第49話 伝説の剣豪・上杉実光
「話は戻るけど、もう一つ景親に質問はいいか? “上杉実光“というのは僕はどちらかというと伝説上の人物という位置づけだったんだが、どういう奴なんだ? 剣のタイプは何に近い? 家族構成とかはわかる?」
伝説的な存在の襲名ではあろうが、それにしてもかなり気になる点ではある。
「いや、虻輝様が思っているような伝説的な存在ではなく別に普通の人でした。
剣術としては二天一流に近い流派と言えますな。ただ、虻利家によって家族が殺されたとかで酷く憎んでいるような感じがしました」
思わず気になったことを一気に聞いてしまったが景親は流暢に答えてくれた。地頭は悪くないのだろう。
ちなみに、二天一流は宮本武蔵が完成させた流派で、右手に大太刀、左手に小太刀の二刀を用いるものだ。それに近いということは二刀流なのだろうな。
「へぇ、なんか隠匿生活をしていると思いきや、虻利に生活を破壊されるぐらいなら結構普通に生活していたということなんだろうな。それは血筋とかで襲名できたりするの?」
「それが、血筋による継承ではないようですぜ。かなり狂気の継承法でして、なんと前代上杉実光を殺すことによってのみ継承できるようです。仮に病気や事故で死んだ場合では、首は弟子が跳ねることで疑似的に“殺害継承“するようです」
聞いているだけでゾッとするような、何ともおぞましい壮絶な継承法だった。そんな恐ろしいものが未だに継承されて行っていることが驚きではあるが……。
「この上杉流は“究極の殺人剣“とまで言われてるらしいじゃないですかい? きっと、師匠を殺すことで誰でも殺せるようになるということなんじゃないですか? ちなみに、俺が破門された理由も”優しすぎてここぞという時に殺せない“とかそんな理由でしたから」
まぁ、会話していて“良い奴だ”というのは分かる。ただ、ちょっと色々と癖があるけど(笑)。昔、体を鍛えまくっている格闘家が他人を殴ることができずにボディービルダーに転向したとかいう話があったような……景親からはそんな感じの印象すらうける。
「なんだか、にわかには信じがたい話だな。この恒平の時代にそんなことが行われているだなんて……」
「まぁ、しかし虻利家を始めとした世界の国々は突き詰めて見ていくと社会主義的な管理・統治方法をしている。そんな一見古いように見える観念もどんなに技術が進歩した世の中でもどこかしらに眠っているものなのかもしれないですな」
輝成と為継が相次いでそんなことを言った。
「ふぅん、そうなるとどの時代でも“何をしてでも殺したい相手“というのが存在しており”継承者候補”って言うのは一定数存在しているということなんだろうな」
そう思うと何となく血筋による継承でなくても続いていく理由があるように思えた。虻利家のような巨悪と言って良い存在は大なり小なり常に存在し続けたからな。
「まぁしかし、正式な継承者が1人というところで伝説化しているのでしょうな。弟子は複数いてもそれだけハードルが高いと数が増える要素がありませんから」
そりゃ、師匠を殺すことが条件なら正当な継承者は1人だよな(笑)。
「いやぁ、あの当時は色々と悩みましたぜ。この日本・虻利家を良くするためには人を斬らなければならない。だが、人を殺すことで本当に解決するのかと……その人にも人生があるんじゃねぇかとか……この図体でかなり情けないとは思うのですがね。へへっ」
頭を搔きながら景親が自虐的に言った。
「別に恥ずべきことではないように思えるけどな。僕が最近人間にとって大事だなと感じることは、『自由意志を持つこと』だと思っているからね。
だが現実には、ほとんどの人間は考えずに虻利家に従うか、自分を押し殺して暮らし続けているかの2択の状態になっているからね。景親のやったことやそう言った優しさは世の中から見たら最善でなくとも誇れることではないかと思うけどね。
