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第53話 呼吸法の確立

「あのぅ、具体的に呼吸の完成形って言うのはどんな感じなんすかね?」

 景親はまだピンと来ないようだった。


「そうね、どんなのが理想形なのかをまず見てもらってこれを目標にしてくださいね。ちょっと、このラインからは下がっていてね」


 玲姉はそう言うと構える。雰囲気がとても真剣なものに変わる。


「はいっ!」


 玲姉の拳の先からビュン! という風の音が鳴ると風圧で少し床が捲れた。その風圧は小型の台風をも思わせるほどの威力を感じた。


「あら……ちょっと加減を間違えたかもしれないわ。床を修復して貰わなくっちゃ……」

 

 床は衝撃を吸収するために壁に比べると柔らかい素材になっているが、それにしてもとんでもない事態である。


 この地下の訓練場自体が玲姉のこういったパフォーマンスに耐えられるように設計されているはずなのだが、それでも耐えられないのか。しかも、この様子だとかなり手加減をしている可能性がある……。


「コイツはすげぇな……」


「いったいどんな風にしたらそんな力を出せるようになったんですか?」


 皆眼を見開いている。この中で驚いていないのはまどかぐらいなものだ。まどかはむしろ自分のことのようにドヤ顔であるが……(笑)。僕もある程度慣れているとはいえ、毎回のように驚かされる。


「私の場合はどんな風に力を出せるようになったのか? じゃなくて、どんな風に力を抑えられるかにかかっていたわね。

出す方に関しては正直言って困っていたからね。周りの家族や仲間に対して散々迷惑をかけて家を追い出されちゃったぐらいだからね」


 その話し方があまりにも寂しそうだったので羨望の眼差しだった一同はたちまち言葉を失った。


「まぁ最初から圧倒的な力を持っているって言うのも大変ということだよな。

僕は玲姉の力を押さえるための訓練を小さい頃少し見ていたが……それはそれで壮絶なものだったぞ。毎日叫びながら制御のために歯を食いしばって頑張っていたんだからな」


 その制御のために協力していたのはあのサイコパス研究者大王だ。『これが人類の新たなる進化に繋がる!』とか言ってあらゆるデータを取りまくっていたからな。

 僕は小さい子供ながらに気の毒に感じもしたが、玲姉は確実に自分を制御できるようになっていったのは流石と言わざるを得ない。


「そ、そうとは知らずに失礼なことを言ってしまいました」


 景親が謝罪した。まぁ、これだけの圧倒的な実力をまざまざと見せつけられては嫉妬する気持ちもわからなくもない。


「いいのよ。では、基本的な動作について改めて説明すると息を吸って吐いたときに思いっ切り体中の力を一点に出すイメージよ」


「ちなみに、応用編ではどんな事やるの?」


「基本をマスターせずに応用を知ろうとするのはどういう思考なのかは分からないけどね……吐くタイミング以外でも“気“の力を自在に力を使えるようになるのが次の目標ね。

 相手が強ければ強いほど、吐くタイミングで攻撃してくることが分かるようになっちゃうから、それを上回る行動をしていかなければならないわけ」


 レベルが高すぎる。僕にそんなことが出来る日が来るのだろうかと意識が遠くなりかけた。


「でも、体にある力や空気に対して影響力を持たせるという点においては同じだからまずは基礎をしっかりやってみましょう。ではまず呼吸法から!」


 昨日の呼吸法講座の復習が行われる。昨日あの場にいなかった為継・輝成・景親を中心に講義が進められる。


「では次に、その胡坐の状態ではなく立った状態で同じ呼吸が行えるようになりましょう。座ったまま攻撃をすることはまずないからね」


 そして20回ぐらい呼吸をして慣れてきたような感じになると、すかさず玲姉の次のミッションが飛んでくる。


「ではここからが本番ね。動作を加えてみましょう。拳を前に突き出すタイミングで息を吐きましょう。武器を使う人は息を吐くタイミングで武器を使う又は放つことをイメージしてね」


