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第61話 謎の点滅

 まどかから渡された玲姉からのノルマ表にはランニング5キロと腕立て伏せと腹筋が書いてあった。まぁ、ウチにあるような訓練場とか無さそうな旅館だからそう言う体力づくりしか無いよな……。


 三浦さんと旅館の受付前で会ったので、ついでにどこら辺なら走って良いか聞いてみた。すると、この旅館に沿った場所ならば走って良いとのことだった。

 虻利家専用の旅館なので一定以上の防犯機能があり、敵対的存在があれば自動攻撃する装置があるはずだが、既に顔認証などで僕たち3人をインプットしているとのことだった。


「と、いうことでこの旅館の外周を走ろうか……」


「いや、お兄ちゃんもう疲れ切った顔してるんだけど……」


「もう考えただけで疲弊した。想像疲労かな?」


「何だよそれ……」


「体を動かすことを考えるだけで疲れるんだよ。インドア派なんでね」


 マジで考えるだけで嫌になってくる……拒否症状と言って良い。普通の人間では造作もないノルマなのかもしれない。しかし、普通の人間とはかけ離れてしまった僕にとっては悪夢以外の何物でも無い程ハードなノルマだ。


「御託はいいですから。さっさと行きますよ。とりあえずはあなたの速度に合わせますから。ただでさえ、足を引っ張ってるんですからやる気ぐらい見せて貰わないと困ります」


「はい……」


 島村さんが強烈な毒舌と鋭い視線を飛ばしてくるので、仕方なしに外に出た。ふぅ~深呼吸をするとやっぱり空気はかなり美味しい。


「この旅館を1周してしまうとかなりの距離になりそうです。とりあえずここから突き当りのところまで走ってそれで戻りましょうか」

 

 島村さんが指示した方向からは川が流れるような音が聞こえてきた。虫の声も聞こえてくるので大自然を感じられた。


「お兄ちゃんが逃げないように、前後を固めとこ!」


「逃げないよ――多分ね」


「多分なのかい! ほら、行くよ!」


 島村さんが先頭、僕が真ん中、まどかが後ろという感じで走り始めた。


「ぐふ……きゅ、休憩……」


 暫く走ると、あっという間に息が上がってきた……。僕は手を膝について立ち止まった。


「この程度の速度でもうダメなんですか……? まだ走り始めて1キロぐらいだと思うんですけど……」


「い、いや……ただでさえ最近疲れることが多くて疲れが抜けないんだよ……はぁ……はぁ……」


 最近は布団に入った瞬間死んだように寝る日も多いからな……。


「夜中までゲームのし過ぎじゃないのぉ? お兄ちゃんは熱中すると時間を忘れるからさぁ~」

「多少それもあるかもしれんが、最近はすぐ寝る日も多いからなぁ。それぐらいとにかくもうキツイ……」


「ゲームをプレイしている時はあれだけ躍動感がある動きをしているのに、ちょっと走っただけで息が上がるんですね……」


「ゲームをしている時は別人格なんだよきっと! それとも、誰かと入れ替わってるんじゃないの~」


「言いたい放題言いやがって! コイツぅ!」


 まどかの頭をポンと叩いた。ついでにほっぺたを引っ張る。プニプニしていて触っているだけで気持ちが良い。


「もぉ! そんな元気があるなら行くよっ!」


 まどかが僕の手を振り払ったその時、左斜め前方の森の辺りで何やら光が点滅した。


「あれ? 光った?」


「そぉ? ――あ、お兄ちゃん走りたくないからってヘンな事言ぅ!」


 まどかはそもそも僕の顔を覗き込むようにしていたから視界に入っていた可能性が低いだろう。


「し、島村さんは見えた?」


 島村さんは前を見て既に走り出しそうな感じだったので同じ方角を見ていたはずだ。


「い、いえ……」


「……?」


 彼女にしては珍しく歯切れが悪い。そして、何か少し表情が青いような気がする。


「蛍かなんかじゃないの?」


「バカだなぁお前。蛍は大体6月頃だから11月の今には絶対飛んでないよ」


 まどかをバカ呼ばわりしたが、すかさず検索したのは言うまでもない(笑)。


「バカ呼ばわりすんなし! じゃぁ、やっぱり見間違いだよ! 下らない事言ってないで行こ!」


 島村さんが少し気になったが走り始めると先程と変わらぬペースで走っている。体調に問題がある訳では無さそうだ。もしかすると僕があまりにも体力が無さ過ぎて呆れて答えるまでも無いという感じだけだったのかもしれないが……。


「ひぃ~ふぅ~。5キロ長すぎ……」


 結局もう1回休んでようやく元の旅館の玄関口まで戻ってきた。僕は転がり込むようにして旅館の玄関に座り込む。


「お兄ちゃん。流石に体力無さ過ぎだよ……お姉ちゃんが嘆くのも分かるね」


 まどかは“全く疲れていません!” と言った感じで余裕風を吹かせている。こ、こんなチビのまどかにこんなに言われるしここまで体力差があるとは……。


「う、うるさいな……僕は合理的なステータスなんだ。必要のないところにステータスを振っていないんだ……体力のステータスは1。ゲームスキルはマックスなんだよ」


「現実はゲームじゃないんだから体力無いと話にならないよ。それでよく世界大会とか戦い抜けるよね~」


「ゲームの時は別なんだよ。ゲームは何時間やっても体力ゲージは減らないんだ」


 苦しい訳というのは自分でも分かっている……。


「あまりにも都合良すぎでしょそれ……やっぱりヘンだよお兄ちゃん。ね? 知美ちゃんもそう思うよね?」


「ええ、そうですね……」


 島村さんは上の空と言った感じだ。いつもの僕のメンタルを破壊するキレがある毒舌の切り返しは来ない。やはりさっきの“光の点滅”以来何かがおかしい気がする……。


「島村さん大丈夫? さっきから様子がおかしいけど」


「ちょっと、足がおかしくて……」


 島村さんが例の傷の辺りを触る。何となくだが、“それが理由じゃない”という感じがした。足取りに異変は無かったし、たった今取ってつけたような言い訳のように思えたからだ。何かは分からないが“違和感”を感じた。


「そうなんだ……ちょっと医務室で診てもらおうか」


 純粋なまどかは島村さんの言葉を鵜呑みにして本当に心配そうにしている。それがコイツの良いところではあるが、やはり1人では騙されやしないかと心配になる。

島村さんについては悪いことを企んでいなさそうだから良いけどさ……。


「いえ、ちょっと痛みが走っただけなんで大丈夫ですよ」


 島村さんは笑顔で答えた。だが、僕の感じた“違和感“については聞いても答えてくれないだろう。何か隠さなければいけない事情があるのは間違いないと思うんだけど……。


「お兄ちゃんもボーっとしてないで、次は部屋で腹筋頑張るよ!」


「ひぃいいいいいい! やめろー! 僕は部屋でもう寝たいんだー!」


 思考の渦の中にいたのが現実に急に戻された。まどかに襟首を引っ張られながら僕たちが宿泊している部屋まで強制連行させられる。あぁ……今日もまた筋肉痛だよこりゃ……。

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