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ディストピア生活初級入門(第5部まで完結)  作者: 中将
第2章 悪夢の共闘

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第33話 美人の全体主義

 こうして為継と会話をしながら家に戻ると島村さんが既に戻っていた。


「ただいまー。知美ちゃぁ~ん! 疲れたよ~」


「まどかちゃんお帰りなさい」


「島村さん。ただいま」


「……」


 まどかと同じように挨拶をしたはずなのに、島村さんの中では相変わらず僕は存在していないことになっている……。

 しかし、今朝に比べれば幾分顔色が良くなったように見える。そもそも何に悩んでいたのかは分からないが、玲姉のメンタルケアが成功したのだろう。僕たちの窮地にも助けに来てくれたし流石は玲姉と言わざるを得ない。


「あ、2人ともお帰りなさい。夕食の準備まであと少しなんでもうちょっと待ってください~。まずはお茶を淹れておきますね」


 烏丸が出てきてそんなことを言ってきた。気が付けばもう18時になろうとしている。僕の休日はあっという間に消化されていった……。

まぁ、ちょっとの隙を見つけては次のeスポーツ大会に向けた特訓はしていたから問題ないと言えば問題ないけど(笑)。




 まどかと島村さんが楽しくリビングで会話をしている。僕も2人の横でゲームはしているが玲姉が戻るまでの間、部屋に戻ってはいけないような雰囲気になったのでとりあえずここにいるという感じだ。ダイニングテーブルは新しくなっていたが、印象としては前とそう変わらない細長くてクリーム色だった。


「烏丸君ったら面白いんですよ。面白おかしく虻利家のことを説明してくれて」


 そんな声がこちらにも聞こえてきた。


「ほぉ、烏丸もたまには役に立つな。このまま是非とも島村さんを引き取ってくれよ」


 と、僕は烏丸が通りかかったときそんなことを言った。

僕は玲姉の謎の僕と島村さんのカップリング作戦の前に精神的にズタボロになりそうだ……。


「え~、玲子さんに逆らうと無事では済みませんからねぇ。

僕も命は惜しいんで遠慮しておきます。あと、島村さんは素晴らしい方とは思いますけど、僕の趣味ではないんでねぇ」


 と、烏丸はアッサリと断ってきた。烏丸も一体どういう女趣味しているのかは不明だ。とにかく、玲姉を説得できる気がしないし、どうしたものかな。島村さんは背も高いし思わず振り返って見返すほどの人目を惹くような美少女だ。しかし、そんな美少女と一緒にいることが多いのにこんなにも憂鬱になる人間も少ないだろう……。

 



 18時半になって玲姉が帰宅する。一通り労いあった後、食事に入り、その後団欒タイムになった。今日は烏丸の得意な鳥肉料理だった。


「ところで、今日は2人でどんなことをしてたの?」


 僕は玲姉に聞いた。島村さんの顔色が良さそうなのを見て何を話したのか一端だけでも聞きたいと思った。


「まずは知美ちゃんのお洋服を選んであげたわ」


「ふぅん」


 島村さんを見ると確かにこれまでのどちらかというと地味な感じの服装から少し華やかな感じの服になっている。それも玲姉のセンスのなせる業だろう。


「その後は、輝君が不甲斐ないせいで破壊されたダイニングテーブルを買いに行っていたのよ」


「うぐっ……テーブルの件は本当に済まなかった」


 しかも僕が弱すぎることとまどかを騙し討ちして勝とうとしたことが原因なんだからそれ以外の言葉が出ない。


「その後知美ちゃんと喫茶店で語り合っていて、それが結構夢中になって話し合ったのよ」


「ほぉ、いったいどんなことを話し合っていたのさ」


「私と知美ちゃんは“正義”とは一体どういうことなのかについて語り合っていたのよ」


 ちょっと聞いただけでハッキリ言ってうんざりしそうな内容だ……。


「へぇ……2人とも流石僕とは出来が違うねぇ。悩んでいることのレベルが違い過ぎるよ」


「そう言えば輝君の“正義”とは何かしら。ちなみに私たちは“社会全体として見た総合的な正義“を成しえているかどうかで判断するということで納得したのだけれども」


 安易な答えをすると怒られそうなのでちょっと真剣に考えた。


「そうだねぇ。自分がやっていて“気分がいい”と思えることが“正義“かなと思えるね。ちなみに少し前までは”正義“だと誤魔化しながらやっていたのでハッキリ言って気分が悪すぎた(笑)」


「……意外とそういう単純なことなのかもしれませんね」

 

 島村さんが珍しく僕の声に反応した。


「お兄ちゃんらしいね! でもあたしもそれに近い感じがする。良いことしたときって気持ちがいいもんね~」


「ゲッ! まどかと感覚が近いとか……」


「ちょっとぉっ! どういう意味だよっ!」


 まどかが飛び掛かってくる。いつも通り一通りもみ合った後、玲姉が止めに入る。


「今は真剣な話をしているんだから、後にしなさい」


「はい……」

 

 僕たちは小さくなって自分たちの席に戻る。笑顔でキレてるんだからヤバい……。


「それより、知美ちゃん。これからは輝君と真面目に会話しなさいね。

さっきの約束覚えているわよね? 結局、まともに会話になっていない気がするんだけど?」


「そ、そうでしょうか……」


 玲姉の圧力が島村さんにかかる。島村さんも玲姉には弱いからかなり小さく見える。


「島村さんは結構露骨に挨拶してくれなかったり目線を合わせなかったりするからなぁ……」


 島村さんにも結構精神攻撃でもやられてきたので、ここは追撃してやろう。


「やっぱりそうなのね。知美ちゃん、まずは挨拶からしっかりやりましょう? 輝君だって自分を変えようと必死に色々とやっているんだから。良いところは評価してあげないと」


