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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第2章 悪夢の共闘

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第58話 虻利家・獄門会台頭の歴史

「ところで一つ聞いて良い?」


「虻輝様どうぞ」


「どうしてこんな戦線に博物館なんてあるの? 壁まで1キロも無いだろうに……」


「あ、いや……機密なら良いけど……」


 三浦さんは随分と顔を歪めいかにも言いにくそうなので思わずそれを付け足した。


「機密では一応無いです。……実はですね。一昨年の仙台攻略の前祝いという形で創設されたのです。もっと戦線が進むと思ったので安全地帯だと思って作られたわけですね」


 ああ、なるほど……そしてメンツがあるからこの博物館は入場者が身内以外誰も来ないという非生産的な施設でも潰せないのか……。


 まどかも流石にこの何とも言えない空気を読んだのか“ダッサ~イ”とか言ってきそうなタイミングだが、自分の手で口を抑えて堪えている。


「確か仙台攻略への出兵は無かったことにされたよな……」


「ええ、出兵前は“日本を取り戻す!”と大々的に報道され2万の兵を投入しましたが、大敗した上で得る物は何もありませんでした……全ての記事は後日抹消され、それを問いただした者は全て牢獄入りしました」


 ちなみに三浦さんは言えないだろうから解説しておくと、戦没者は投入戦力の2割から3割と言われたが、全員行方不明ということにされた。重傷者も合わせれば5割以上と言われている。勿論3割の戦没、重傷者2割となれば歴史的と言っていいほどの大敗だ。


 当然、帰ってこなかった人たちの家族は不満を爆発させ国会議事堂前にデモなどで集まった。しかし、全員政治犯ということで逮捕された。今は良くて精神病棟で長期入院悪くて人体実験で既に死んでいるだろう……。


「悲しいですけどそれが今の現実ですよね」


 島村さんも三浦さんが父上の警備部長ということを知ってか僕に対して言うような毒がある言葉づかいでは無い。


「ついでに答えられないなら答えなくていいけど、この基地にはどれぐらいの兵力が詰めかけているの?」


「大体200人ぐらいですね」


「えっ!? こんなに広い敷地や壁に対してそんなに少ないんですか!?」


 島村さんが思わず飛び上がるようにして驚いた。


「最近の兵器に関しては管理する人間だけがいればいいんです。主に自律型ロボットを何百体も動かすことが求められています。

 以前はそちらの伊勢さんのようにいかにも強そうな方ばかりが採用されていましたが、今はそう言った方は最低限でどちらかというと事務系の人ばかりになっています。どちらかという機密を守れる人間かどうかが大事になっています」


 前線の機密はそれだけ重いということなのだろう。特に最新鋭技術を漏洩させでもしたら即刻殺されてしまうことだろう。


「俺もお払い箱ってわけか……」


「いえ、護衛のような役割は残ると思います。システムに命じていると情報が気が付かないうちに流出した際に困りますから。今の時代はデジタルとアナログとの両立がカギになっていますからね」


「なるほど、機密資料がアナログ的な保管なのと一緒なわけか……」


 大王に連れていかれた際の図書館のような倉庫の光景を思い出した。


「ええ、今回の視察も機密情報として流してあります。凄腕のハッカーでもこの視察情報を掴むことは難しいでしょう」


「俺の役割が終わら無さそうで良かったぜ」


 胸をなでおろし景親は心底安心した様子だった。


 虻利家にとって“安心できる人間“というのが実は少ない。機密情報が存外に獄門会や他国へ漏れていることから年々前線兵力の数は減っているのだ。

その成果として軍事機密の漏洩だけは近年ゼロとなっている。


「では次の展示に行きましょう」


そしてエスカレーターに乗る。乗っている間、視線を横に向けると虻利家がいかにしてこの日本を発展させてきたかについて永遠と書かれているパネルが並んでいた。


「ここは、前世代の兵器があります。最新兵器の原型ともいえる兵器も多く展示してありますよ」


 次の階の展示物を見るとロボットや小型のドローンなどが展示してある。


「一通り見て頂いたところで、次にドローンの説明をします。

我々も獄門会などの組織に対して仙台出兵以降何の攻撃もしていないわけではありません。

 これは2世代ほど前のドローンではありますが超小型性能で暗視カメラ付き、更に敵を見つけ次第に突撃をして自爆するという優れものです。これを昼夜問わずに送り込むことで相手の防御能力を削ぎます」


「それでも獄門会を攻略できていないのはどういうことなんですか?」

 

