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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第2章 悪夢の共闘

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第48話 男の友情

 建山さんが立ち去ると、一気に戦場のような緊張感が抜けた。あんな中にずっといたら窒息死しそうだ……。

 為継も思わずネクタイを緩めていた。普段はキッチリと結んでいてそう言うことをしたことは見たことが無い。


「いやぁ、良かったな景親。私としては、為継の身は多少危なくはなるが、こんな風にほとんど何もないだなんて思わなかったぞ」


 北条が手近にある椅子を伊勢の近くまで持って行き、伊勢の肩をポンポンと叩いた。その後に北条自身も椅子に座る。僕も、いつまでも立っていないで座ろっと……しかし、お尻が座り続ければぺったんこになりそうなぐらい座り心地は良くないパイプ椅子だ。


 しかし、張り詰めた空気の中立ちっぱなしだったからか、足が棒になりそうなので、お尻が潰れそうなぐらい酷い座り心地でも有難いと思える。


「どっちかって言うと俺は、お前たちが来てくれたのが意外だったぜ。もう2年もまともに口をきいていないんだからな」


「気にするな。我々はお前のことを弟のように思っているからな」


「そ、そうか……俺には両親ももういねぇ。だから誰も来てくれないと思っていた」


 伊勢の目頭が少し光ったように感じた。実を言うと僕も涙を堪えるのに必死だ……。


「私はお前を兄弟以上の存在だと思っているぞ。それにお前だって色々と思うところがあったんだろう。その考え自体を否定するつもりはない。

ただ、お前が一番いけなかったことは我々に相談しなかったことだ。勝手に一人で決めて勝手に突っ走ってみんなに迷惑をかけたんだからな」


「ああ……次からはそうするぜ」


 北条が伊勢に対してそんな言葉をかけた。僕は自分の頬の涙をぬぐった。なんとも深い友情だろうか……こんなに優しさに満ちた瞬間・空間に立ち会えるとは僕も幸せと言える。

僕も正平やカーターがピンチに陥った時や失敗した時にこんな風に言えたらいいな……。


「ところで、そこにいるモヤシのような奴は誰なんだ?」

 

 伊勢が僕を指差して言う。ま、まぁ伊勢の体格からしてみれば“モヤシ“と言われても仕方ないとも言えるが……。涙が自然と引いていくのが分かった(笑)。


「こ、こら! こちらの方は虻利虻輝様。あの、虻利ホールディングス副社長だぞっ!」


 北条が血相を変えて伊勢の頭を軽く殴る。伊勢は目を見開いてギョッとした。


「こ、これは失礼いたしましたっ! 知らなかったとはいえとんだご無礼を!」


 伊勢が背筋を伸ばしながら平謝りの形で謝罪した。建山さんが僕のことを軽く紹介していたとはいえ、確かに先ほどの特別審判の間も何もしゃべらなかったからな(笑)。 為継や北条が全て代わりのことを言ってくれたんで言うことが無かったとも言えるが、あまりにも存在感が無さ過ぎて忘れたんだろうな(笑)。


「まぁ、気にするなよ。今喋っているのが久しぶりの発言だからね(笑)」


「虻輝様が度量の大きい方で助かったな。多少のことでは怒られない方だから。

私や為継も虻輝様の素晴らしい理念と器の大きさに惹かれている」


「いや、怒らないのって言うのは鈍感ってことなんじゃないの?(笑)」

 

 確かに怒らないと言えば怒らないけど、ほとんどの事柄は怒ったところで仕方ないという面はあるからな。ちなみに、怒ったり泣いたりして何でも解決するのならいくらでも怒ったり泣いたりします(笑)。

 あと理念は玲姉の影響が大きいから決して僕だけのものでは無いからな……。


「虻輝様、これからは敬語をしっかり使いますぜ」


 伊勢は普通から見れば多少荒々しい口調ながらも、彼からしてみれば敬語を必死に使おうとしている様子が伺えた。


「ところで色々と聞きたいこともある。どうして、虻利を裏切るようなことをしているんだ? 軍隊にいたのならば虻利に反することをすれば命が危うくなるということは簡単に想像がつくだろうに」


 先ほどの建山さんの質問で僕の疑問も一部は解消されていたが、気になった点は他にもあったので聞いてみようと思った。


「俺は、虻利家は見た目上は色々と“国民のため“と様々な良い政策を掲げていることは知っています。しかし、こんなことを虻輝様に言うのも難ですが、虻利家のやり方はかつての社会主義国に近いものを感じます」