「そ、そうですね……ス、スミマセンデシタ……」


 とんでもなくぎこちないが僕に対して頭を下げて謝罪してきた。


「僕の方もご家族に対しては本当に虻利家が申し訳ないことをしたと思う。必ず君の家族を再開させて一緒に暮らせるように努力しよう」


 僕の方からも頭を下げた。島村さんが僕のことが嫌いなのは間違いなくココだと思うからね。


「なら、仲直りの握手……ね?」


 僕たちは顔を上げると、一瞬島村さんは戸惑ったが最終的には右手で握手をした。島村さんはぎこちない笑顔を浮かべている。僕もきっとそんな感じの笑顔だろう。


「その……島村さんに冷たくされて結構辛かったんだ」


 島村さんの手は軽く握られているだけだが結構硬いことが分かった。相当、弓道を極めたのだろう。マメが物凄く厚い部分が存在した。


「そうだったんですか? 玲子さんやまどかちゃんがいるじゃないですか」


「別に玲姉やまどかは僕の姉妹だからな。それに結構手厳しいことには変わりないしあんまり癒し効果は無いからな(笑)」


 玲姉とまどかの方を見ると2人とも何とも言えない表情で笑っている。


「輝君のことを想って心配しているんだからそういういい方は無いんじゃないの~」


 また島村さんのほうに向きなおる。握手は気が付けば解除されていた。


「玲姉が何を考えているのか分からんが、とりあえずはコンビを組まされているんだし、それなりに仲良くやっていこうじゃないか?」


「そうですね……」


 本当はコンビを組まないのが一番精神衛生上良いんだがな……。玲姉は苦手をわざわざさせるタイプの人間だからそういっても全く無駄なわけ何で抵抗する気力も起きないが……。


「あと、僕のこと名前で呼んでくれたこと一度も無いんだけどそこのところも何とかならないかね?」


「……そう言えばそうですね。あまり呼びたくは無いですが“あなた”とか言うのも何だか嫌な感じがしていたので今後は“虻輝さん“そうお呼びします……時折ですが」


 おお、なんという待遇改善! 多分だけど“あなた”とか言うのも夫婦で呼び合うみたいな感じを連想しているのかもしれない。かなり語気が強い言われ方ばかりだったので別にそんなことを感じたことは一度も無かったわけだが(笑)。


「それじゃぁ、早速呼んでみましょうか」


 玲姉が音頭を取ってきた。


「え……あ、虻輝さん」


「ま、まぁ時折でいいよ本当に」


 何故だか知らないが結構照れ臭く感じた。コスモニューロンを開き誤魔化す。緊急通知は存在せず過去の重要連絡事項を再確認した。


「そういえば今日は追加の依頼が無かったな。流石に明日は土曜日だし流石にもう来ないだろう……そういや正平やカーター達は相変わらず大学内の掃除をしてたの?」


 まぁ万屋の依頼だなんて土日もあんまり変わらない気もしないでもないので希望的観測に過ぎないが……。


「ええそうね。人材が足りなかったから忠君も駆り出しておいたわ」


「へぇ、虻忠は僕レベルで外に出たがらない奴だけど一体どうやって外に出させたんだ?」


 末の弟である虻忠はどっちかって言うとアニオタな感じのインドア派だ。

僕はゲームをやりながらさらりとアニメを見る程度だが、虻忠はとにかくアニメの歴史から何まで語りだすタイプの奴だ。

 僕もその熱意を買って聞いてあげるだけのことはしてあげているが虻忠の話の内容は何も入っていない――玲姉からしたら僕と別方向での問題児と思っていることだろう(笑)。


「そうね。忠君が好きなアニメグッズを燃やすと言ったら、涙を流しながら直ぐに言うことを聞いてくれたわ」


「玲姉、それは脅迫というのでは……」


「何か言ったかしら?」


「いえ、何でもないです」


 聞き流してくれているだけで有難いと思わなくてはいけない……。


「私は輝君や忠君のためを思ってやっているのだからね? 保護者としての立場もあるんだから心配して色々してあげるのは当然なんだから」


「あの、玲姉はご存知でしょうか。僕はもう来年2月で20歳です。成人年齢の18歳をもう過ぎていまして、すでに保護者はいらない年齢なので……」


「輝君はまだまだ精神年齢は子供よ。社会的適応能力が無いんだから。私の言うことを聞いていればいいの。分かる?」


 玲姉がゼロ距離まで迫ってくる。ビックリするぐらいその息は甘かった。


「はい……」


 誰も逆らえる気配が無いのが恐ろしい。この部屋には虻利家の支配とは違った玲姉を筆頭とした全体主義社会がここにはあった。ただ、玲姉は美しいし、賢いし、言っていることは真っ当だ。だから強制させられてもそこまで嫌な気分にはならない。

――そうなってくると真っ当であることとプラスでとんでもない美人であることが言われている側としたらかなり大きく影響を受けている気がしなくもない……。


「しかし今日は玲姉が来てくれなかったら一巻の終わりだったよ。思ったよりもずっと早く来てくれたし本当に助かったよ」


 その僕の発言を聞いて玲姉はニッコリと笑った。この笑い方は美しいが何か悪い予感をさせ背筋がゾクリとしてきた……この感じの予感は外れたことは無い。

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