島村さんが僕がすぐに疑問に思ったことを質問してきた。


「獄門会も色々と工夫をしてきています。これは詳しくはお伝え出来ませんが電磁波を遮断する装置や交代制での見張り、また相手も奇襲攻撃をかけてきています。

 ヘタに戦線を動かすことが出来ないというのが現実です。最高で一昨年仙台付近まで攻略することに成功したのですが、それは結局罠で包囲作戦の逆襲に遭い結局この会津基地まで戻されてしまったという訳です」

 

 流石に獄門会は手強い。虻利家の最新鋭軍事力をもってしてもそれだけ苦戦するのだから。三浦さんは少し言いにくそうではあるが答えてくれた。


「そもそもどうして東北地方は獄門会に占領されちゃったの?」


 まどかが首を傾げながら質問する。


「2028年に青森に大地震が起きただろ? あれはその前の大地震である2011年の比にはならないほどだったんだ」


「あたしたちが生まれる前だからよくは知らないけど、東北のほとんどの町が壊滅状態になったんだよね……」


 まぁ僕も教科書で記載されていることしか知らないがな……。


「あれは夜の夕飯時に起きた地震だったので地震で下敷きというより火災の被害が大きかったのです……死者50万人被災者200万人とも言われています。その復興に大きく力を貸したのが東北で事業を行っていた獄門会のです。だから東北の人たちの支持は厚いようで私の親族も獄門会に参加してしまった者がいます」


 三浦さんは目を細めて遠くを見る。プロフィールデータを見ると三浦さんもこの辺りの出身のようだ。だから親族の方も犠牲になったのだろう。

しかし、三浦さんは獄門会にはつかずに確実に虻利家に対して地位を確立している。親族をも摘発し、特攻局の中でも重要ポストを歴任し今は父上の警備隊長を務めている。


「その直後の約1年後に更に南海トラフ大地震まで来た。

こちらは兼ねてから言われていたから死者数は8000人と思ったよりかは少なかったが、それでも建物の倒壊数は100万棟と凄かったね。虻利家もその住宅への復興支援で一気に発言力を付けていった。地震の復興で日本で一大財閥にのし上がったと言っても過言ではないよね」


 虻利家や獄門会の存在は教科書には載ってはいないが世間では周知の存在と言える。 ただ、詳しく知っているのは当時の時代を生き抜いた人しか分からないことだ。

僕もこうして人づてで聞いたことがある程度でしかない。


「今は虻利家の方が世界を掌握していますが、獄門会の方が先に台頭してきました。元をたどれば獄門会の幹部メンバーは虻利家の分家ではあります」


 その資金は虻利家は主にサイバー部門やロボット開発で得た資金だった。復興をしつつ新しいシステムに組み込む。自然かつ最適な流れで今の管理社会に移行していったのだ。


 対する獄門会は旧来の農業を発展させ食料自給率を上げることに貢献した。そのために、虻利家から物資を遮断されても彼らだけで生き抜くことが可能になっているのだ。


「なるほど、復興の助けをした獄門会は東北を中心に頑強な抵抗を見せているわけですね」


 島村さんはそう言ったが、何か他のことも考えている様子だった。恐らくは元獄門会のメンバーだからそれについて考えているのかもしれない。


「そういうことだよ。虻利家についても高い支持があるのも南海トラフの復興の助けをしたというのも大きくありそうだね」


「ところで、どうして獄門会は独立国家として独立したりしないのでしょうか?」


 島村さんが再び質問をしてきた。それも僕が昔疑問に思ったことだった。センスが良い質問だ。


「それについても又複雑で国家として独立をすれば通貨発行権を握っている虻利家が逆に支配する口実になります。意外と中途半端的な立ち位置の方が獄門会としても動きやすいんですね。彼らは通貨を使わず物々交換を行っているようですね。また、外国からも影ながら支援があるからね」


 外国も表立って支援をするとすぐさま制裁対象になり通貨が使えなくなるが、“日本へ支援“という名目上行っている。


「虻利のプライドとしても、海外に対して“日本のお膝元に独立国家がある”ということを対外的には認めたくないんだろうね」


 ご隠居は人体の構成要素がプライドの塊みたいな存在だからな……。海外の動きもプライドの前には容認しているのだろう。


「お兄ちゃんが言うと信憑性があるね」


「ちなみに僕はプライドなんてそんなにないよ。せいぜいゲームの技術ぐらいかな? 後は他に特技も無いし……」


「知ってた」


「否定しろよ! もっと他に特技があるとかさぁ!」


「特技はあるじゃないですか。あなたの周りにはちょっと変わった人が集まります。なるほどね、そう言うことだったんですか……」


 島村さんがそう言ったが、君も結構変わった子だとは思うんだよ……事実を突きつけたらメッチャ不機嫌になりそうだから言わないでおくけど……。


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