第42話 窮地からの救出
突然、頭を思いっきり強い衝撃が襲う! 地面に叩きつけられたかと思うと、一気に頭が覚醒した。
「ぐっ!」
視界がグラグラする……いったい何がどうなったっていうんだ……。
「アニキ、大事な人質をそんなに乱暴に扱ったらいけませんぜ。なんてったって100億の身代金を要求したんですから」
5人の大男たちに僕は囲まれていた。そのうち1人は携帯電話からどこかへと話をしている。僕は手錠をはめられ足はロープで括りつけられていて全く動けない。
「おい、お前、電話口に出ろ。貴様の父さんと喋れるぞ。余計なことを言ったら殺すからな」
そうか、僕は“何か危ない取引“をする直前を目撃しているのを見つかって、逃げ切れずに捕まり、その後は拉致されてどこかにか運ばれたんだ。僕は手錠で手が使えないので強引に携帯電話が押し付けられる。
「父上、僕です。今のところは無事です」
「おお、虻輝か。全く……心配をかけさせて……」
父上の声は泣いて擦れているようにも聞こえる。本当に心配をかけさせてしまった。
「申し訳ありません。帰ったらお詫びします」
「ふんっ。もういいだろう」
そう言って携帯電話を僕から奪い取っていった。
「お前たちは何者だ。こんなことをしてタダで済むと思うなよ」
僕がそう言うとテロリストたちはゲラゲラと笑い出した。
「ハハハ! お前こそ立場が分かっていないらしい! お前、本当に生きて帰れると思っているのか!?」
「ま、まさか……!」
僕は一気に血の気が引いていくのを感じた。視界も一気に暗くなったように感じる。
「そうだよ! 既に俺たちの顔を分かっているお前を生かしておくわけねぇだろ! 身代金を頂いたらとっとと殺しちまうんだよ!」
「いやいや、アニキ。そんな暢気な事を言ってないで今すぐ殺しちまえば良いんですよ。アニキも律儀ですね!」
「そうだな! 今始末してしまった方が確実だな!」
“アニキ“と呼ばれた男が僕に対して銃を向ける。コイツの眼はマジで何人もこうして殺してきたというような感じだ。脂汗が体中から出てきた。
僕の脳裏には玲姉、まどか、島村さんの顔が頭に浮かんだ。どうして僕は今、彼女達3人と一緒にいないのだろう。あの時、あのまま逃げずに厳しい特訓を受けていれば……。
彼女達は何も僕をイジメようと思っていたわけでは無い。僕のことを心から心配して特訓しようと言ってくれたのだから……。本当に情けない。玲姉が懸念していたようにこんな風に自分一人になった途端にこの有様だよ。間違っていたのはやはり僕だったのだ。
「そうだ、折角だから何か面白いことを言ったらちょっとは延命させてやるよ! 何か命乞いをしろよ!」
どんな人間でもいつか死ぬだろう。しかし僕は、1人であえなく命を落としてしまうのだ。せめて大切な人たちを周りに見守られながら話をして、ゆっくりと死んでいきたかった……。
「僕は無様に死ぬつもりはない。せめて誇りだけは失いたくないからな。ただでさえ、情けない状況なのにこれ以上情けない形で死んでたまるかよ!」
僕の素直な気持ちだった。別に知り合いの誰に見られているわけでは無いが、最期ぐらいは惨めに終わりたくなかった。もう一度やり直せる機会があるのなら……皆で一緒に訓練を受けよう。ただその願いは届かない可能性の方が遥かに高そうだけれども。
「ほぉ、そうかい! なら今死ね!」
引き金に手をやったまさにその時だった!
ドーンッ! という豪快な音と共に部屋の壁一面が崩れ去った!
「な、なにぃ!」
テロリストたちは呆気にとられている。僕も呆気に取られているけど……。
「ふぅ、何とか間に合ったようね。揺れはしなかったけど、“自動車に乗っている“という不快感を耐えてきただけのことはあったみたいね」
「そ、その声は!」
まだ、壁が崩れた時の砂ぼこりでよく様子は見えないが、まさしく絶妙なタイミングでいつも助けに来てくれる僕の最強お姉ちゃん。玲姉の声である!
