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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第2章 悪夢の共闘

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第36話 待ち伏せ

 車を降りると小走りで玄関に向かう。1秒も時間は無駄に出来ない。


「ただいまー! 虻忠起きてるかー?」


 セキュリティを解除し、家の中に入ると、笑顔で虻忠がリュックを背負ってスキップしてやって来た。


「アニキぃ! 俺も連れて行ってくれるなんて嬉しいようぅ! もう筋肉痛でアチコチ痛くってさぁ。それで今週のアニメだけどさ、凄いんだぁ!」


 またアニメの話か……と思って頭を抱えた。


「後で車の中でジックリ聞いてやる。今は僕の準備をさせてくれ」

 玲姉のカンの良さは、周りの思考が流れてくることもあって人類の常識を超えている。僕の考えていることは透けていると考えていいだろう。モタモタしているうちに何かに感づいて追いつかれないとも限らない。


「ふぅ、これで完了。よし、玲姉に感づかれる前にここを出るぞ」


 僕は大会優勝記念の貴重なグッズなどをバックに入れて虻忠の方に振り返った時だった。


「ア……ニキッ!」


 虻忠の体がグラリと倒れ、僕の足元で力尽きた。一瞬で気を失ったようだった。


「こ、これは……」


 その静かな手際良さ、何が起こったのが瞬時で察知した。


「ふぅ、追いついたわ~」


「ば、馬鹿な……その声は!?」


 毎日聞いているその声の主はここにはいないはずの――。


「輝君の考えなんてお見通しなんだからね。何年一緒に暮らしていると思ってるの?」


 更に後ろを振り返ると、先ほどまで何もなかったところからいつも通りの優雅な動きで姿を見せたのは玲姉だった。


 目の前の出来事を視覚上では理解してはいるのだが理解が追いついておらず完全に凍り付いた。この家のセキュリティもそれなりのモノのはずなのに全く作動していない。完璧に掻い潜ってきたかと思うとヘタなホラーよりも恐ろしい。


「これなら、欲を出さずに直接ヘリポートに向かった方が良かったか……」


「あら、ここが一番繰る確率が高いとは思っていたけれども、念のためにいつものジェット機があるところならまどかちゃんを向かわせたし、クルーズ船の港の方には知美ちゃんを向かわせたわ」


 僕は膝をつき頭をがっくりと下げた。


「か、完敗だ。全てお見通しだったのか……」


「輝君があれぐらいで言うことを聞いてくれるとは思わなかったからね。特に自分の体を動かすことになるとどうしても逃げたがるからね。ホント、昔から変わらないわよね~」


「人には向き不向きがあると思う。僕に体を鍛えろというのは軟体動物に腹筋をさせるぐらい生産性の無いことだ」


「私はそうは思わないけどね~。あと軟体動物にも筋肉はちゃんとあるから鍛えることには意味があるわよ」


「えっ、そうなの!?」


「ちょっと人間の筋肉とは構造的には違うみたいだけどね。だから輝君も鍛えれば必ず良くなるわよ」


 僕は会話をしながらチャンスを窺っていた。そしてついにその時は訪れた。

玲姉が疲れもあってか気を緩めているような雰囲気を感じたのですぐさま立ち上がって玄関に向かった。それと同時に家の中にあるセキュリティを起動するスイッチを押す。警備ロボットが5体天井から出てきて玲姉に襲い掛かった! 


「あっ! 待ちなさいっ!」

 

 警備ロボットと玲姉が戦い始める。あんなのが玲姉相手に勝てるはずもないが、少しは時間稼ぎをしてくれるだろう。

 残念ながら虻忠は可哀想だが僕では運べない。今後もボランティア頑張ってくれ……と一瞥しながら思った。


この際、どこへでもいい! 虻利の資産力をなめるな! ホテルを転々としてでも逃亡生活をしてやる!


