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第44話 失敗からの教訓

 僕たちは地下訓練場に移動した。今日一日色々なことがあったためかどうにも疲れがたまっていて気怠いので足取りが重い。

 しかし、皆が助けてくれた上に、拉致されて1人になった時に訓練をすると決意したはずだ。ここで、サボるというのは何ともおかしな話になる。


「皆、意欲的で素晴らしいわ~。では前回はちょっと基本的なところを飛ばしてしまったので、今日は基本的なところから始めます。呼吸、姿勢、気持ちの3要素が大事になります。まずは呼吸法の基本の座り方は胡坐にします」


「えっ……胡坐ってなんか行儀が悪いようなイメージだけど……」


「輝君、それはあなたが言うセリフではない気が……虻利によって施されたプロパガンダよ。というか第二次世界大戦後ずっとそうみたいね。実は体の“気“の状態を上げていくには一番望ましい格好なのよ。いわゆる”体育座り“なんかは最悪で腰を悪くするわ」


 なんだか自分が哀れに思えてきた……当たり前に思えてやっていたことが自分達がやっていたことに嵌められていたとは……。


「この姿勢は座禅で気を集中させる効果があるようにとても有効なのよ。輝君、ゲームを部屋でやるときはどんな格好にしている?」


「ベッドに寝転がるか、せいぜい椅子に座るかだけど……」


「これからはなるべく胡坐で行いなさい。できるだけ背筋を伸ばして行うこと。過激なことはしないから、日々の小さな積み重ねが大事になっていくの。いいわね?」


「はい」


 有無を言わせない圧力があるが、体の構造に関しては玲姉の方が遥かに分かっている。そう答えるしかないだろう……。


「では、胡坐のポーズから手を合わせます。この時に、目を閉じると体の中の熱が力が手に集まってくる感覚があるのが分からない?」


 とりあえず、言われたとおりにやるしかない。試しに、普段椅子に座っているのに使っている薄いクッションを床に敷いて胡坐をかいてみたが、結構背筋を伸ばすのが難しい。どうしても猫背になってしまう。


「そういう時はこれを使うと良いわね」


 玲姉は僕が苦戦しているのを見てか、何か透明な定規のような物を取り出して僕の背骨のあたりに入れた。


「ちょっ! くすぐったい!」


 なんかヒンヤリしていて、くすぐられているような感覚がある。


「これは“背骨強制君”私が開発したものよ」

 た、確かに名前の通りに背筋が良くなる感じはある。それも定規のように痛くない。小学生ぐらいだったか、昔の定規を背中に入れ合う謎の遊びをやったことがあるが背中が滅茶苦茶痛かった(笑)。


「ほぉ、確かに自然に背筋が良くなる感じがあるな。何を使ってるからこうなるんだ?」


「シリコンとゴムをうまい具合に理想的な背骨の形に仕上げてあるの。“背筋をまっすぐ“とはいっても本当にまっすぐが理想ではなく波を打つような曲線状態なの。それを体格に合わせて作っているのよ。輝君が今使っているのは165センチから170センチ用ね」


 無理に強制されている感じも無く理想的な物だ。周りをよく見てみると、玲姉も含む他4人は姿勢が凄く良い……。


「ふぅむ、確かに体の血流がどんな感じに流れているのが分かるし、思考がクリアになっていく感じがあるな」


「でしょう? 姿勢も良くなったことだし次のステップに行くわね。次は呼吸法よ。簡単に言うなら吐くときに思いっきり力を籠める感じね。そのタイミングで攻撃をするの」


 僕は空気を吸って思い切って吐いた。


「ゲホッ、ゲホッ! し、死ぬ!」


 何回か繰り返していたら呼吸がキツクなった……。


「輝君は吸う時が悪いわね。酸素がうまく取り込めていないのよ。はくのは上手そうだけども」


「どうしたらいいんだ?」


「まずは輝君、鼻詰まりがあるわね?」


「そうだね」


 だからほとんど口呼吸で飲み物を日々飲みまくっている。外ではコンビニを見つけては水をまとめて買っている状態だ。


「吸うときは鼻で吸って口ではくのよ。口でやり続けるから過呼吸に近い状態になるわけね。口呼吸を辞めて鼻呼吸をすることが大事ね」


「へぇ……しかしどうしたら口呼吸を解消できるんだ?」


「鼻詰まりを解消するには、鼻うがいをお勧めするわ」


「何それ初めて聞いた……」


「ここの上咽頭は“鼻の上の臓器“とも呼ばれるほど重要な部位で、ここを洗浄することで鼻詰まりを解決するだけでなく、自律神経を整える効果もあるわ」


 玲姉は僕の鼻の付け根辺りを触りながらそんなことを言った。全く話とは異なるが指がとても綺麗だ……。


「へぇ~、そうなんだ。こんなところをどうやって洗浄するの? 何かノズルでも入れるわけ?」


「そんな大掛かりな物は入れないわ。ちょっと洗面所に行きましょう。皆は引き続き呼吸法を行うこと!」


「はいっ!」


 皆はスムーズに呼吸できているようだ。何だか僕だけが取り残されている気がする……少しでも皆に追いつかないと。


「はい、これを使って上咽頭に向かって水を噴射してみて」


 玲姉は20センチぐらいのボトルを僕に渡す。正直言って鼻の中にティッシュ以外の物を敢えて入れたことなんてない。


「ちょ……ノズルではないにしろこんな物入れたことないんだけど……大体水を鼻の中に噴射したら痛くないの?」


「そうね……上咽頭に何か異常があるのならば出血などもあるかもしれないわね。でも輝君はそんなに自律神経に異常があるとは思わないから大丈夫だと思うわ」


 玲姉は静かに僕に無言の圧力を押しかけてくる。この間のようにイジメに近いような感じは受けない。本気で僕のことを1ステップずつ上げていこうとしている。何とか踏み出さないと。


