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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第2章 悪夢の共闘

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第46話 美人でミステリアスな本部長

「ドリンクでも飲んで休みますかね」


 コスモニューロンの機能が日々上がっているためかレストルームで仕事をする人も増えている。この虻利ホールディングスでも会議室が廃止されレストルームの拡張・内容の充実が顕著になってきている。


 しかしこのレストルームは階層社会の権化のようになっている。結果を出した度合いや地位に応じて使えるレストルームのランクが上がっていくのだ。しかし全く結果を出さなければ全くレストルームを使えないというかなりシビアな面もある。


「S1号室の鍵ですどうぞ」


 受付でかなりの重さの赤い色の鍵を貰う。僕は最上級レベルまで使えるので部屋にある冷蔵庫で様々なドリンクが選べる上に、部屋も6畳ほどの1室が丸々与えられているのでかなり寛げる。お弁当を食べて悠々とeスポーツをした。


「あっヤバい! もうこんな時間!」


 気が付けばもう14時になる20分前になっていた。急いでレストルーム受付でキーを返却し本社の玄関前に向かった。


 虻利ホールディングス本社前で待っていると14時丁度の時間で為継の飛行自動車がやってくる。

 今日の午前は久しぶりに満足できるぐらいゲームができて本当に良かった。 

 やはり快適な空間と言うのは違うね。あそこなら自分の部屋の次ぐらいにリラックスできる。


「待たれました?」


「いや、5分前に外に出たところだった。伊勢はどこに収容されているんだ?」


 本当は為継が結構早く来ることもあるので15分前に会社の前に出ていた。しかし、場所を問わずにコスモニューロンで遊んでいたから何も問題は無かった(笑)。


「特攻局直轄の病院です。今朝、精神鑑定などの検査を行ったのですが、問題ないという評価が出ました」


「そうなんだ。どういった罪に問われるんだろうな」


「そうですな……死者は出ていませんが暴行や器物損壊の被害は出ています。それらの罪に問われることにはなるでしょう。

しかし、それらの問題は些細なものです。それより私が問題だと思うのはそれらの軽犯罪ではなく、テロリストに加担したという事実ですな」


「なるほど。実は陰ではどんな罪よりも重いからな今の日本では」


「ええ、何もしなければ確実に人体実験に参加させられ“事実上の死刑“ということになるでしょうね」


 ある意味直ぐに死なせてくれる死刑執行なんて生易しいと言えるからな……。

今の世の中じゃ死刑なんてもうあってないようなものだ。死刑囚も人体実験要員なのだから。体を徐々に蝕んで体の臓器が徐々に破壊されていく人体実験が死ぬまで行われるのだ。それは地獄以外の何物でもない。


「何か対策はあるのか?」


「ええ、“経過観察“ということにしようと思っています。もちろん、景親の経過観察中に何かあった時の責任は私が取ります。もちろん命の責任も含めてです」


 今の為継は玲姉が言っていた印象と同じだった。これまで冷たい印象がある感じを持っていたが、友のためには自分の体を張れるのだなと僕は感心した。


「今回は特攻局の幹部の方が同席され、最終的にはその方が決定されるということになっています」


「なるほど、その人に対するプレゼン次第ということなんだな」


「そうです。相当頭のキレる方のようですから小手先の話術では騙されるような方ではないでしょうな。事実をなるべく景親の不利にならないように主張するのがベストだと思います」


 為継がそう評価するのだから余程の人物なのだろう。


「ちなみに、伊勢を救える勝算はどれほどなんだ?」


「相手の出方次第ですが、私の最善は尽くします。願望も込めて100%と言っておきます」


 為継はなかなかどんな事柄であろうとも“100%”とは言わない。100%の確証と言うのはそれだけ難しいのだ。逆を言うとそれだけ伊勢を救いたいのだろうと思うと胸が熱くなった。


「現地では輝成とも合流することになっています。3人で向かいましょう」


「なるほど、それは頼りになるな」


 そんなこんなで特攻局直轄の病院に到着した。建物そのものは平凡なつくりだが、警備のシステムが最新鋭になっており、警備員も多い。高い塀が脱走や外部侵入を阻止する形になっている。恐らくは中身もそういう構造になっているのだろう。