 なるほど、お腹に力を入れて拳を加えることで体中の力が一点に集中する感じがある。玲姉はこれを体全体で自在に操ることができる。

 これはやはり驚異的な事と言える。それどころか、それをセーブしなければ大変なことになるって言うんだからね……。


「輝君、たった2日目でここまでやるだなんて凄いじゃない。適性テストを偽装しただけあって思ったよりも才能があるかもしれないわね」


「煽てても何も出ないぞ」


 しかし、内心はとても嬉しかったりした。きっと顔でもニヤついているに違いない。


「他の皆も気合が入っていていいわね~。ここをもう少しするといいわね」


 皆、“背筋強制君“を入れて拳を繰り出している。景親や島村さんは自分の武器を使っているがやはり以前とはキレが良い意味で違う気がする。


「ふぅ~。反復横跳びを無限にやらされるよりは生産性がある気がする」


「なら、最後にやってみる? 反復横跳び?」


「あ……」


 どうして僕は相手を刺激する余計なことを言ってしまうのだろうか……いつもこういうことを発言して自分の首を絞めているような……。


 まどかが玲姉に言われるまでもなく白いラインを3つ持ってくる。もはやこの白いラインすら僕のトラウマになりそうだ……。


「玲子さん、今回はボーガンでの射撃はどうしましょうか?」


「そうね……」


 玲姉が僕をチラリと見る。島村さんは当然、僕を容赦なく蜂の巣にするつもりだろう……。お願いだからやめてくれと僕がアイサインを送る。玲姉ならばそんなことをしなくても僕の思考が流れてくるだろうからそれが通じると信じたいが……。


「今回は無しでお願い。また逃亡されて追いかけるのが面倒だわ」


 それが理由かよ! と言いたくなったがここまで積み上げてきたものを崩されたくは無いというのはお互い一致している。


「では始めます! スタート!」


 島村さんがまた測定する。足元を凝視されていると思うと毎回緊張するが、ここは仕方ない。なるべく先ほどまで玲姉に指導された呼吸法を意識しながら行った。


「そこまで! 回数は47点です!」


「この間は18点。実質30点だとしても輝君はよくやったわ」


「……確かに前よりは良くなったとは思いますけど、これでもまだまだ平均未満ですけどね」


 島村さんはあまり率直には認めたくないようだった。


「逆に、虻輝様ってそんなに体力無かったんですか……。それにしては前線で自ら体を張られますよね」


 輝成がそんなことを言っているが僕は断固として主張したい。


「僕はインドア派なんだよ。この人たちが正直言って異常なだけだから!」


「それにしても18点は逆に驚異的ですよ。狙ってできる数値でもありません」


 健常者最低得点かもしれないのは認めるけどいくらなんでも皆から酷く言われすぎな気もする……。


「おい、為継。そう言うならお前は何回出来るんだよ?」


「私ですか? 私は104点が自己ベストですかね」


 僕はガックリ来た。そういや見た目上はインドア派に見える為継は景親や輝成がいた強豪野球部だった……。その数字なら玲姉ともいい勝負かもしれない。


「俺と輝成は80点ぐらいだったかな。ちょっと俊敏さは為継が抜きん出てるよな」


「景親! それでも多いから! 僕は50点行ってないから!」


 ここにいる奴らは武闘派の異常集団だった……僕が圧倒的に最弱だった。トホホ……。


「まぁ、いいじゃない。伸びしろが一番あるってことで。さっきも言ったけど2日でここまで成長したんだからね?」


 おぉ、あの玲姉が一番優しい言葉をかけてくれるだなんて。


「玲姉に言われると励みになるね。毎日やっていくことで上達していける気がする。多分だけど呼吸法を改善したから劇的に良くなったんだと思うよ」


「やる気になってくれたところで朗報よ。明日から特別講師を輝君のためにお呼びすることにしているわ。私では剣術の指導はできないからね」


 誰か来るか何となく想像が出来てしまったが。敢えてここは考えないようにしよう……。何だか上手く煽てられてとんでもない方向に突き進もうとしていた……。僕の余命はもう幾ばくも無いのかもしれない……。

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