――島村さんの体がグラリと傾き、血飛沫が僕の体にもかかる。

そんな中、僕は何とか彼女の体を受け止める。かなりズッシリと腕に負担がかかるが何とかなった……。


「だ、大丈夫? 今医療班を呼ぶから! 医療班はどこだ!」

「……」

 城壁からさらに増援があり、先ほどよりかは敵が後退している。少し敵が遠のき余裕ができた状況になっている。だが、医療班が近くにいる様子はない。

 

 しかも島村さんは思ったよりも当たり所が悪かったのかほとんど声も出せないと言った状態だ。

 僕は即座に誰でもできるような治療法について検索した。自分の服を破き、島村さんの傷が一番深いところに結びなるべく出血が出ないようにした。


「しっかりするんだ! ここで死んだらお父さんや弟さんに会えなくなるぞ!」

 僕は島村さんの手を握った。だが僕の声に応えることなく、島村さんは力が失われていく……。

僕の応急措置もむなしく彼女を抱えている腕は血塗れになってきている。そして受け止めていた体が冷たくなっていくのを感じた。


「そ、そんなバカな……島村さんがこんなところで……」

 僕はどこも出血していないのに僕まで冷たくなっているような気分になった。

涙がとめどもなく流れてきた。まだ会って間もないが、こんな形で……しかも僕の目の前でお別れすることになるだなんて……。


「ちょっとお兄ちゃん! 何熟睡してんだよっ! 昨日あれだけ寝ていたのにぃ~!」

 そんな大声と共に、パシパシッとまどかに頬を叩かれている。島村さんに殴り飛ばされた箇所に更にダメージが蓄積していく……。

「はっ! 島村さんはどこ行った!? 今崖の上にいて……」

 周りを見渡すが、止まってはいるがまだ車の中だった……あ、今のは夢――つまり悪夢だったわけだ。


「私なら隣にいるじゃないですか……それよりも行きますよ。あなたのせいでスケジュールが遅れるかもしれないんですから自覚を持ってもらわないと」

「は、はい……」

 気が付けば着いていたようだった……。

 そして、島村さんはピンピンしていつも通り僕に毒舌を飛ばしてきている。いつも以上に蔑んだ眼をしてはいるが……。

 だが本当に良かった……こんなに嬉しく毒舌を感じたことは今までに無い程に心地よく感じられる。


「お兄ちゃんはいよいよ完全にオカシクなっちゃったんだね……。知美ちゃんからそんなことを言われてむしろ笑顔になるだなんて……」

「気持ち悪いにも程がありますね……」


 2人から酷い言われようだが、笑顔が思わず漏れていたか……。だってさっきまでの惨劇を見せられた後だと生きてくれているだけで嬉しくなってしまう。


「あぁ、ちょっと嫌な夢をみてね……うろ覚えだけど多分敵に襲撃されて島村さんがやられちゃうって内容でね……」

 今思い出しても生々しすぎてゾッとした。いつもの夢ならば夢だと気づくことも多いが、今日の夢は全く夢だと気が付かなかったからな……。


「はぁ~」っと、島村さんは盛大にため息をついた。

「例え敵に襲撃されても一番最初に殺されるのは弱いあなたなんじゃないですか? 

あ、それとも普段私に色々言われているから死んで欲しいとか思っているんじゃないでしょうね?」


「い、いやそんなつもりは……」

 島村さんの剣幕に圧倒された。そんなに鋭い目つきをされると流石に嬉しさも吹き飛んでいってしまう……。


 だが、夢は自分の無意識に考えていることの具現化とも言われることもあるそうだからそう捉えられてしまうこともあるか……。

 今のことを口に出すのは配慮が足りなかったと言って良い……。


「ナイナイ! お兄ちゃん起きる直前泣いてたもんね~! 知美ちゃんが死んだと思って本気で泣いてたんだよぉ~!」

「うぐっ……!」

 まどかが言うからちょっと頬を触ったら確かに泣いたような跡がある……これは恥ずかしすぎる……。


「御託は良いですから、行きますよ。あなたのうたた寝のせいで私が虻成や黒服に遅刻を理由に処罰されたりしたら責任を取ってもらいますからね」

 確かに時間を見たらもうギリギリだ。夢のような事態にはならなくても虻利家に処罰されてはあまり意味が無い……。


「は、はい……」

 プイッと後ろを向いて島村さんがスタスタと歩き出す。それを見て僕やまどかも急いで車を出て追いかける。


 きっと何かの勘違いと言うか僕の妄想の類に違いない……。それとも本当に島村さんに死んで欲しいとか? ――いや、それは流石に無いな。

 僕に対する風当たりが強いだけで、良い子だとは思うしね。流石に死んだら悲しすぎる


 そもそも、島村さんがあんな形でよそ見をしているうちに殺されるとは思えない。確かに突如として戦場になったとして一番初めにやられるのは僕だろう……。

 やっぱり何かの間違いか、妄想の類に過ぎない夢だよな……。

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