 伊勢の発言に、為継と北条からチラリと僕に視線を送られてくる。僕の反応や様子を窺っているのだ。全くもって指摘通りなので僕としては怒る要素は無い。

 どちらかと言うと、この伊勢の発言がコスモニューロンでの思想監視に引っかからないかの方が気になるぐらいの内容だ。


「なるほどな。僕も虻利家の悪いところは直していかなければとは思っている。しかし、虻利ホールディングスの副社長である僕の与えられた権限というのは皆が思うほど大きくないからね」


「そうなんですかい?」


「ああ、虻利家の今の構造を知らないとピンと来ないかもしれないが、虻利家当主の上にご隠居である虻頼公がいらっしゃるからね。

 また、影の上位組織として虻利家の上に100人委員会という名家が集結した組織が存在している。その中に虻利家傘下のメンバーは確かに多いのだが、衰退すれば彼らがすかさず、虻利家にとって代わることを狙ってくるだろう」

 

 表向きの構造は民主国家でもかなり複雑な構造をしているのが今の日本なのだ。


「また、知っていると思うが“宇宙人”の存在も虻利家だから動きを抑制できているともいえる。だから僕の中では虻利家を変えていくことが大事だと思っているね」


「な……なるほど。日本の構造が一筋縄ではいかないことは分かりやした。では、どういったら変えていけるんですかい?」


「今できることは少ないけれども、少しずつ僕たちのような人たちを増やしていくことが大事だと思うね。だから、大きな行動を起こして局面を変えようと思うのではなく、少しずつ世間からの信頼を高めていき賛同する人々を増やしていければと思っているよ」


 伊勢は思わず、目を見開いた。


「やはり、虻輝様は現実的でありながら器の大きい方です! 俺も為継や輝成のようについていきます! 是非俺のことも名前で呼んでください!」


「ついでに、私も苗字ではなく名前でお願いしたいです」


 伊勢と北条はそれぞれ――いや、景親と輝成はそれぞれ言ってきた。僕は自分の発言の中で彼らの琴線のどこに触れたのかは分からないが何故か一気に仲良くなれているのは確かだ。


「分かった。景親、輝成よろしく頼む」


「為継~こんな素晴らしい方が虻利家にもいるんだなぁ。俺はてっきり全員が血も涙もない化け物ばかりだと思ってたぜ」


 特攻局での思想統制、科学技術局による人体実験。これらのことは誰もが口に出さないまでも日本国民ならば誰もが知っていることだ……。そのトップを牛耳る虻利家なのだからそう思われても仕方ない面もある。


「虻輝様は変わったお方ではあるが、素晴らしい理念と行動力を持たれている。

私も多少の報酬は貰ってはいるが、全面的にサポートしたいと思ったのもこのためだ」


「虻輝様は、“義“のために動いている。そういう感じのイメージがありますな」

 立て続けに景親、為継と輝成が絶賛するので僕の顔が赤くなっていくのが分かる。耳まで赤くなっているかもしれない。


「ちょっ! 煽てないでくれよっ! めっちゃハードルが上がってるじゃないか! 僕はそんな崇高な人間じゃないってっ!」


「それだけの地位にありながら偉ぶっていないところも素晴らしいです。普通なら、周りを威圧したり、権力に固執したり拡充したり私腹を肥やすことに使うと思いますからね」


「いや、逆だよ逆。僕がね、あまりにも権威が無いんだよ(笑)。だって家族にすらイジられてるからね僕は(笑)」


 マジでウチでの僕の地位は尋常じゃないぐらい低いからな。使用人の地位であるはずの烏丸からすら軽んじられている“ペット以下の存在“なのだから……。


「それを許容されているということはやはり器が大きいのでしょう」


 うーん、どうにもこの3人には僕のプラスのイメージが先行しており、どう言おうともバイアスがかかっておりあらゆる側面のマイナスの面ではなくプラスの面しか見てくれないな(笑)。まぁ、良い評価なわけだから快く受け取ったほうが良いんだろうけど(笑)。


 普段は家では虐げられているから自尊心を満たして欲しいという気持ちもあったが、過大評価だとむず痒くなるというのは何とも複雑だなと我ながら思った(笑)。

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