「く、くそぅ! やっちまえ!」
男たち3人が崩れた壁の方に向かって突撃していく。
「ていやっ!」
「ぐはっ!」
次々と白煙に突撃していっては投げ飛ばされていく。掛け声からしてどうやらまどかのようだった。
「う、動くな。それ以上動けば。こ、コイツだけでも殺してやる!」
“アニキ“が銃を僕に突きつける。歯をガタガタ言わせるほど恐怖に襲われているようだったが辛うじて銃だけは持っている。
「はっ!」
電撃の弓が銃を吹き飛ばしていく。この弓はどう見ても島村さんだろう。
「な、なんだコイツら……」
“アニキ“も地べたに座り込んだ。戦っていなかった1人は既に気を失っており、もう既に誰も戦意が残されている様子は無かった。
「輝君っ!」
玲姉が僕に抱きついてくる。柔らかくて暖かい……。
「そ、その逃げたりしてゴメン……」
僕はさっきから言いたかったことを玲姉に言った。
「いいのよ。でも、最後に“命乞いをしろ“と言われた時に誇りは捨てられないって言って拒んだのはちょっとだけカッコよかったわ」
「そ、そうかなぁ……照れるなぁ~」
「そもそも、あなたが不甲斐ないせいで私たちが来ることになったのを忘れないで下さいね」
相変わらず発言が滅茶苦茶辛辣だが、島村さんも来てくれている。
「あ、島村さんも来てくれたみたいなんだね。ありがとう」
「玲子さんが本当に心配されていましたからね。これを機にちゃんと玲子さんの言うことを聞くことですね」
「は……はい」
相変わらず手厳しいものはあるが、島村さんもこうして来てくれたんだから多少は心配してくれた……と少なくとも勝手に思うことにしよう。
「あら? 少し怪我しているみたいね。まずはちょっと、手を貸して?」
手錠にフンッと玲姉が力を入れるとあっという間に手錠が壊れた。僕の手に衝撃がほとんどないのもまた凄い。足を縛っていた縄もあっという間に解いて見せた。そして玲姉が“気“を送ってくるのが分かる。さっき殴られた後頭部の痛みが引いていった。
「後頭部を中心に少し腫れていたわ」
「玲姉、みんな。ありがとう。あと少しで今日も本当に死ぬところだったよ……」
つい昨日も影に襲われて玲姉に助けられたばかりだったのを今思い出した。あまりにも今日色々なことが起きたので昨日起きたことなんてすでに遥か昔のように感じられた。
「お義父さんに言っておいたから。輝君が全国どこでも逃亡したらすぐにでも通報してもらうようにって」
「ひぃぃぃぃぃぃぃ! もうオシマイダ、ジンセイオワッタ……」
僕はオーバーに崩れ落ちた。所詮は虻利の傘の下にいる存在、全てを父上の一存で差し押さえられたら一巻の終わりという脆弱な存在に過ぎないのは間違いない。
「――でも少し考え直すことにしたわ。いくら何でもやり過ぎたと思うわ。正直逃げているのを追っているだけだとあまり生産性がないもの……輝君、御免なさい。やり方を改めることにするわ」
「えっ……」
意外だった。正直なところどんな風に鍛えられるのか覚悟していたところだったから……。
「継続性が大事なのよ。こんなに、過激にやっても長続きしなかったら意味がないからね。今の輝君のレベルにあった特訓方法から始めていくことにするわ」
「そうなんだ……実は、今さっきの反応はオーバーリアクションで僕からも言いたいことがあるんだ。
僕も少しは強くならなくてはいけないと思った。やっぱり、こんな風に女の子たちに助けられてばかりじゃ流石に情けないからね(笑)。だから、よろしくお願いします」
僕は素直に頭を下げた。
「そうだよお兄ちゃん! せめてあたしぐらい強くなってもらわないと!」
「そうね。昨日と今日の出来事でそう思ってくれたならそれに越したことは無いわね。人間誰でも過ちはあると思うわ。でも、それに気づいて修正していくことが大事だと思うのよ。最初から完璧な人間なんていないのだからね」
玲姉ほどの知性があり、力を持つ人間がそういうのならば尚更説得力がある。
「ところで、この伸びている人たちについてはどうしましょうか?」
島村さんが言った。確かにコイツらどうなるんだろう……。
「警察に通報してあるからあとは任せましょう。多分、マフィアか何かね。近年、日本でも医療用の薬物など多くが合法化されているから密売がしやすくなっているんだと思うわね」
「ああ、身代金を要求するようだったからテロリストか何かだと思ってたよ」
「私の仲間ですと、身代金を要求しようとはしませんよ。虻利家はどうせ要求には応じないでしょうし、あなたのようなビックネームですとすぐに殺してしまおうと思うでしょうね」
「そ、そうなんだ……」
僕の顔が引きつっているのが分かる。島村さんが言うとかなり信憑性がある……。
「なんか安心したら、お腹減っちゃったよ。もう帰ろうよぉ」
「そうね、帰りましょう。ここまで美甘さんが運転してきてくれたんだから。外で待ちくたびれているかもしれないわ」
なるほど、随分と早い到着だと思ったら美甘に連れてきてもらったんだな……。
皆にはイジラれながら車に向かったが、その時間がとても愛おしく感じた。
この日常があと少しで二度とやってこない可能性があったのだから……。