「美甘!」


 飛行自動車に向かって全力疾走して転がり込むように乗り込む。


「ど、どうしたんですか。そんなにも慌てて」


「は、早く車を出せっ! 玲姉が待ち構えていたんだ!」


「虻忠君はどうしましょう!?」


「アイツはもうダメだ。1秒でも早く出ないと追いつかれる!」


 ドアを閉めてシートベルトをすぐさま締める。搭乗者がシートベルトを締めないとアクセルを踏めない仕様になっているからな。


「本当ですか!? どこへ行きましょう?」


「ヘリポートにはまどか、横浜には島村さんが待ち構えているらしいから愛知にでも逃げるぞ! あそこの名古屋城の付近には隠れ家があったはず」


「分かりました!」


 宙にあがり、車が急発進をしようとしたその時だった!

 ドーン! という衝撃が背中の方がからすると共にキュイーン! キュイーン! と車の警告音がけたたましく鳴り響く! 軌道がガクリと崩れ斜めになりながら地面に向かう! このままだと墜落する!


「き、緊急脱出だっ!」


 ジェル状のエアバックが出てきて僕たちを包み込む。墜落寸前に脱出し、びしょ濡れにはなったが10メートルほどの高さから落ちた割には無事で済んだ……。


 その後にドーン! という音が鳴り車は火に包まれたが虻利邸からの自動的に消火装置が周囲から作動していき、一気に噴射! 車の火は瞬く間に鎮火されていった。


「はぁ……はぁ……美甘。無事か?」

 

僕は少し這うようにして移動すると火災からは安全圏に来たと思い倒れこんだ。


「だ、大丈夫です……」


 美甘も同じような体勢で倒れている。虻利の最新鋭のジェルエアバックと危機管理装置などのお陰で美甘も無事で済んだようだ。


「まったくもぅ。世話が焼けるんだから……」


 玲姉が優雅な足取りでやってくる。これはどう見ても玲姉が墜落させたのだろう、もう説得ができないとなれば容赦なく実力行使をしてくる。ある程度のセキュリティなどを計算に入れての飛行自動車の撃墜行動なのだろうからそれもまた凄い。


「こっちも命懸けなんだよ……」


「いや、その情熱を鍛える方に注ぎなさい。方向性が間違い過ぎているわ……」


 玲姉は僕たちを見下ろしている。いつもの大きな瞳は細くなっており、蔑んだ眼差しでとても冷ややかだ……。


「れ、玲子さんすみません……私が説得しても多分聞かないので虻輝様を自由にさせてしまいました」


 美甘は玲姉に伏せながら謝っている。


「頭を上げて美甘さん。輝君が悪いんだから仕方ないわ。あなたは雇われているだけだもの。雇い主の言うことを聞くのは当然だからね」


 玲姉は経営者としての見方もできるからな……。そういったところも冷静だった。


「ふぅ……しかし、帰りはどうするかな。足も失ったことだし電車はまだ動いてないし……」


「そんなの決まっているでしょ~走って帰るのよ~」


「う、ウソだろ……ここから家まで20キロはあるぞ……。あーよく考えればここも自分の家だったわ。今日はここでゆっくりする――」


「この家を粉砕してもいいのよ?」


 玲姉は笑顔で殴るポーズをした。先程の車のように粉砕されるのは間違いない。有言実行なんだから間違いなくやるぞこの人は。


「いえ、走って帰らせていただきます」


 この家だって別邸とはいえ30億円ぐらいしたはずだ。父上に流石に怒られる……。まぁ、この車も数億円するはずだから結局怒られることにはなるだろうけど(笑)。


「抵抗する輝君を従順にさせた瞬間がたまらないわね……さぁ、私が後ろから見ているから逃げることは許されないわよ」


「ひぃぃぃぃぃぃ!」


「では、虻輝様。私は事故の事後処理や新しい飛行自動車の購入をしておりますので失礼させていただきますね」


 美甘がそう言うとサッと立ち去ってスタスタと歩いていく。


「み、見捨てないでくれー!」


 僕の声は全く届いておらずどんどん美甘離れていく。いや、聞こえているのに聞こえていないフリをしているのだろう……。


「輝君。行きましょう?」


 玲姉はニッコリ笑う。その美しい笑顔は本来は一種の癒しのようなものを感じるのだろうが、僕には天使の皮を被った悪魔にしか見えない。時刻はまだ朝の4時50分。今日も一日は長くなりそうだ……。

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