「虻輝様、為継。こんにちは」


 北条が門の前に立っていた。特に僕に向かっては深くお辞儀をしてきた。


「やぁ北条。何とかうまいこと、伊勢を解放してもらえたらいいな」


「ええ、景親には普通の生活に戻って欲しいです。出来ればあの頃のように皆で野球の練習をしたいです」


 北条は目を細めどこか遠くを見ている。恐らくはその見ている先の物ではなく過去への回顧だろう。その口ぶりから北条の切実な思いを感じた。2人のためにも何とかしてやらないとな……。


「科学技術局第二部門次長を務めます小早川です。本日は2日前にこちらの病院に入院した伊勢氏の面会に伺いました。この2人は虻利虻輝ホールディングス副社長と北条輝成警部補です。伊勢氏を確保した時に直接貢献してくれたので話せる内容もあると思います」


「ええ、お聞きしております。少々お待ちを」


 身分照合を行いすぐに入ることができた。


「なかなか厳重な警備だな」


 虻利ホールディングス社長室、会長室、地下倉庫などには及ばないが相当な人員が割かれている。


「直接、大王局長がこちらに来られて“実験“されることもあります。

 テロリストも多く収監されることもあって敵の奪還作戦の対象にもなりやすい密かにかなりの重要拠点でもあります。遠目では何気ない施設に見せかけるために普通の建物の外見ですが、それも外部から悟られにくくしているためです」


「なるほど、僕もここに特攻局直轄の病院があるなんて知らなかったからな」

 

 門の前の看板にも“虻利病院C別館“としか書かれていなかった。ただ、ここまで警備が厳重だと逆に何か怪しむ者も出るだろうけどな(笑)。

 

 中に入るとスラリとした背の高いスーツの女性が待っていた。受付の人か何かだろう。しかし、若い割にはやけにオーラがある。丁度数々の修羅場を潜り抜けてきた玲姉と同じような風格だ。


「あの済みません、本日は伊勢景親と言う者の特別審判があるということで参上した次第なのです。特攻局の担当の方はご存知でしょうか?」


 その女性は顔を少し傾けて僕に向かってニッコリと笑った。何か意味深な感じがしてゾッとした。


「お三方、お待ちしておりました。私が特攻局テロ対策関東統括本部長を務めます。建山朱美たてやま あけみと申します。本日はどうぞよろしくお願いします」


 えっ! と衝撃と驚きが口に出そうになった。僕が感じたオーラや彼女の直前の笑いはこういうことだったのか! 恐らく顔には驚きと赤面の両方が表情に出てしまっているだろう(笑)。


「し、失礼いたしました。受付の方かと思ってしまいまして……」


 この柔らかい物腰の人が今日会う有能な特攻局幹部だというのか!? てっきり、伊勢や北条のような山のように大きい大男が現れるかと思った……。それだけに柳のように細くしなやかそうな体型の女性だったのでかなり意外だった。しかも、テロ対策関東統括本部長といえば超重要ポストだ。


「改めまして、虻利ホールディングス副社長虻利虻輝です。どうぞよろしくお願いします」


 僕は失礼の無いように挨拶をしながら相互にコスモニューロンによる電子名刺交換を済ませる。そうしながらも直ちに特攻局のメンバーにアクセスする。一般人には特攻局に誰が所属しているか公開されていないが、僕のランクならばある一定の機密まではアクセスできるからな。


 僕は表面上の友好を暖めている間に建山さんの経歴を見ていた。何と年齢はまだ25歳! 18歳で特攻局に入局後、特にこの1年が目覚ましく、昇進がなんと3回! 

 捕縛したテロリストの人数が特攻局の中でも歴代過去最多の月1246人となっている。特に成果主義を掲げる特攻局として見ればこれほどの有能な人材はたちまち昇進していくのだろう。


「えっと……何か」


 そんな建山さんにナゼか見つめられている。先程の失態を追求しているような顔でもない。それとも僕の顔に何か付いているのだろうか……。

 僕の周りには玲姉や島村さんをはじめ美人が多いが建山さんの美貌は彼女達に引けを取らないと言える。そんな人に見つめられると正直言って照れる……。


「いえ、何も。では、時間よりは早いですが皆さんお揃いですので参りましょうか」


 無機質で同じような病室を次々と通過していく。そして、先導していた建山さんが“107号室“の前でぴたりと止まる。病室のネームプレートには名前が書いていないが、ここに伊勢がいることはここにいる誰もが悟った。場の緊張感が一気に増したのが分かった。

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