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第59話 ロボット戦術の実情

「皆さんで盛り上がっているところ申し訳ないのですが、次の説明をさせて頂きます。こちらの自律型ロボットをご覧ください」


 一世代前とはいえかなり人間の背格好に近い。


「何だかアニメとかで出てきそうな感じのロボットだね~」


「大王科学技術局長が“皆の夢を叶える”ということでアニメや映画などを大いに参考にされたとのことでした。特に重要視されたのが人間と同じような“バランス感覚”を持たせることでした」


 そしてその夢を叶えられてしまうところが大王の凄いところだよな。普通は夢に思い描いただけで終わってしまう。むしろ最近の若者はその思い描く夢すら無くなっているかもしれない。虻利家がそうしてしまったのだから仕方ないのだけども……。


「人間には倒れそうになった時に“元の位置”に戻ろうとする特性があります。

この人間の特性を平衡感覚と言います。これが二足歩行の際にとても重要になってきます。この速度が早ければ早いほど実践でもより活躍できるのです」


 三浦さんが説明している後ろで攻撃を受けてもすぐさま立ち上がるロボットの映像が映し出される。まるで体操の選手のように跳躍し攻撃態勢に入っている映像も流れた。


「確かに起き上がるのに時間がかかっていたら話になりませんね……」


「そうなんです。これにはどういうフォームが“あるべき姿“なのかをその状況ごとによってインプットさせ、間接を柔軟に曲げることと強硬にすることを両立することで実現しました。


 また、武器を持たせた場合に4足歩行の場合は平衡感覚を修正しなければその反動を吸収しにくいという欠点があります。自分の攻撃で関節などの部品が自壊してしまうわけですね。

 このロボットより新しい2足歩行の場合、腰を丸めたりすることによってその衝撃を吸収でき長持ちさせることも可能になっています」

 

 皆、話に聞き入っているのか真剣に聞いている。僕は知っている情報だから割と周りを観察しながら聞いてるけど(笑)。


「また行動パターンに関してはAIによる完全自動制御といった方法もありますが、それには暴走の危険性があります。

 もしかするとロボット同士で結託して反抗してくる可能性がありますからね。一定の指示の方向性を示すのがロボット指揮官の役割となっています」

 

 ちなみに今、三浦さんが説明していた内容は2055年度やそれより前の日本の防衛大綱にほとんど載っていることではある。


 だからこの様にペラペラと惜しげもなく話せるのだ。ただ、その防衛大綱を隅々まで読む人はよっぽどの軍事マニアだろう――ちなみに僕はその軍事マニアである(笑)。


「どうして、獄門会への攻撃はそう言ったロボットでは行われなかったのでしょうか?」


 島村さんの疑問は凄く自然である。


「構造については機密ですが、電磁波を遮る相手の攻撃をこれまで自律型ロボットが受けてしまうと行動不能になってしまう現象が起きました。先日の仙台出兵で生きている兵士が投入されたのもここに理由があります。


 現在のところはより人間の皮膚と同じ構造、電流以外の命令伝達方法など様々な改良が施されたロボットを実践投入しようとしています」


 島村さんは唇を引き締め、床を見つめて何やら考えている。彼女はまた獄門会へ戻ろうとしているのか? もしかすると、今の情報を伝えようとしているのかもしれない……。


「しかし、人間には人間なりの問題があります。獄門会は様々な“業”を使ってきます。特に精神攻撃に関しては我が軍を上回ります。そんなときに人間部隊はあまり役に立ちません。“恐怖が無い“という点においてはロボット部隊が遥かに優れていると言って良いでしょう」


「ロボット部隊に関しては合理的な理由さえあればドンドン進撃していくからな……その分析が間違っていると部隊丸ごと壊滅することもあるけどね」


「虻輝様のおっしゃる通りの課題があるんですね。より多くの合理的なデータをその都度入れてはいるのですが、獄門会も新たな戦術を次々と投入してきますからね。中々攻略が進まないというのが現状なのです」


「それなら人間部隊とロボット部隊の混合部隊ならどうなのですか?」


 島村さんが鋭い質問をしてくる。三浦さんも少し目を白黒させている。


「中々混合部隊も難しいんです。弱点を補いあっているように見えて実は弱点を曝け出している側面もある訳です。これは機密なので詳しいことは言えませんがね」


 ロボットの残骸を盾に地上部隊が前進しようとした作戦が実行されたこともあった。しかし、実際のところは感電攻撃によってロボットの近くに存在した地上部隊は壊滅したという過去があるのだ。


「それなら空中からの攻撃はどうなの?」


 今度はまどかが質問してきた。1階には飛行機の模型が結構あったが、この2階には無い。


「飛行機の空爆をするのもやはり、虻利家の威信の問題があります。自国に爆撃するということは自国に敵がいることを示しますからね。なるべく穏便に地上部隊で一掃することを目指しているわけなのです」


 あまりにも大きすぎるプライドによって様々な合理的な戦術が取られないのは何とも皮肉な話である。

 また、焦土にしてしまえば獄門会もひとたまりもなさそうなものだが、焦土と化した領土を北から他国によって侵略されるという可能性もあるので迂闊には動けない。

他国に領土を奪われたらそれこそ威信に関わる。


 また、獄門会は“地下都市“があるという噂もあり、爆撃が合理的な戦術かも虻利家が確信が持てない理由の一つでもある。


「ですが、飛行攻撃に関してはドローンと共に無人機による攻撃を行っています。

とにかく最近では兵力の消耗を抑える作戦を行い、相手の情報をなるべく引き出させる作戦を取っています。お金に糸目をつけずに連続的な攻撃を行うことを重視しています」


「三浦さんありがとう。最新の情報が良く分かったよ」


 当然、僕は今の説明の全てを前々から知っていたが、三浦さんを労った。時間をわざわざ取らせたし、まどかと島村さんは知らないだろうからね。


「へぇ~虻利家ってのはやっぱり凄いんだね~。でもプライドも高そう~」


「まどか。お前の苗字も“虻利”だけどな」


「あ、そっかぁ~そう言えばそうだったね~」


 まどかは僕を見上げながら弾けるほどの笑みを浮かべている。色々と暢気そうで何よりだった。島村さんも笑顔を見せている。まどかは想像以上に“仕事“をしてくれていた。


「明日は確か、さっきの説明に遭った“連続的な攻撃”の一環を実際に見せてもらうということで良いんだね?」


「ええ、あまり前線に出られるのはお勧めできないのですがどうしても虻成様が見たいとおっしゃったので……」


 ホント、実際に見る必要は無いと思うんだが、非合理な作戦が行われていないか実際に見たいのだそうだ。

 この発想は父上らしいと言えばそうなのだが……途轍もなく不安になってくる。大量に買ったお守りが効果を発揮してくれればいいのだが……。今日はちゃんと眠れるだろうか……。

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