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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第2章 悪夢の共闘

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第38話 過酷すぎる訓練

 まどかが倒れている僕をツンツンと付いてきた。


「何だよ……」


「次は正拳突きをやるよ! あたし一番得意なんだ!」


「え~。もういい加減疲れたよ……」


「ダメだよっ! 疲れている時にやるからこそ効果があるんだってお姉ちゃんが言ってたよっ!」


 強引に手を引っ張って起こされた。あぁ、本当に倒れる時も近いかもしれん……。


「ところで、正拳突きとは言うが、筋トレとかはやらなくていいの?」


「マッチョになりたいのならそれでいいけど、実際は筋肉はあんまり意味がないって言ってたよ。スタミナと瞬発力が大事だって」


「ほぉ……」


 僕もとりあえずパンチをその場で何回かやってみる……腕の前後運動のストレッチにすらなっていない気がする。これが何かプラスになるとは思えない。


「お兄ちゃんのやり方だと無駄にカロリーを消化するだけで何にもならないよ。筋トレでもしていたほうがマシだね」


「そこまで言うのなら、やって見せてくれ」


「なら行くよ。ハッ! ハッ! ハッ!」


 一発ごとに衝撃がこちらに伝わってくる……。目の前に立っていたら風圧も感じることだろう。

これまで、僕を爆笑していた小さい女の子とは思えないほどの気迫とパワーに満ち溢れている。


「へ、へぇ……大したものだな」


僕も見様見真似でやってみるが先ほどと何も変わらない……な、なぜ同じように拳を突き出しているというのにこうも違うのだ……。


「ちゃんと腹筋に力を入れないと! しっかり声を出すことで拳に力も入るよ!」


「はっ! はっ! はっ!」


 島村さんもやり始めてまどかほどではないにしろ中々の気迫を感じる……。


「えー何だか恥ずかしいんだけど、声を出してやるだなんてさぁ」


「あたし達しかいないんだし、そんなこと言わないの! さぁ! やるっ!」


「くっ、まどかごときが生意気な……はあっ! はあっ!」


 ふぅむ、確かに先ほどまでみたいに生産性のない正拳突きに比べてれば格段に良くなったような? 感じはする。


「輝君も何だか間抜けさはあるけど、幾分良いみたいじゃない~」


 玲姉が気が付けばこの訓練場に現れていた。相変わらず気配を感じさせず現れる。


「お姉ちゃんっ! もう大丈夫なんだっ!」


 まどかが子猫みたいに玲姉に飛びついて撫でられている。本当に何度見てもほっこりする絵になる図だ。


「うん、少し寝てお風呂にはいったら大分気分は良くなったわ。そもそも私は体力回復が早い方だしね。それより問題は夜しっかり寝ないと美容に良くないことよ。誰かさんのせいでね~」