直ぐに行動できるところも素晴らしいし」
玲姉のような優しく強い人や、島村さんみたいに真っすぐな人、景親のような行動力があって優しい人。こんな人達がこの偽りの世界を打ち砕ける可能性があるのだと僕は思う。
「しかしながら、景親のやった行動はあまりにも短絡的すぎますがね。行動力があるところは確かに評価できますが、あまりにも後先を考えなさすぎです。もう少し色々なことを考慮に入れて考えて欲しいところです。あまり考えずに行動できた景親をテロリストたちは単純明快と羨ましいと思うほどでしょうな」
為継は僕の擁護発言から間髪入れずに指摘した。
「す、すまねぇ……もうしないぜ……」
更に景親は項垂れた。さっきも輝成から指摘されたのでいい加減景親も懲りたことだろう。
「長所と短所は表裏一体なところはあるんだからあまり責めるなよ。それぞれの人間は長所や短所があって当たり前なんだからさ」
万能な人間は玲姉だけで僕は十分だと思った。その玲姉すらも昨日は僕にやり方が間違っていたと謝って来たのだから。究極的に完成された人間など存在しないと言っても差し支えないだろう。そういや“長所と短所は表裏一体“ってのは以前美甘が言ってたっけか……。
景親が部屋に響き渡るほどの拍手を3回した。
「流石です! 俺! 虻輝様に一生ついていきます!」
景親が飛びついてきそうだったので僕はそれをサッと交わす。他人の受け売りでまた無駄に評価が上がるのも何とも言えなかった。
「えーちょっと、“一生”とか言われると“重い“感じがして困るかなぁ。気楽に長い目を見てやっていこうよ」
「ハハハ! 景親、振られたな!」
「ちぇー! でも、虻輝様に俺の存在が必須だといずれは思わせてみせます!」
為継と輝成が景親の様子を見て笑っている。コイツらと新しく友達になれて良かったなと思えた。
「ところで景親、お前今後住まいはどうする気だ? 行くあても無いのなら、私か輝成のどちらかの家で住んだらどうだ?」
そういや、景親は両親もいないようだし、20代半ばにして既に天涯孤独なのかもしれない。こうして心配して来てくれる人も僕を含めても3人だけだ。
「良ければ、景親の仕事を提供しようじゃないか。ズバリ、僕のボディーガードね。だから、住む場所も僕の家だ。ただ、あんまり付いてこられても正直困る場面も多いから、暇だと思うのなら野球や剣道の練習をしてもらって構わない。ウチの地下には広い練習場所もあるからね」
部屋はかなり余っているし、場所の面では問題ない。多分、玲姉達も断らないだろう。
「えっ、いいんですかい!? ホントありがてぇ……」
景親は再び涙が頬をつたう。大したことを言っているつもりはないが、涙もろい奴なのかもしれない。
「ふむ、景親はあまり人を傷つけたくないですからな。しかし、虻輝様を守るという目的ならば存分に力を発揮するでしょう。まさしく適任と言えますな。虻輝様さえよろしければその提案は渡りに船でしょう」
「正確に言うと、僕に住まわせる人数を増やす権限はゼロなんだけどね(笑)。ただ、部屋はふんだんに余っているし、景親はこんな良い奴なんだし拒否する人間はウチには居ないよ」
「そこまで言われるのでしたら、遠慮なくお世話になりますぜ」
「よし、そうと決まればこんなところで会話してないで家に帰るか! 虻利家というのは少しの積み重ねや前進のみでは変えられないかもしれない。
でも、1人1人の力は小さくても同じような考えを持っている皆の協力があれば、きっといつかは大きく動かせる日が必ずやってくると信じている! 皆! 今日からよろしく頼むよ!」
「はいっ!」
僕が拳を握って勢いよく立ち上がると皆それにつられて椅子から立ち上がる。何だか景親が無事だったこととビジョンを語っただけだったのに、凄く前向きになれた!




