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第37話 最低レベルの体力

 都内の別邸から走り出して4時間後……。


「ぜぇ……ぜぇ……。や、やっと着いた……」


 家にようやく辿り着く。コスモニューロンで歩いた距離を測定すると25.3キロ。やっぱりそれぐらい歩いたんだ。長すぎるだろマジで死んだ……。足がボロボロで靴の裏が痛い……。


「まったく……休みながらとはいえ時速6キロちょっとよ。これじゃぁ、歩いているのとさほど変わらないじゃない。

あまりにも遅すぎるから私はうさぎ跳びで移動していたわ」


 ちなみに歩く速度の時速も5か6キロと言われている……そうなると玲姉の言っていることは正論ではあるが、そもそも1日で20キロ歩いたことがない。

同じ移動速度でうさぎ跳びで移動していて平気な顔をしている玲姉は次元が違い過ぎる……。


「兼ねてから言っているけど僕はインドア派なんだよ……歩いている速度で25キロ移動てきたなら合格だろ。運動が得意な玲姉とは違うんだよ」


「私は人よりは基礎体力はあるとは思うけどね。それにしても輝君はあまりにも基礎体力が無さすぎるわね」


「玲姉、やっぱり人には向き不向きがあるって。僕は家でゆっくりするのが性に合ってるんだって」


「確か虻利虻輝著『爆速でブチ上げろ』にはこう書いてあったんじゃないかしら? 『目標のために最短ルートで突き進む』って、たった時速6キロでヘバっている人が『爆速で最短ルートで突き進んでいる人』なのかしらねぇ~」


「ぐっ……そんな古い本を……! それは僕にとってゲームに限った話だよ。体力づくりをする必要なんてなかったからだ」


 ちなみに『爆速でブチ上げろ』は僕が最初にeスポーツ世界大会で優勝した13歳の時にノリでインタビューでしゃべって他人が書き留めたものを出版したものである――つまり黒歴史に近い(笑)。

 当時は最年少での世界王者だったのでとんでもない内容でも意外と売れて月間ベストセラーぐらいになったのは覚えている(笑)。


「お兄ちゃん情けないなぁ~」


「やっと帰って来たんですね」


 ヘリポートと港から恐らくは公共交通機関を利用して悠々と帰還してきたであろうと2人が涼しい顔をして立っている。


「2人ともわざわざ遠くまでご苦労様」


「いえいえ、玲子さんなんてうさぎ跳びで帰ってこられたんですから……」


「フフッ、私は輝君があまりにも情けなさすぎて遅かったものだから時間を有効活用したのよ。かと言って私が見ていないと逃げちゃうからねぇ~」


 チラリと僕の方を見る。だってやりたくないんだから逃げたくなっても仕方ないだろ。と無言の抗議を行うが玲姉は笑顔でニコリと返すだけだ。僕が何が言いたいのか分かってるくせに……。


「それにしても、流石に昨日から色々あり過ぎて疲れたわ。ちょっとお風呂に入ってご飯を食べてくるから、後は任せたわね。まずは基礎体力作りからさせて頂戴」


「分かったよ!」


 そういや、僕は道中コンビニでおにぎりを調達したが、玲姉に関しては水を買っていただけで何も食べていなかった。まぁ、コンビニの弁当やおにぎりなんて玲姉の口に合わないんだろうけどさ。


「この家には地下に訓練場があったんですね。知りませんでした。とても広いですから結構使っていないと分からない場所も多いですね」


「博物館みたいなレアなモノが置いてある場所もあるんだよ~。1階より上の物は大抵模造品だからさ~」


「そうなんですね。一度見て見たいものですね」


「どっちかって言うとさぁ、成金趣味みたいなのが多いからあたしはあんまり行きたくないかなぁ。しゃちょーの許可が無いと入れないからあたしの一存じゃそもそも決められないけどね」


 まどかの「しゃちょー」と言うのは僕の父上の事である。未だにまともに呼んでもらえていないのだ。


「あ、そうなんですね」


 まどかと島村さんに半ば引きずられながら訓練場に拉致される。まどかの言う「しゃちょー」とは当然父上である虻成のことだ。だからこそ島村さんはそれを悟り顔を曇らせた。


「くっ! 人権団体は何をやっている! 僕を助けろ!」


「お兄ちゃんに人権なんてあるわけないでしょ。さぁ行くよ」


 まどかや島村さんの扱いがあまりにも雑過ぎるだろ……。


「プッ! 女の子に引きずられるだなんて虻輝様らしいですね」


 烏丸が相当笑いを堪え切れないようで口を押えていた手からすらも唾が噴き出る始末だ。


「おい、烏丸。笑いこけてないで助けろよ!」


「えー、それは無理ですよぉ。虻輝様はご存じ無いかもしれませんけど、僕もたまに玲子さんから武術を教えて頂いてますからね。下手なことはできませんよ」


「ま、マジかよ……つまりこの家で鍛えていないのは僕だけだったのか……」


 皆で訓練場に到着する。倒れても怪我しにくいように衝撃吸収のマットが敷かれている他、玲姉の本気の攻撃にも耐えられるような頑丈なつくりの地下構造となっている。


「玲子さんから言われているのはこれです」


3本ラインが既に持ってきてある。僕は愕然とした。朝の悪夢が早くも現実になったのだ。


「うさぎ跳びをしながら反復横跳びだって! 手っ取り早く体力作りするにはこれだってお姉ちゃんが言ってるよ!」


 玲姉昔からマジで反復横跳び好きだよな。おい……死ぬぞガチで……。


「ま、待ってくれ! 高校の体力測定ですらあらゆる分野で下から数えたほうが早い僕がそんなことをしていたらオワル……」


 うさぎ跳びも反復横跳びも片方だけでも相当辛いというのに……。


「じゃぁ、反復横跳びね! どれぐらいの基礎体力なのかまず見ておかないと!」


「私が点数を測定しますね」


「おいっ!」


 全くもって話を聞いてくれない2人。強制的に3つのラインの所に僕は連れていかれる。


「はじめっ!」


そして競技開始から20秒後。たった20秒だったはずだったが途轍もなく長く感じた。


「やめっ!」


「はぁ……はぁ……グハッ……」


 僕は無様にも地面に頭から倒れこむ。最後の方は意識が朦朧として酸欠状態になっていた。


「えっと……18点です。玲子さんが持ってきてくれた資料によりますと大体高校3年生男子の平均は53点とかみたいですよ。これは年々低下傾向にあるみたいですがそれにしても酷いですね……」


「プッ! 1秒に1点以下って!」


 まどかや烏丸はまたしても吹き出している……。もう馬鹿にされるのも慣れてきてしまった……。


「採点方法は、それぞれ線に触れていないと得点には加算されませんからね。後半の方は、ラインを踏んでいなかったのでほとんど点数としてみなしませんでした。

 まぁ、それらをちゃんと踏んでいても30点ぐらいだったと思いますけどね。ちなみに高校3年生男子の最低評価“1“は29点以下ですから全部加算してあげてもほとんど最低評価です」


 まどかや烏丸みたいに爆笑されるのも嫌だが、淡々と島村さんが事実を並べていくのも結構メンタルにクルものはある……。


「ま、まぁある程度は分かっていたけどね……データとして実際に言われるとそれはそれでね……」


 乾いた笑いしかもう出てこない。これである程度戦力になるまで鍛えろという玲姉の発想がもう分からん……。

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