 確かにすっかり顔色も良くなった印象だ。そして、玲姉の健康や美容への気の使い方は尋常ではないからな……かと言って余計な化粧はしていないし本当に凄い。

お風呂から上がって来たばかりなのだろう。ほんわかとした湯気が色気をさらに増しているようにも思える……。


「うっ……申し訳ありませんでした」


「言葉で言うのは簡単ね。行動で示して欲しいところだわ」


「どうすればよろしいのでしょうか?」


「そうね……反復横跳びをしながら知美ちゃんの射撃を交わしてもらおうかしら」


 ……なんてことを笑顔で言ってくれるんだ。


「玲姉、反復横跳び好きすぎるだろ! 殺す気か! 大体反復横跳びをやりまくったところでどうなるんだよ!?」


「基礎的な体力を強化できると共に、やっぱり相手の攻撃をかわすために一番必要なことができるのが反復横跳びよ。この素晴らしさが分からないのかしら――」


 あ、やってしまった……玲姉の過激なスーパー反復横跳び講座をその後10分ばかり聞かされる。僕は黙って聞いているしかない。


「分かりました。反復横跳びやりますから勘弁してください……」


 あまりにも無限に聞かされそうになっている様相を呈してきたので僕は降伏した。


「ですが玲子さん。私は足の状態が完全では無いので電撃の弓を連発できる状態では無いです」


「そうね。倉庫にはボーガンもあるからそれを連射してもらえないかしら?」


「それなら大丈夫です! 倉庫ですね!?」


「し、島村さん!?」


 島村さんはスキップして訓練場の隅にある倉庫に向かった。コイツらガチで殺しに来てやがる……。


「そうねぇ、流石にそれでは可哀想だからランダムで乱射して頂戴。ただし、足は狙ってはダメよ。腰より上にしなさい」


「分かりました。しかし、残念です……日頃のストレスから解放されると思ったんですけど」


 玲姉が指示したボーガンの矢は小さな吸盤が付いており当たってもそんなに痛く無さそうで良かった。僕はホッとしたが島村さんはとても残念そうだった。


「ちょっとそこっ! 残念がらないっ! 僕は島村さんに最大限配慮しているつもりなんですが!?」


「あ、そうなんですね」


 島村さんは相変わらず目線も合わせてくれないし本当に素っ気ない。


「では、早速やってね」


「ま、待ってくれ! 玲姉がまず手本を見せてくれ!」


 玲姉は一瞬考えるそぶりを見せた。


「……いいわ。知美ちゃん、私に対してはコロスつもりできなさい。ちゃんとした矢でお願い」


「えっ……」


「それぐらい緊迫感が無いとつまらないもの」


「わ、分かりました」


 島村さんがボーガンを構え玲姉が低姿勢で待つ。玲姉は正気では無いのではないか? と思えてしまうがあの自信のある表情をみると大丈夫だという確信があるのだろう。


「あたしが20秒と回数測りまーす! よーい! ドン!」


 島村さんがまどかの掛け声と共に放つ。


「はっ! はっ! はっ!」


 玲姉は掛け声を出しながら的確に避けていく、そして下半身は淀みない軽快なステップを踏んでドンドン回数を稼いでいっている……あれがさっきまで僕がやっていたのと同じ競技――いや、より過酷になっている競技なのか!?


「やめっ!」


 まどかがそう言った時だった。島村さんの手元が狂い、玲姉の足元に行ってしまった! 玲姉は動きを止めた時だったので直撃してしまう!


「あらっ!」


 玲姉は右踵に重心を置いてから体全体を捻り交わした。


「す、すみませんっ!」


 島村さんが角度90度で謝っている。


「いいのよ。私相手でも本気でやってくれて嬉しかったわ」


「はい、指示通りにやってこそですからね」


「輝君、良いわね? このように最後まで気を抜いてはいけないということね」


 終わったと言われた瞬間が一番油断をする。その中でこれまでで一番難しい足元の当たりを華麗に交わしたのだ。


「お姉ちゃん凄い! 87回!」


 僕の約5倍である。弓を交わしながらでこの数字なのだから、普通に反復横跳びをやったら三桁に到達するのではないか?


「輝君、私がやって見せたんだからやってくれるわよね?」


「は、はい……」


 天使の微笑みは時に恐怖を与える。それがこの瞬間だろう……。


「はい、スタンバイして! 知美ちゃんは、ちゃんと吸盤の弓でやってね」


「分かりました」


 目標は20回だなとりあえずは。今回はちゃんとラインを踏むことを心掛けよう。


「よーい! どん!」


 まどかが元気な掛け声をかける。


 3つ目のラインを踏んだ時だった。スポッと、顔に当たる。アッと思った瞬間、更に腰に2発続けざまに当たる。そんなに痛くは無いのだがバランスを取れず僕は倒れた。


「知美ちゃんやめて! 記録3回!」


 皆が寄ってくる。それぞれの整った顔が覗き込んでくる。


「軽く放ったつもりだったんですけど、まさか1発で倒れてしまうだなんて……」


「これは少し早すぎたんじゃないの?」


「まずはまともに、反復横跳びをまともな回数できるようになってからかもしれないわね」


 三者三様のコメントが述べられた。いずれにせよ、とても馬鹿にされたような気分にもなるが実力がないのは仕方のない事実ではある……。


「もう、体力的にも限界なんだが……もうすぐ正午だし休まないか」


「仕方ないわね~。休憩にしましょう。烏丸君に昼食を頼んだからそろそろ休憩にしようとは思っていたけどね」


 玲姉はあっさり受け容れた。そういえば、烏丸はまたしても気が付かないうちに消えている……。

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