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第41話 危機の察知

虻輝が捕まっていた頃、虻利邸リビングでは……。


「はぁ……輝君には本当に呆れるわ……輝君の思考を読み切れないだなんてよっぽど私も疲れていたんだわ。私としてもまた休めたのは良かったことではあるけれどもね。逃げる実行力だけは一流なんだからそこがまた困るわね」


 玲子さんはソファーに座りながらガックリと肩を落とし大きく溜息をつきました。表情には疲労と失望、悲しみと色々な感情が渦巻いているのが分かります。


 あの人のために玲子さんはさっきまで食事を笑顔で作っていたのに気が付けば居なくなっていたのですからショックも大きかったのでしょう。


「あの……あの人も一応はそれなりにはやっていたように思えます。ただ、分相応というものがありますから実力に見合った過程を踏んでいく必要があったのではないでしょうか」


 玲子さんにしては珍しく焦っている印象を受けました。あの人の動きはどう見ても一般人のレベルより下に思えます。

そんな実力なのにいきなりあのレベルを押し付けられたら誰だって嫌になると思います。もっとも、私には玲子さんの考えの全貌が壮大な気がするので、理解が及ばないところもあるとは思うのですが……。


「あたしだって、最初は地道な走り込みとかからやったなぁ」


 まどかちゃんより遥かに体力無さそうですからねあの人は。


「……そうね。少し焦りすぎたかもしれないわ。でも、もう海外に行ってしまったのかもしれないわね……」


 玲子さんの頬に涙が一筋流れていきました。励ます言葉も浮かびません。

 本来ならばやる気のない人にやらせても意味がないじゃないですかとか、他の人でいいじゃないですかとか言いたくなる場面のような気がします。しかし、玲子さんにとっての“あの人”の占める比重の割合というのは特段重いもののように感じます。とても大切な存在なのでしょう……。


「あの人は、小早川さんに結構頼っている感じがあります。今回の脱出劇に関しても関わっている可能性があるのではないでしょうか?」


 私は提案しました。しかし、ここの3人が全員小早川さんとの連絡手段を持っていないことです……何と言っても誰もコスモニューロンを導入していないですからね。


「あ、僕が小早川さんと連絡とりましょうか? 連絡先は虻輝様から以前教えて頂いたことがありましてね」


 この烏丸君という子はいつも私が気配を気づけないぐらい自然な形で現れています……。これは暗殺者に向いているのではないでしょうか? という風に思ってしまうのは私の悪い癖なのかもしれません……。


「ええ、お願いするわ」


 烏丸君は数分後虚空を見つつ、頷いています。私達にはよくわかりませんがこれが一般的なコスモニューロンでの会話方法なのでしょうね。


「あー、やっぱり海外に逃亡を図ろうとしていたみたいです。

今は飛行機を待っているところで、一人で待っているということです。

ただ、今からだとどんなに速度を上げてもまずその飛行機の出発時刻に間に合いそうにないですね。あと40分ぐらいですからねぇ」


 1回目の逃亡を阻止した時から玲子さんは予測をされていましたが実際に海外に行かれることが確定すると何とも言えない雰囲気になりました……。


「どうしたらお兄ちゃんが戻ってくれると思うか聞いてくんない?」


 まどかちゃんがとても不機嫌そうですが悲しそうな表情で言います。まどかちゃんも玲子さんと同じぐらいあの人と離れたくないのでしょう……。


「ええーと、ちょっと待ってください」


 また先ほどのように虚空を見つめながら今度は3分ほど経過しました。


「これは小早川さんの推測ですがね。虻輝様も食べ物が口に合わないこともあり、決して海外の生活が好きではないようです。ですから、特訓が過酷でなければ戻ってくるとは思いますけどねぇ。別に玲子さんたちが嫌いになったとは思いませんし」


 玲子さんは料理も凄く上手いですから普通の神経の人間ならば他人の料理なんて食べることが出来なくなりますよね。もっとも、あの人は良く分からない感覚の持ち主ですから、コンビニ弁当で済ませてしまうことも多いようですが……。