「やってみるか――ぐぶっ! ゲホッ!」


 左の鼻から入れて右の鼻から水が出てきた……その感覚はさながらプールで“溺れた“時のような気分だ……。


「何か、プールか海で溺れたような気分になったんだけど……」


「最初はそういう感じかもしれないわね。でもそれは上手くいっている証拠よ。あとは噴射した時に体を動かすと逆に苦しくなるから動かないほうが良いわよ」


「なるほど……」


 右鼻からポンプを入れた。今度は玲姉に言われた通り鼻の中に入れてから体を動かさなかった。先程のように“溺れた“感じではあったが鼻の通りはかなり良くなったような気がした。


「ふぅ……思ったよりも全然大丈夫だ」


「知らない世界と言うのは踏み出す1歩が一番大変なのよね。特に輝君は毎日同じようなことをしているし……」


「うっ……ちなみにこんな感じで大丈夫なの?」


「初めてにしてはかなり上手ね。それを左右2回ずつでいいわ。やってみて」


「はい……」


 両方の鼻に2回ずつやり計4回全てでプールの中に“溺れた”ような感覚になった。しかし、何か鼻がすっきりしたような感覚がある。


「いやぁ、思った以上に爽快感が凄いな。こんなに爽快な鼻の気分も珍しいね」


「これを通常のうがいの後にやると良いわ。とにかく習慣化することが大事ね。この補助具は輝君専用のとして使っていいから。帰宅の時に必ずやること。また鼻詰まりを感じたらやってもらって構わないわ。これで口呼吸でなく鼻呼吸がスムーズにできるようになるはずよ」


「はぁーい」


 折角こんなに優しく教えてくれているんだし、素直に言うことを聞くことにした。

 リビングに戻ると皆は胡坐をかき、さっきの呼吸を続けている。


「なるほど、確かに座禅を組んでいるみたいだね?


率直に印象を玲姉に告げた。


「そうね。さっきも言ったけど、基本姿勢は変わらないし、精神を一点に集中させるという意味ではそれに近いものがあるからね。では鼻で吸って口ではくことをやってみましょう」


 しかし、しばらくやってみたが先ほどではないものの呼吸が苦しい……。“静かな呼吸”にならない。


「鼻から吸って口からはくことはできているから、次にお腹と胸に着目してみましょうね。お臍のすぐ下の丹田、そして肺の周りにある横隔膜を意識するの。これを同時に動かすことをイメージしてみて?」


 玲姉がまた僕の体を触って指し示す。玲姉に触れてもらうと嬉しさもあるけど、なんだか介護されているおじいちゃんの気分になってきた……。


「すぅ~ふぅ~」


 なるほど確かにこれで過呼吸のような状態にも空気を吐き過ぎという状態にもならなくなった。


「いいわね。元々、声は大きいんだから肺の機能そのものには問題は無いんだからね」

 ちなみに僕は“秘密の話が直接できない”と言われるほど声が響くタイプである。僕としてはそんなに大声を出しているつもりは無いのだが……。


「なるほど、背筋を伸ばすことからとりあえず日々改善してみるよ」


「そうね。日常の小さな積み重ねが大きな結果になっていくわ。ところで、さっきはいきなりすぎたわ。私も少し焦り過ぎてステップを踏まなさ過ぎたから……ごめんなさいね」


 玲姉が目を潤ませ、自分の服の裾をギュッと握りながら僕に訴えかけてくる。そんな目をされたら僕は困ってしまう……。


「いや、玲姉は僕のことを考えてくれている。それを対話をせずに逃げ出してしまった僕にも問題はあったよ」


 玲姉から目を背けた。あんまり今の玲姉を直視するとおかしな気分になってしまう……。


「明日からは特訓はするけれども、1日1時間とか決めてやりましょう。あまり無理をして体を壊してもいけないわ。もちろん、反復横跳びを中心には行うけどね」


「そこは変えないんだ……」


 僕は苦笑した。どれだけ反復横跳び好きなんだよホントに……。


「メニューについても多少は見直すわね。反復横跳び50%、うさぎ跳び50%にする?」


「2択なの!?」


 最近、反復横跳びのインパクトが強すぎたけど、同じぐらいうさぎ跳びも好きだった……。


「それは冗談として、少し今日の呼吸法を活かした特訓にすることにするわね」


 玲姉は冗談なのかどうかイマイチ分かりにくい……ガチで言っている時でも本気でも同じような表情をしているからな……。怒ってる時の笑顔とかは見極められるけどね。


「ほっ……」


 心の底から胸をなでおろす。訓練をあまりしたくないのは相変わらずだけど、反復横跳びをしながら島村さんに狙撃されるという“地上の地獄“を味わなくていいだけで随分マシだろう……。


「あら、もう22時じゃない。今日はみんなゆっくり休んでね」


 こうして、解散の流れになろうとしている。


「皆、今日は本当にありがとう。助けに来てくれなかったら今日が僕の命日になってた」


「そうそう! お兄ちゃんは弱いんだから、当面の間はあたし達に守られておけばいいんだよっ!」


「ぐっ……そうすることにするよ」


 世の中体格が全てではないが、こんな小さいまどかに守られるだなんて言われると大変癪だがな……。


「ではお休みなさい。明日も朝から水やりしないとなぁ」


 烏丸は独り言を言いながら帰っていき。みんなそれぞれ思い思いに帰っていった。

僕も流石に疲れた。今日は流石に朝が早く体が限界だ……とてもeスポーツをしていられる体力は今日は残っていない……風呂に入ってサッサと寝よう。

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