「そうね……ホント、さっきから私は反省しきりだわ……。これで状況が分かったわね。烏丸君、輝君に直接繋いでくれることはできないかしら?」


 あの玲子さんがこんなにうなだれているだなんて……。


「ええ、いいですよ。ん? ん? ん? どうしたんですかねぇ。繋がらないです。小早川さんからの情報だとまだ何分か離陸まであると思ったんですけど」


「あたしは、コスモニューロンってやつを導入して無いから良くわかんないんだけど、連絡が入れられないとかってあるの?」


「日本の通信網ですと、届かない場所なんて無いですね。

ただ、受信者側から切るということはありますね。連絡の通知音で眠れなくなるとかあるんで(笑)。

 だから飛行機に乗ったら寝るために切ったのかなとか思ったりもしました。

 ちなみに、昔は携帯電話などを飛行機の離陸の際に切らなくては機器に影響があるとのことでしたが、今はコスモニューロンの大量の電波があっても機器に影響はないそうなので普通に通信はされますね」


 玲子さんが頭を上げて背筋がピンと伸びました。何かハッとした表情をしているので何か思うところがあるのでしょう。


「そもそも輝君は離陸の際には寝ることは無いわね。

離陸の際の耳鳴り――輝君の言葉を借りるなら耳がキーンとする“ミミキン“が起きるから眠れないって言っていたからね」


「そうだよね。お兄ちゃんのそういうのはなかなか変わらないよね。ちなみにあたしも“ミミキン”によくなってたなぁ。そうなるとヘンだよね」

 

流石は昔から知っている2人しか知らない情報です。しかし、なんだか不穏な空気になってきました……。


「ということは、何かしらハプニングが起きているということでしょうか?」


「こんなことはあまり考えたくは無いし、杞憂であって欲しいけど今の場所次第では、その可能性が出てきたわね。烏丸君、どうにかして今の輝君の位置が分からないかしら?」


 玲子さんの表情が一気に引き締まりました。確かにただ事ではない可能性はあると私も思います。確かに、位置が飛行機の付近に居れば問題は無いはずです。


「えっと、実は小早川さんに今の可能性についてリアルタイムで伝えているところでした。直ちに聞いてみますね。――あ、衛生管理システムにアクセスしてGPS機能で虻輝様のコスモニューロン現在地分かるようですよ。ちょっと待ってくださいね」


 一気にこのリビングの緊張感が高まります。


「――! 今上州道をハイスピードで動いて南下しているみたいです! これは明らかに異常です! 拉致か何かされたのかもしれません」


 その言葉を聞くとすかさず、玲子さんとまどかちゃんが立ち上がりました。私もわずかに遅れて立ち上がり皆で玄関に向かいました。


「烏丸君も来て頂戴、あなたがいないとコスモニューロンでのやり取りができないから」


「あ、僕は車の免許持っていないんで美甘さんを呼んでいます。あんまり現地に行ってお役に立てる気がしないんで、僕はここにもしも何かあるといけないんで残りますよ。夕ご飯を皆で食べられるように腕を振るってお待ちしておりますね」


「そうね。その方がいいかもしれないわ。私も車は好きではないけど、今は時間も無いし仕方ないわね。飛行自動車は揺れも少ないし我慢するわ」


「むしろ、普段自力で移動されてもかなり早いことに驚きなのですが……」


 しかも、玲子さんの脚にはバネが入ったシューズなどで強化されているわけでも無く純粋な脚力で移動されているのですから本当にとんでもないことです……。


「あ、もう来たみたいだよっ! 皆、乗ろう!」


「お乗りください! 虻輝様が大変みたいですねっ!」


 美甘さんが思ったよりも直ぐに来てくれました。美甘さんは基本あの人の言いなりみたいですけど、かなりいい人なので信頼できます。


「皆さん! いってらっしゃい! 無事を祈っています」


 私達は烏丸君の声を背にすぐさまGPSによって指示された場所に向かうことにしました。私はあの人がどうなろうと構いませんが、玲子さん達が悲しむのでなるべく無事でいて欲しいです。

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